隣組は、40年近くにわたって日系カナダ人社会にさまざまなプログラムやサービスを提供してきた非営利慈善団体だ。カナダで生活するにあたって有益な情報を日本語で発信し、地域に住む日本人・日系人の生活の向上に大きく貢献している。今回のセミナーでは、講師を務めた隣組の知保里さんと8人の参加者が年金について活発に話し合った。その内容の一部を以下に紹介する。

カナダの年金の種類

カナダの公的年金には、所得比例年金であるCPP(Canada Pension Plan)と、政府が管轄する基礎年金OAS(Old Age Security Program)の二種類がある

CPP(Canada Pension Plan)カナダ年金制度

CPPは働いている期間に、給与から自動的に差し引かれている。セミナーの中で、講師の知保里さんは「今までどれだけ自分がCPPを納めてきたかご存知ですか?」と参加者に問いかけた。CPPの納付は、18歳の時から始まり(ただし1966年1月1日以降)、70歳の時(あるいはCPP受給時または死亡時)に終わる。CPP納付額は、雇用者・非雇用者の場合は、それぞれ純収入の4・95%、自営業では純収入の9・9%だ。自分のCPP納付額明細は、サービス・カナダに問い合わせれば確認することができる。

CPP受給額を高くする方法

CPPの受給額は、納付期間と納付額によって決まる。働いていた期間が短ければ、当然受給額も低くなる。しかし、この受給額をできるだけ高くするために申請できる「免除期間」があるので、これを有効に活用しよう。免除期間は、①7歳未満の子供を育てている間、無収入・低収入だった期間、②CPP Disabilityの受給期間、そして③最低収入期間7・5年間(2014年には8年間になる)だ。自分の人生を振り返り、どのように申請するのが一番良いかを考える必要がある。

CPPをいつから受給すべきか

CPPをいつ受給し始めるかは、60歳から70歳の間ならば自分で決めることができる。しかし受給開始が早いと、それだけ受給額が減ってしまう。ベビーブーマーが続々と退職していく中、政府は人々が65歳を超えても働くことを奨励しており、仕事をしながら、つまりCPPを納付しながら待てば、受給額は高くなる。ただし、年金受給額の増加は70歳で止まるため、それ以上に受給を遅らせることに利点はない。申請する際に受給希望日を申請日前とした場合、または70歳になってから申請をした場合に、12カ月分までの遡及支払いがあるが、65歳の誕生日前には、さかのぼることはできない。また、70歳前に申請する際、遡及支払いは低い率で計算されることも考慮したい。つまり66歳で申請をするが、65歳の誕生日からの受給を希望した場合、66歳での受給額よりも低い額で計算され、その額はその後も変わらないということである。

2012年からスタート!Post-Retirement Benefit(PRB)

2012年、60歳以上70歳未満で働きながらCPPを受給している人への手当てであるPost-Retirement Benefit(PRB)が創設された。これまではCPPを受給している人は働きながらCPPを納付できなかったのだが、今年からは一年ずつの区切りでできるようになったのだ。60歳から65歳未満の人は納付が義務付けられているが、65歳から70歳の人は納付を選択できる。申請の必要はなく、受給額は翌年、CPPに加算されるかたちになる。

CPP申請で知っておきたい項目

CPPを申請する際には、次の3つの項目を知っておこう。まず、Pension Sharing(年金の共有)は、配偶者・パートナーとCPPを分割すること。これを使って節税することができる。ただし、両者共60歳以上であることが必要だ。そして、Child Rearing Provision(児童養育引当て)。子育てのために無収入・低収入だった期間を免除期間として申請することで、CPP受給額を高くすることができる。三つ目は、Credit Splitting(年金の分割)。これは離婚・別居した配偶者・パートナーと、離婚・別居前に同居していた時に納付してきた年金を均等に分割すること。年金納付額が少ない、または全くない人にとって有益になる。

