生理痛が辛い、生理不順、なかなか妊娠できない…こうした悩みを持つ女性たちに、強い味方となってくれるのがフー・バイユウ(胡蓓玉)医師だ。
中医学のアプローチで体を診て、病気の予防、治療に当たっている胡医師に、今回は女性の体のトラブルに焦点を当てて話を聞いた。

中国伝統医療の診察方法

中医学の診断方法には4つのアプローチがあり、それは望診、聞診、問診、切診と呼ばれるもので、望診は、舌や目の周り、顔全体、顔色などを診ること。聞診はにおいをかぐことや呼吸音を聞くことなど。問診では症状のほか、生活の様子や家族の病歴、食事などを尋ねる。切診は脈を診ること。脈の様子から、臓器の状態を推し量ることもできるという。

◆生理痛や生理不順といった症状を持つ人が出すサインには、どんなものがありますか?

顔色は青白く、目の周りに暗い色が出ていることが多いです。舌の裏側が健康な色でないこともあります。
でも体はつながっているので、部分だけでなく全体を見ないといけませんね。生理は通常28日の周期ですが、そうした患者さんには、自分の周期がどうなっているかをまずチェックしてもらいます。
生理不順の場合、瘀血(おけつ—血行障害のこと)になっていないか、クランプ(生理の血液の塊)ができていないかも診ていく必要があります。クランプができるのは、冷えからくる場合や、子宮が弱っていて収縮力が弱い場合、子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣の腫瘍の場合などがあります。

◆どんなアドバイスをすることが多いですか?

その原因が気の流れにあるか、病気にあるかによって対策が違いますが、「気」が原因の場合、体が冷えないようにすることが大事です。靴下を履かなかったり、冷たいものをよく食べたりする人が多いですが、体の温度が少し下がるだけで血流の勢いが弱くなりますから要注意です。
ストレスも見過ごせません。人間関係や仕事のストレスについて注意する人は多いですが、夜寝るのが遅いなど、普段の生活が原因のストレスにも気を配ることが大事ですね。また、暑いシーズンの短いバンクーバーでは、体を温める食品を積極的にとることも必要です。

◆確かに就寝時間の遅さなど、普通に生活している中で溜め込んでいるストレスは見過ごしがちですね。食事についてはどんな指導を行っていますか?

患者さんには1、2週間にとった食事のリストを出してもらっています。好きなものを楽しく食べていくのは大事ですから、全体としてバランスがとれるようにしていくことですね。そして体を温める食品の紹介や漢方の処方をしています。そうした物を体に取り込み体を温かくすることで、栄養の吸収が良くなります。それによって体を保持するエネルギーも出てきます。また、足湯やお灸の仕方も教えています。遠くから来られる方など、鍼が頻繁に施せない方も多いので、なるべく自宅でできることをお伝えするようにしています。

◆不妊に悩んでいる人に対してはどんなアドバイスを行っていますか?

不妊の原因には、子宮筋腫、卵巣のトラブル、卵管の詰まり、ホルモンのバランスや気の滞り、運動不足、冷えなどさまざまなものがあります。こちらに来た移民後のストレスが原因になっている場合もありますね。ホルモンは脳下垂体の指令を受けて出されますから、頭の疲れも関係があるわけです。2、3カ月性交渉を試してみて妊娠しない場合、一度体の調子を見てもらったほうがいいでしょう。
また、一つの原因で不妊になる人は少ないと言えます。黄体ホルモンの出が弱い人は、漢方を飲むことで強くすることはできますが、ではなぜ黄体ホルモンの分泌が弱くなったかと言えば、ストレスや食事などが崩れているからであったりします。それには鍼で体に刺激を与えて、自分でバランスをとっていけるよう、身体自体を強くしていくのが有効です。もしそれほど身体が弱っていなければ、漢方だけで妊娠に成功する場合もあります。昨年は相談に来られた人の中から10人以上の人が妊娠できました。いい結果が出るとうれしいですね。

◆漢方の話が出ましたが、女性器官のトラブルに有効な漢方にはどのような原料のものがありますか?

たとえばヤマイモやジンセン(高麗ニンジン)、トウキ(当帰)などがあります。

◆漢方は苦そうというイメージがありますが実際はどうですか?

炎症や痛みに有効な漢方には苦いタイプの原料が多いですが、婦人科用は甘いタイプのものも多いですよ。

◆自分で煎じることなど必要ですか?

伝統的な方法が好きな高齢の方は原料を煎じて飲むことを希望されますね。でも9割の患者さんには服用しやすい粉状の漢方を処方しています。

◆最後に一般読者へのアドバイスをお願いします。

肩凝りはあまりに一般的で軽視されることも多いですが、凝ると全身の血流が悪くなり、栄養の吸収も悪くなりますので見過ごさないように。また、凝りのほかにも、疲れやすい、睡眠が浅いなどあったら、体の弱いところを見つけるために、年に一度は気の合う漢方医を訪ねるといいですね。また、40歳以上の人には年に一度は血液検査をすることも勧めています。
当地は医療システムの関係で、病気になっても検査や手術がなされるまでに時間がかかりますから、予防がとても大事です。私からのアドバイスも予防に力を入れています。

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次々と来院する人たちへの診察や鍼治療の合間を縫ってのインタビューの中で、「自分の背中には鍼が打てないので、私自身も他のドクターから2週に1度は鍼を受けているんですよ」と語りながら、自身の体調管理のために飲んでいるというクコの実のお茶を記者にも勧めてくれた胡医師。デスクの上の女の子の写真について尋ねると「13歳の娘です。出産は遅いほうでした」。女性として、また生活者としての視点から、流暢な日本語でアドバイスを行う胡医師への取材の時間は、心落ち着くひとときでもあった。

 

(取材 平野香利)

BC州認定の中国伝統医療の医師資格

日本では漢方や東洋医学、カナダではトラディショナル・チャイニーズ・メディスン(中国伝統医療)の名称で呼ばれる中医学。BC州で認定しているトラディショナル・チャイニーズ・メディスンの医師の資格としては以下の4つのタイプがある。

1.アキュパンクチャリスト
2.ハーバリスト
3.トラディショナル・チャイニーズ・メディスン・プラクティショナー
4.ドクター・オブ・トラディショナル・チャイニーズ・メディスン(高級中医師)

1は鍼灸治療ができる資格。2は生薬の処方ができる資格。3、4は生薬の処方と鍼灸治療ができる資格。3と4の違いは学歴と経験年数である。胡医師は4の高級中医師資格保持者であり、カナダ最大規模の中国伝統医学の学校「バンクーバー国際中医学院」での講師の経験もある。

 

胡蓓玉(Dr. Beiyu Hu)医師 プロフィール

中国上海市生まれ。BC州認定 高級中医師。1985年上海中医大卒業後、1992年まで上海第二大学病院に勤務、漢方などの中医学と西洋医学の両方を取り入れた治療の経験を積む。1993年から96年まで日本に滞在。岡山大学医学部内科での中医学を応用した研究や臨床経験を重ねた後、カナダに移住。メトロタウン近くのクリニックで診療を行っている。

BURNABY NATURAL THERAPY CLINIC

#308-4900 Kingsway, Burnaby, BC
Phone: (604)779-3001

診察は予約制。日本語・英語・北京語・広東語で対応可。鍼治療には40分と1時間のコースがある。

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。