自分のスペース、交流の場、安全、故郷の味など、人それぞれ住まいに求めるものは違うだろう。高齢になると、それに加えて医療施設に近いことなども重要になってくる。今回のセミナーでは、隣組でコミュニティサービスを提供する知保里さんと8人の参加者が、和やかな雰囲気の中、BC州のシニア向けのハウジングについて話し合った。その内容の一部を以下に紹介する。

シニアの住宅の種類

老人のための住まいといえば、介護施設を思い浮かべるかもしれない。しかしBC州の「シニアハウジング(シニア住宅)」は実に多彩だ。大きく分けるとシニア住宅には、独立生活のための住宅と介護生活のための住宅がある。

独立生活(Independent Living)

シニアの独立した生活を支えるため、政府機関はさまざまなサービスを提供している。困った時の解決策として、セミナーの中ではSAFERやHAFIが紹介された。

SAFER 家賃の援助

SAFER(Shelter Aid For Elderly Renters)は、低所得のシニアの家賃の援助するBCハウジングのプログラムだ。収入と家賃の差額の30%から90%を援助する。該当条件は、① 60歳以上、② 申請直前に12カ月以上BC州に居住、③ カナダ市民権あるいは永住権保持、④ 総収入の30%以上を家賃として支払っていること。その他、収入や家賃についての条件などもあるため、詳しくはBCハウジングのウェブサイト(www.bchousing.org)を参照しよう。

HAFI家を改修するための援助金

たとえ住居はあっても、障害や高齢のために住みやすくしようと手すりをつけたり段差をなくしたり、必要に応じて住居を改修する費用の負担は大きい。BCハウジングの提供するHAFI(Home Adaptations for Independence)は、低所得のシニアが独立して住めるように住宅を改修する費用を援助するプログラムだ。テナントが条件を満たす場合は、賃貸物件の貸主も利用できる。
独立生活をするシニアのための住宅には、どのような種類があるのだろうか。セミナーではこれらを独立住宅、リタイアメントホーム、介護付きアパートの三種類に分けて、知保里さんがそれぞれの住まいの特徴をわかりやすく説明した。

独立住宅(Independent Housing)

まず独立住宅とは、シニア向けの公的住居や非営利団体経営のシニア住宅、コープ・ハウジングなどの住まいのことだ。

BCハウジング シニア向け公的住居

一定の非営利団体・共同住宅への申し込みは、BCハウジングを通じて行うことができる。これらはSubsidized Housing(SH)やSenio's Rental Housing(SRH)と呼ばれ、家賃は多くの場合、収入の30%あるいは低額だ。該当者は55歳以上で、カナダ市民権または永住権保持者。独立して生活できることも条件だ。最高収入額や財産に関する規定もあるため、申請する前に詳細を確認する必要がある。また、入居までにかかる期間は申請者の状況によって異なるという。入居の必要性が高くないと判断されれば、25年待つことになるかもしれない。逆に、ホームレスになる可能性があるなど、必要性が高いとみなされればすぐに入居できる場合もある。入居できることになったが、実際に住居を見ると気に入らないなどの理由で二回断ると、申請が取り消されてしまうので注意しよう。

非営利団体経営のハウジング

BC州には、BCハウジングを通じては申し込めない非営利団体経営の住宅も数多くある。これらについては個々の団体が申し込みを受け付けているので、それぞれに申請する必要がある。こちらも、家賃は収入の30%または低額であることが多い。注意すべきことは、一度申請して安心をしないこと。申し込みの数はとても多い。知保里さんはセミナーの中で「連絡を待つだけでなく、何度も問い合わせて入居したいという意欲を見せることが大切です」と話した。ちなみに、バーナビーにある「新さくら荘」は非営利団体の日系シニアズ・ヘルスケア住宅協会が運営するハウジングであり、このカテゴリーに含まれる。

コープ・ハウジング(CO-OP Housing)

コープ・ハウジングとは、住民によって管理されている会員制の住まいだ。住民が入居希望者のインタビューを行い、テナントを選択する。庭の管理やインタビューなど、その住宅の管理に関わるボランティア活動をすることがそこに住むための条件だ。家賃は住宅によって異なり、家賃援助がある住宅もある。

