BC州日本語弁論大会、25年間の歴史を振り返れば、その年々で変わる日本の姿が、如実にテーマの設定や日本語入門の動機の移り変わりに反映されているという。開会の挨拶のなかで実行委員長の大前典子(SFU)氏は、「スピーカー個々のテーマ設定が日本の状況や文化の違いで、毎年変わっていることにたいへん興味深いものがあります。今年はどんなお話が聞けるだろうと興味津々。プレッシャーもあるでしょうが、スピーチすることを楽しんでください」と、雰囲気を和らげてスタート。

◉ 高校部門 ◉

まずは、高校の初級部から。スタートは「オタクの人生」を主題にしたエレン・チュアンさん。日本のアニメ、まんがに魅かれ、もっと深く知りたいという動機から、日本語の勉強を始めた。すなおな性格、やさしいオタクたちにご理解を、と持論を展開した。次は「ひげそり」という題のアンディ・キムさんの父子の心温まる話。お父さん一人が韓国に残り、お母さんも同行してアンディさんはカナダへ留学。その間、彼のひげが伸び始め、お父さんが来るのを待って、初めてのひげそりをしたエピソード。高校初級部の第2位を獲得した。そして、「ギャル文化」。ケヤ・リさんがはじめて渋谷に行ってギャルたちのファッションを見た時の衝撃。それ以来、のめりこみ、楽しんでいる。日本をリードするファッションになるだろう、という「ギャル文化」論。特別賞を受賞した。
初級部の1位を獲得したのは、ジェニー・パークさんの「小さい手紙」。「ソイちゃん」という引っ込み思案の女の子に韓国語を教え、少しずつ心を開かせていき、自分と姉妹のようになり、お別れのとき、ありがとうの小さな手紙をもらった、それが宝物というジンと胸に迫るエピソード。会場では目頭をおさえる人もいた。
中級の部での1位は、「困難を乗り越えて」と題してスピーチしたウイリアム・クイアンさん。2年前、中国から、お母さんといっしょにやって来て、英語がわからず、二人とも苦労を重ねながらも、今は幸せ。あの苦労は一生に一度の宝物と胸を張った。また、近年の日本と中国の政治的なギクシャクとした関係について率直な思いを述べたエリック・リンさんの「平和にむけて」が2位に、さらに3位に入賞したのはエバ・キウさんの「日中友好のために」。いずれも自分たちなら、もっと仲良くなれると、アピールしているようだった。
オープンの部では、1位が「勉強の大切さ」と題したケビン・エスピグさんのスピーチ。微分、積分が何のためになるのだろうという素直な問題提起から始まり、勉強は人脈を広げ、理解力、分析力が困難を乗り越える力になる。やらずに失敗するより、やって失敗したほうがよい、と結論付けた。2位はテエリア・ヤンさんの「中国人をやめたくなった日」。先の中国国内で起きたジャパンパッシングのことを率直に批判し、今後のことを建設的に提言していた。

