講演に先立ち挨拶した企友会会長の松原雅輝氏は、自らが日々「できるだけ失敗をしないように」と考えて生活していることに触れ、失敗を恐れない石黒氏の講演を楽しみにしていると語った。IACEトラベルをゼロから北米最大手の旅行会社に育て上げたことで知られる石黒氏は、旅行業だけでなく、美容産業など多方面のビジネスで活躍しており、サプリメント会社Health & Beauty Worldの会長でもある。そんな優れた実績を持つ石黒氏だが、意外にもこれまでの人生は「失敗ばかり」だという。

学生運動に参加して親を泣かせた人生最大の失敗から渡米を決意

石黒氏は1948年生まれの「団塊の世代」だ。学生運動が盛んだった1968年に日本大学に通っていた石黒氏は自らも運動に参加。その結果、今は亡き両親を深く悲しませてしまった。戦争で生死の境をさまよったこともある父親が泣く姿を見て「あれほど愛情を注いでくれたのに、父親。母親と違う行動を起こしてしまった」と後悔の念に駆られた石黒氏は、新しいスタートを切るため単身渡米。ニューヨークで皿洗いや靴磨きをしながら、病気の時も一日も休むことなく働いた。それくらいのガッツがあった。人生最大の失敗が、その後の人生を変えるための大きなエネルギーをくれたのだ。

大きな目標を持って、IACEトラベル創業

1970年にIACEトラベルを起業した石黒氏。創業当初から大きな目標を掲げ、それを10年以内に達成することを決めていた。しかしもちろん急にうまく行くはずはなく、多くの障害にぶつかった。グローバル戦略の一環で設立したバンクーバー支店も最初の五年間は赤字だったという。それでも決してやる気をなくしてはいけないと自分に言い聞かせた。ビジネスをする上で一番重要なのは、強い情熱と忍耐力。それがあれば、問題はクリアできるのだ。今ではIACEトラベルは北米、日本、香港で57店舗を展開するまでに成長した。

失敗を歓迎しよう

「不安はありますか?」とよく人に聞かれるという石黒氏。しかし、ビジネスに関して不安は全くない。なぜなら石黒氏は失敗を歓迎しているからだ。ビジネスにおける今までで最大の失敗は、社会システムの違いを十分に理解せずに中国に支店を作り、法律の問題で失敗したことだが、それさえも「チャレンジしたから良かったかなと思うんです」と石黒氏は話す。失敗を恐れてはいけない。失敗からは学ぶことがとても多いのだ。逆に、成功から学ぶことと言えば「有頂天」か「高慢な態度」くらい。それではその先に続かない。失敗から学びながら「積み木を一つ一つ重ねるような日々の努力」を続けることこそが、厳しいビジネスの世界で生き残る唯一の方法なのだ。

家族への責任と苦労が人生を輝かせる

近年は特別講師として日本の大学で授業をすることも多いという石黒氏。今の日本の大学生と接していると、彼らにチャレンジ精神や起業家精神があまりないこと、そしていずれ結婚して子供を養いたいという気持ちもあまりないことが気になる。彼らは苦しい思いをするのが嫌なのだ。それもその人の人生だから、他人が口出しすることはできないが、「そういう人生って楽しいかな?」と石黒氏はどうしても思ってしまう。石黒氏が人生の中で自分自身が一番輝いていたと感じるのは40代の頃だ。その頃、二人の子供たちは小学生だった。ビジネスで辛いことがあっても、子供たちが最高のモチベーション。「この子のために、頑張んなきゃ。この子のために、死んでもやらなくちゃ」と思えばこそ、どんな苦労も乗り越えられた。人間生きているうちは苦労や辛いことは当たり前。それから逃げたら、何の進歩もない。それが石黒氏が若い人に伝えたい思いだ。

