まず、生存中のいざという時のための計画は「自己計画」と呼ばれ、死後のための計画は「遺産計画」と呼ばれる。そして、自己計画においては「委任状」、遺産計画においては「遺言書」が重要な役割を果たす。
自己計画 (Personal Planning)
委任状の重要性
病気、怪我、障害などのために、医療・介護・金銭・法務面の管理を自分ではできなくなった時、誰が代わりにそれをしてくれるだろうか。配偶者や子供など、いざという時に自分の代理人となる人を決めよう。代理人が決まれば、次に委任状(Power of Attorney)を作成する必要がある。もし委任状がなければ、たとえ配偶者や子供であっても、自動的に代理人になることはできないのだ。
委任状の重要性
委任状がないとどうなるか
BC州の成人(19歳以上)が委任状を用意しないまま「Incapable」(自分で状況を理解したり、決断を下したりする能力がない)と診断された場合、代理人になることを希望する家族や友人はBC州最高裁判所(BC Supreme Court)に行って申請をしなければならない。そして成年後見制度(Committeeship)により、代理人になりたい人が最高裁判所に代理人として任命されると、当人は公民権(Civil Rights)を失う。また、この手続きには時間とお金がかかる。委任状を用意しておけば、代理人となる人の負担を大きく軽減できる上、当人の公民権も保護されるのだ。
また、委任状も代理人になれる人もいない場合は、「公共後見人・管財人(PGT)」(Public Guardian and Trustee)が責任を引き継ぐ。PGTは児童・青少年の後見人、信託管理や遺産管理などをする機関であるが、PGTのサービスは有料なので気をつけよう。例えば遺産管理については、遺産が5000カナダドル以上あり、その一部を手数料としてPGTに支払える人でなければ管理をしてくれない。
金銭面・法律面における委任状
永久性委任状 (EPA) (Enduring Power of Attorney)
委任状の種類はさまざまだ。まず金銭・法務面で代理を委託する場合は「永久性委任状(EPA)」が必要である。EPAではない委任状は、用意した本人に判断能力がある時には有効だが、判断能力がなくなった時には、取り消されてしまうという問題がある。例えば、元気な時に自分の銀行口座を娘に任せると記した委任状を用意していたとしても、認知症にかかり判断能力がなくなれば、その委任状は取り消される。それに対して、EPAは判断能力がなくなった後にも効力がある。
EPAは、自分の所有財産とおよその金額、自分の扶養家族への責任、代理人はEPAの条件や制限のもと自分の財産に関与する全て(遺言書の作成を除く)を代理で行えること、代理人の管理でビジネスや財産の価値が下がる可能性があること、代理人が権力を悪用する可能性があること、自分にはEPAを破棄する権利があることを理解できる人のみが作ることができる。また、弁護士や公証人に依頼し、証人の前で署名する必要がある。EPAが作成できない場合は、Representation Agreement第7条(下記参照)を作成するという選択肢がある。
代理契約〜金銭・法務 (RA) (Representation Agreement)
病気、怪我、障害などの理由で意思決定ができなくなり、金銭管理の面で今すぐ代理人が必要とされた際には「代理契約(RA)」第7条が役立つ。EPAとは異なり、RAの作成、変更、廃止にあたっては、成人(19歳以上)であれば、特別な判断能力への規制はなく、弁護士・公証人の関与も必要ではない。しかし、RAが適用できる範囲は限られており、例えば不動産の管理には、RAではなくEPAが必要だ。
医療面・介護面における委任状
BC州の法律〜医療介護同意の権利
BC州の法律では、人は皆、判断能力がある限り、ヘルスケアに対する同意・拒否をする権利がある。ヘルスケアは、治療、予防、苦痛緩和、診断、整形、そしてその他の健康を目的として行われる医療管理を含む。予診、緊急事態、予想外の状況(同意を受けた治療中に対処されるべき他の病気が見つかった場合など)を除けば、基本的には本人の同意がなければ医療行為を施すことはできない。そのため、委任状が非常に重要になる。
代理契約〜医療・介護(RA) (Representation Agreement)
