2018年10月4日 第40号

 無排卵…文字どおり“排卵がない”ことを示す言葉です。初経よりも前の時期や閉経後の時期は排卵がありません。これらの時期は“生理的無排卵”と呼ばれ排卵はないものの、病的な状態と見なされません。初経を迎えて以後、生理が順調に発来していたものが周期が乱れてしまい基礎体温を測ってみたら低温相ばかりで高温相が見られないと言う方が無排卵の典型的な例かもしれません。或いは、全く生理の発来が見られなくなってしまった方や、断続的に不正出血が続くために、医療機関を受診して無排卵の診断を受けられた方なども居られます。様々な症状を示しますが、これらは“無排卵”に起因します。

 それでは“ 無排卵になる原因は一体何だろう” “どんな時に?”と思いませんか?多分皆さんも思い当たる事が有るかと思います。振り返って思い返してみましょう。そういえばあの頃は物凄く忙しかったなぁ。毎日夜遅くまで頑張っていたなぁ。精神的なストレスも並大抵のものでは無かったなぁ。たまに早く家に帰っても何か落ち着かなくて…眠ろうとすると反対に頭が冴えて眠れなかった。食欲が無くなって体重が相当落ちたな。など等、様々なキッカケや、思い当たる事が有るかも知れません。複雑な現代社会では、精神的、肉体的なストレスは増すばかりと言っても過言ではないと思います。

 ある日ある時とても強烈な衝撃やストレス、ショックを受けたと仮定しましょう。とても大切にしていた物を紛失してしまった、この上なく大切で掛替えのない人に不幸が訪れた、など精神的に良くない環境(陰性環境・陰性感情)に陥ったとき、きっと貴女は落ち込んだり、不安定な精神状態になったり、あるいは食欲も一気に低下してしまったかもしれません。これらの心因性無月経や極端な体重制限や食物を食べたくても食べられない食思不振症などは現代社会とは関連が深いと言わざるを得ません。

 しかし、ストレスに起因するものばかりでなく乳汁漏出性無月経と呼ばれる疾患群(赤ちゃんを産んだ訳ではないのに乳汁が分泌され無月経を伴う疾患群)が有ります。その中でも血中のプロラクチン(乳汁を分泌するホルモン)濃度が高くなる高プロラクチン血症がよく知られています。原因はホルモンの失調ですが脳内の腫瘍による事もあります。しかしそれ程頻度の高いものではありませんので、一応知識として知っておかれたほうが宜しいかと思います。他にも薬剤によっては乳汁分泌と無月経を来たす事が有りますが、そのような場合は主治医と良く相談をなさる事を是非お勧め致します。貴女の相談に快く応じてくれます。そうして貴女と一緒になってより良い解決法を見出してくれますから、必ず相談してみましょう!!

 ここまでお話を進めて参りますともうお判りでしょうが “無月経は1 つの症状であってその原因は多岐に及ぶもの”なのです。時には冗談めいて “生理が無い方がメンドウがなくてカイテキ”などと仰る方もおいでになりますがどうか早いうちに治療をお受け下さい。無月経の診断はここにお話した疾患ばかりでは有りません。時によっては大掛かりな検査が必要な事が有りますし、ホルモンを与える事によって貴女の御自分のホルモン環境を整えて本来、貴女の持つ機能の回復を導いて行かなければなりません。そのためには結構時間がかかる事も有るのです。

 “そのうち治る”と思いがちですがこれからの人生を考えてみて下さい。医療機関の方々は貴女の健康を心の底から願っているのです。勇気を持って相談してみてください。きっと明るい未来が開けますよ!絶対に!

 


杉原 義信(すぎはら よしのぶ)

1948年横浜市生まれ。名古屋市立大学卒業後慶応大学病院、東海大学病院、東海大学大磯病院を経て、杉原産婦人科医院を開設。 妊娠・出産や婦人科疾患を主体に地域医療に従事。2009年1月、大自然に抱かれたカナダ・バンクーバーに遊学。

 

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これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。