運をつかむ人とは

成功するための秘薬はないが、運をつかむ人とそうでない人はいるという。運をつかむ人は、変化を好む人、好奇心が強い人、口で言うよりも行動することを大切にする人、損得を考えずに人のために動くことができる人、そして元気のある人だ。また、失敗の責任は他人に押し付けずに自分で受け止め、人を褒める人。そんな人に運がまわってくると石黒氏は強調した。

健康には気をつけて

ビジネスを長く続けるには、気合いと根気が必要だ。そしてそのためには、健康な体が必要になる。石黒氏は「健康にはすごく気をつけて下さい」と聴衆に語りかけた。現在ロサンゼルスに住む石黒氏は、野球のチームに入っている。自分が最年長だが、若い人と一緒にプレーできるのが何よりも嬉しい。テニス歴は40年。こちらも、高校生や大学生との試合を楽しんでいる。石黒氏は59歳の時に一度リタイアし、3年間、タイ、ラオス、ミャンマー、カンボジア、ベトナム、フィリピンなどをバックパッカーとして旅したが、これも元気だからこそできたことだ。

ポジティブな気持ちを大切に、未来に向かって

石黒氏の憧れの人は、ダイエー創業者の故・中内功氏と、元ヤオハン代表の和田一夫氏だ。とにかくポジティブなこの二人の著書は、自分への参考書として何度も読み返した。特に、和田氏がビジネスで大やけどを経験した後も、まだチャレンジ精神を失わずに新しいことに挑戦し続ける姿に、深く感動したという。それこそが、石黒氏が憧れる生き方なのだ。「今日よりも明日、明日よりもその未来に向けて」石黒氏はまだまだ現役で仕事を続けていくつもりだ。
石黒氏の印象を一言で表すとしたら、チャーミングだ。仕事への情熱にあふれ、元気で若々しく、その謙虚な語り口からは誠実な人柄が伝わってくる。失敗は糧になることを教えてくれた石黒氏に、聴衆からは温かい拍手が送られた。

 

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企友会結成25周年記念祝賀・懇親レセプション

特別講演会終了後は、祝賀・懇親レセプションが華やかに催された。企友会は1987年にバンクーバー在住の有志により結成され、1993年に公益法人としてカナダ、BC州に登録された。BC州における日系の事業家および起業を目指す人を支援し、日系ビジネス社会の発展に寄与するため、一年を通してさまざまなイベントを開催している。この日のレセプションには企友会の歴代の会長と理事、会員、ボランティアを含む120人の出席者が駆け付け、25年の節目を盛大に祝った。

 

会長の松原氏は、多くの人々の協力があったからこそ企友会が25周年を迎えることができたと話し、「感謝してもし足りないくらいの気持ちでいっぱいです。どうもありがとうございます」と挨拶した。その後、在バンクーバー日本国総領事館総領事代理の篠田欣二氏が祝辞を述べるとともに、元移住者の会会長でグレーターバンクーバー日系カナダ市民協会人権委員会委員の鹿毛達雄氏、企友会歴代会長代表の山縣洋三氏、コスモス・セミナー主宰の大河内南穂子氏、企友会理事の長勝博氏らがスピーチを行い、企友会のこれまでの歩みを振り返った。また、企友会前会長の猪田雅公氏によるプレゼンテーションは、同会がたくさんの人の人生に影響を与えてきたことを感じさせた。最後は企友会副会長の澤田泰代氏が、企友会30周年記念となる2017年に向けて「日系のみならず、BC州ビジネスにおいても大きな役割を担う存在になりたい」と将来への抱負を語り、レセプションを締めくくった。

この四半世紀の間に、企友会だけでなく、バンクーバーも大きな発展を遂げてきた。時代は変わり、私たちの環境も変わっていくが、これからも一人一人が失敗を恐れずに「強い情熱と忍耐力」を持って活動を続けていけば、きっとさらなる成長を実現できるはずだ。明るく前向きな石黒氏の講演と、情熱のある人が集まる企友会の祝賀レセプションは、参加者を力強く鼓舞した。

 

(取材 船山祐衣)

 

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