リタイアメントホーム(Supportive Housing)

リタイアメントホームとは、食事、掃除、リクリエーションなどのサービス付きの老後の住まいのこと。リタイアメントホームには公営と私営があるが、ほとんどは私営だ。家賃は公営のものだと収入の約50%だが、私営の場合は物件によって大きく異なる。サービスが充実した高級ホテルのようなリタイアメントホームもあり、この場合当然家賃は高くなる。

介護付きアパート(Assisted Living)

介護付きアパートでは、必要に応じて入浴、身支度、投薬などのサービスを受けることができる。しかし援助は必要でも、基本的には独立して生活ができる人を対象としている。日系シニアズ・ヘルスケア住宅協会運営の「日系ホーム」も、介護付きアパートだ。家賃は公営で収入の70%、私営はさまざまだ。公営の場合、入居申し込みのためには保健局によるアセスメントを受ける必要がある。

自宅で受けられるサービス

また、住居を変えなくても、日常生活の中で必要なことができなくなってきた時には、自宅でサービスを受けることもできる。食事、清掃、洗濯などの家事援助や送迎サービス、医療関係者の訪問など、BC州には多様なサービスがある。今回のセミナーを開催した隣組も、シニア向けのランチ配達プログラムを提供している。隣組のボランティアやレストランが作った弁当を週一回バンクーバー、リッチモンド、バーナビーに住む外出が困難なシニアに配達するこのプログラムは、毎日洋食では辛い多くの日本人・日系人のシニアから好評を得ているそうだ。

保健局のアセスメントについて

公営の機関からホームサポートを受けたり、介護付き施設に入居するためには、まず保健局のケース・マネージャーのアセスメントを受けることが必要だ。バンクーバー、リッチモンド、ノースバンクーバー在住の人はバンクーバー・コースタル・ヘルス、バーナビー、サレーなどに在住の人はフレーザー・ヘルスに連絡しよう。(ただし、私営のホームサポートや介護施設には保健局担当者によるアセスメントは必要ない。)気をつけるべきことは、順番待ちが長いからといって、元気なうちに申し込むことはできないということだ。サポート・介護が必要になった時にアセスメントを受け、それからウェイティングリストに載ることになる。

介護生活(Residential Care)

独立して生活することが困難になり、日常の介護が必要なシニアは、自宅介護か介護施設への入居を選ぶことになる。

自宅介護(Home Care)

介護の支援制度(Home & Community Care)や、デイ・センター(Adult Day Services)などを利用することができる。バンクーバーには、病院まで行くのが難しい高齢者に総合的医療を自宅で提供するHome VIVE Program(Home Visits to Vancouver's Elders)もある。また、トランスリンクは一般公共交通機関を利用できないシニアに、HandyDARTという送迎サービスを提供している。通常のバスとほぼ同じ運賃で、自宅から目的地まで小型バスで移動できるという大変便利なサービスだ。これを利用するためには、まず医師からの認可を受ける必要がある。

介護施設(Residential Care Facility)

介護施設は、24時間の介護を必要とする人を対象としている。家賃は公営で収入の80%以上、私営はさまざまだ。公営の施設に申し込むには、保健局によるアセスメントが必要。私営の施設には直接問い合わせよう。また介護施設の他にBC州には病後療養所(Convalescent Care)や末期症状患者へのホスピス(Hospice)などもある。

知っておきたいポイント

シニア専用の住居への入居に関しては順番待ちが長いので、まずは普通のアパートを見つけて、SAFERの申請をするのがお勧めだ。シニア住宅への申し込みについては、BCハウジングだけでなく、個々の非営利団体へも申請しよう。介護施設の場合、最初は空いている施設に入れられるので、他に希望の施設があればその後リクエストを出して、移してもらうのが良い。

今からしておきたい準備

老いは全ての人に必ず訪れる。シニアライフを楽しく過ごすために、どの住宅・施設に入りたいかを今から調べよう。その際、Senior Services Societyのウェブサイトのシニア住宅のリストがとても便利だ。

 

(取材 船山祐衣)

 

シニア住宅のリスト

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