◉ 大学・一般部門 ◉

大学・一般の部門、初級の部の1位はクナル・モージャニさん。「ピアノ教師・・ただ座っているだけではありませんよ」と題し、自分の仕事について、忍耐力と、ビジネスセンスが要求されることを、ユーモアたっぷりにアピールし会場を和ませた。2位は、ビオラ・リさんの「私の履歴書」。両親といっしょにカナダへ移民後、香港のインターナショナルスクールで、日本語に出会った。その後、バンクーバーへ戻り、英語を学んでいる。中国語、日本語、韓国語、英語のできる言葉でつなぐ世界の看護婦になりたい、という希望を語った。3位は、スリン・ジュンさんの「偏見なく世界を見ましょう」。学校の先生などの日本に対する偏見はひどいものだったが、両親は日本のことをよく知っていて、偏見は悪いと、15歳のとき日本へ留学させてくれた。留学先での友達や、ホームステイ先でやさしくしてもらい、日本語を身につけた。偏見は自分の世界観を狭くする。グローバル化のなか、偏見なく世界に貢献したいと語った。特別賞は、アンデイ・トラン君の「薬の問題」。UBCで薬学を専攻している彼らしく、医者と薬局のシステムの問題を提起した。
中級の部の1位は、ジェニファー・ルジさんの「フェミニズムとわたしの生活」。フェミニズムというと過激な人もいるが、私の場合は中道。男女の所得格差は依然としてあり、特に独身母親の貧困問題は深刻。女性の経済力の向上は国家の経済力の向上につながるという持論を展開。また、人権、人間の生活向上、平等な世界づくりに取り組んで生きたいと、夢を膨らませていた。2位は、ナビラ・コウデュリイさんの「忘れかけていた自分の一部」。バングラデシュ出身の両親がカナダへ移民してから生まれた自分のアイデンティティのあり方に悩んだこと、バングラデシュの血を引き継ぎ、言葉や文化を持っている自分に誇りを持つべきと気づかされる過程をすなおに発露する姿は、モザイク文化国家といわれるカナダで共感する人は多いと思う。3位はサマー・ファンさんの「上を向いて、歩こう」。東北大震災で悲しみから立ち上がろうとする人々の姿に感動した。中国人が歴史的に日本への偏見を持っていることはわかっているが、友好的に時代を築いていける理由もたくさんある。いっしょに震災復興に力を合わせていこう!というメッセージであった。
上級の部の1位は、ビビアン・ヒさんの「移民であることを大きな声で」。韓国から移民してきた当初、英語ができず、はずかしさで引っ込み思案になっていたとき、ソーシャルネットワークに救われた。これにサポートと支援を結んだ、新しいソーシャルネットワークを立ち上げたい、と夢のプランを披露した。2位は、キャロル・ローさんの「おもちゃといういうのは」。最近の子どもたちが、コンピューターゲームの画面に貼り付いているのをよく見かける。これでは引きこもりが発生しても不自然ではない。人と人との人間関係、創造性を育むおもちゃの必要性を訴えた。3位は、ジョセフ・ワトソン・マッケイさんの「ひとすじのきぼうの星」。僕の人生は「ショー太さん」と出会ったことで大きく変わった。日本語が下手でも励ましてくれたので、希望という名の星を見つけることができた。そんな星が集まって輝く星座を作りたいと語った。
オープンの部の1位は、スティーブン・シバタさんの「人生の雑草」。子どものとき、庭の雑草取りをやらされた。嫌だったが、終われば達成感の喜びがあった。中学生のとき、日本に行き、見かけは日本人だが自分の話す言葉は日本語でないことで悩んだ。カナダへ帰り、日本語を学んだが日本での経験はかけがえのないものだったように思う。昔やった雑草取りの後の達成感のように、問題の先に宝物がある、と人生訓を披露した。2位は、オルガ・タラセンコさんの「私の人生を変えた小説」。ウクライナで翻訳の村上春樹の小説を読み、日本語に興味を持った。バンクーバーへ来ても日本語の勉強を続け、同時にダンサーになることを夢見ている。私の人生は小説で日本語に導かれたと語った。3位は、ケイジ・セキグチさんの「涙のディズニーランド旅行」。東京ディズニーランドで、乗り物が暗いトンネルに入る4歳のときの恐怖体験がずっとトラウマとなっていたが、今はすっかりなおり、また行きたいと思うようになった。時間は、悪い思い出も良いことに変えてくれると話した。

熱弁に、日本語のうまさに、
日本への関心の高さに感心しきり!

閉会の挨拶に立った在バンクーバー日本国総領事の岡田誠司氏は「25回を迎えたBC州日本語弁論大会は、日本語、日本文化の普及にも大きく寄与してきました。いま、現代日本の文化として注目されるポップカルチャーも日本語への興味を高める要因となっていることをスピーチの中から感じました。この弁論大会をさらに続けていけるよう皆様のご協力をお願いします。なお、今回の大会の実行委員をしていただきましたSFUの大前先生、UBCのキム先生に心から感謝申し上げます」と、感想と関係者への謝意を表した。
高校の部の選考を担当したベイリー智子氏(JALTA)は、選考委員を代表し、「たいへん驚きました。スピーチの内容に工夫があり、思わず笑い出したくなるもの、ジーンと胸に響くものありで、すばらしいできでした。発音については、アクセントが日本語と皆さんの国の言語と違うところがありますので、その点を注意して練習にはげんでください」。  大学・一般の部の選考を担当した伊藤郁子氏(UBC)は、選考委員を代表し、「粒ぞろいでした。選考がとても困難でした。ストーリーがすばらしく楽しい時間を過ごしました。私達が普段知りえないようなそれぞれの国の国民性など、有益な知識を披露してくれたり、インテリジェンスの高さにとても感銘を受けました。ありがとうございました」。

総評をしたUBC教授のジョシュア・モストウ氏は、「25回目のBC州日本語弁論大会おめでとうございます。私は、選考委員としては10年前に経験して以来のことですが、皆さんのレベルが高くなっているのに驚きました。UBCの日本語学は、BC州でも中心的存在で、日本語、日本の歴史、文化、経済を学んでいて、その人気は高まっています。これからもさらにがんばってください。すばらしい日頃の成果を披露してくれてありがとう」と感謝の意を表して、25回BC州日本語弁論大会が幕を閉じた。

 

(取材 笹川守)

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