EPAは金銭・法務面のみで有効なので、ヘルスケアに関する委任状としてはRAを用意しよう。まずRA第7条は金銭・法務・介護・医療面全てにおいて有効な委任状だが、介護・医療面でさらに幅広い効力があるのはRA第9条だ。第7条は判断能力がないと診断された場合にも作成可能であるのに対して、蘇生処置や延命治療などの生命維持治療拒否権などの決断を含む第9条は、理解能力がある時のみ作成可能だ。
代理人の役割
いざという時に大きな役割を果たす代理人には、誰を選ぶべきだろうか。まず、代理人として指名できる人は、19歳以上で信頼できる人。他の州や国に住んでいる人も代理人として選ぶことができる。しかし、有償介護者、医療サービス提供者、介護施設員を代理人に選ぶことはできないので注意しよう。代理の役割は、単に代理で決断を出すことではなく、本人の希望や価値観、気持ちを聞き出し、それを十分に反映できるよう尽くすことである。今から代理人とコミュニケーションをとり、自分の考えや希望を伝えておくことが大切だ。
一時的代理意志決定者 (Temporary Substitute Decision Maker)
当人の委任状がないまま、医療面ですぐに決断が必要になった場合は、医療関係者が19歳以上の家族・親戚あるいは親しい知人の中から一名、「一時的な代理意思決定者」(Temporary Substitute Decision Maker)を選ぶことになる。そのため、委任状がない場合、少なくとも一時的代理意志決定者に該当する人のリストを作っておくと良い。
医療事前指示書 (Advance Directive)
代理人を頼める人がいない、あるいは代理人がいても特定の決断を委託したくない場合には、医療介護・治療への同意や拒否を事前に指示する法的文書「医療事前指示書」(Advance Directive)が役立つ。本人が意志を伝えることができない場合、医療関係者はこの指示書を尊重して治療を行う。
生前遺言書 (Living Will)
生前遺言書(Living Will)は、医療介護のみならず、日常の介護への希望に対する自分の好み、価値観・信念を綴ったものだ。これは法的な文書ではないが、代理人・医療関係者は生前遺言書に従う義務がある。普段から自分の信念、価値観、希望について考え、書き留め、それを見つかりやすい場所に保管すると良い。
遺産計画 (Estate Planning)
人生の終焉をより良く迎えるための準備
人それぞれ、思い描く人生の終焉は違うだろう。本人と家族にとって最も良いかたちで最期が迎えられるよう、主治医や看護師と相談をし、生前のうちに計画を立てておくことが大切だ。もし自宅で最期を迎えることを希望する場合、葬儀社の手配、心肺蘇生を拒否する場合の署名、主治医による死亡宣告を拒否する場合の通知書の準備などを事前に行う必要がある。
遺言書の重要性
死後に自分の資産を希望通りに処理してもらうためには、冷静に考えることができる時に、財産の大小関係なく、遺言書を用意することが重要だ。遺言書があれば、遺言執行人が故人の望むかたちで遺産管理をすることができる。しかし、遺言書がなければ、家族や友人などが裁判所に行き、遺産管理人になれるよう申請しなければならない。
遺言執行人・資産管理人の役割
遺言執行人または資産管理人の業務は多岐にわたる。葬儀の手配、故人の遺言書と資産の確認、遺言書に記載された受取人への連絡、クレジットカード、銀行口座、パスポート、保険、年金、電話、電気・ガスなどのキャンセル、故人の知り合いや所属先への連絡、裁判所での遺言書の検認申請、車や家などの所有物や遺産の管理などだ。これらの任務を果たすことができる人を慎重に決める必要がある。
・ ・ ・
まずは自分がどうしたいかを考えよう
以上見てきたように、いざという時のための準備は、非常に複雑になり得る。さまざまな法律について詳しく調べ出すと、情報量に圧倒されてしまうかもしれない。しかし無理に全てを学ぶ必要はない。大事なのは、自分の希望を明確にすることだ。知保里さんは、「まずは自分が今どういう状況にあって、どうしたいのか、誰に何を頼みたいのかを考えることが大切。その後で、その方法を考えると良いです」と参加者にアドバイスした。
法律や制度は随時変更されることもあるため、委任状や遺言書などの詳細については弁護士や公証人に問い合わせよう。また、BC州の非営利慈善団体Nidusは自己計画についての詳しい情報を提供しており、RA、EPA、医療事前指示書の登録などもNidusで行うことができるので、利用することを勧める。
(取材 船山祐衣)
Nidus (Personal Planning Resource Centre and Registry)
電話番号 604-408-7414
ウェブ www.nidus.ca