CPP申請用紙の書き方と児童養育引当てについて

セミナーの中では参加者一人一人にCPP申請用紙のコピーが配られ、その書き方について詳しく学ぶことができた。氏名、生年月日、出生国などの基本的な情報に加えて、児童養育引当ての放棄についての項目などもある。
児童養育引当ての対象者は、子供が7歳になるまでの主養育者であり、そのために無収入・低収入だった人だということに気をつけよう。子供はカナダ生まれか、7歳になる前にカナダに移民した子供であり(1958年12月31日以降に誕生)、自分か配偶者がFamily Allowance Canada(家族手当)を受け取っていた、またはCanada Child Tax Benefit(児童手当)を受給またその資格があった人が対象だ。そして、もし自分が主養育者であったけれど、配偶者がFamily Allowanceを受給していた場合には、配偶者に児童養育引当ての権利を放棄してもらうこともできる。

OAS(Old Age Security Program)老齢保険年金制度

OAS(老齢年金制度)の該当条件は、65歳以上、カナダ在住、カナダ市民権または永住権保持、そして18歳以降カナダに10年間以上居住だ。もし居住期間が10年未満であれば、日・カナダ社会保障協定を使用できる。また、移住する前に、ワークビザや訪問ビザでカナダに滞在していた場合、それも考慮されるという。

OASの種類:満額の年金と部分年金

満額のOASを受け取るための基本的な条件は、18歳以降カナダに居住した年数が40年以上であること。40年間住んでいなければ、18歳以降にカナダに居住した年月(Y)をもとに、満額×Y/40で計算される。例えば、カナダに10年間居住していたら、満額の4分の1となる。ただし、上記以外にも満額を受給できる条件があるため、サービス・カナダの情報の確認を勧める。

OASの申請

OASは、65歳の誕生日の6カ月前に申請できる。66歳の誕生日以降に申請した場合は、12カ月分の遡及払いの受給も可能だ。これについてセミナーの中で議論されたのは、65歳ではまだ居住期間が40年に満たない人はいつ申請すべきかということだった。この場合、注意しなければならないのは遡及払いは12カ月までだということだ。例えば、ある人が居住40年になる70歳まで待って、満額のOASを受け取る権利を得た場合、月々の給付額は高くなるが、65歳から69歳の分は受け取ることができなくなる。個人の状況によって、最も良い申請のタイミングは変わってくるだろう。

OAS申請用紙の書き方とGISについて

セミナーでは、参加者全員でOAS申請用紙にも目を通した。基本情報に加えて、GIS(Guaranteed Income Supplement、収入保証援助金)についての項目などもある。GISは、カナダ政府が設定した基準額以下の所得の人への援助金だ。該当条件は、65歳以上、カナダ居住、OAS受給者、カナダの所得税申告済み。申請には、前年の所得税申告書を使う。また、GIS受給者の配偶者・パートナー(60歳から64歳まで)への手当て(Allowance)もある。

CPPとOASの申請方法

CPPとOASの申請のためには、必要書類のコピーであるCertified Copy(認証謄本)が必要になる。これを弁護士や会計士などに頼むと手数料がかかるかもしれないので、無料でコピーしてくれるサービス・カナダのオフィスで申請するのがお勧めだ。また、最近はオンラインで申請することもできる。サービス・カナダのウェブサイトを参照しよう。

日本に帰国すると決めた場合

日本への帰国を決めた場合、カナダの公的年金は受給できるのだろうか。まず、CPPは自分が働いている時に積み立てたものなので、カナダ国外でも受給できる。OASの場合は、18歳以降のカナダに居住した年数が20年以上、あるいは日・カナダ社会保障協定を使うことで、受給することができる。
しかし、気を付けなければならないのは、CPPやOASを日本で受給する場合には必ず日本での収入を含めて、カナダの所得税申告を毎年しなければならないということ。その上、CPP・OASから、25%の非住民税を引かれてしまう。また、日本の銀行への直接振り込みはされていないので、小切手と為替の換算料についても考える必要がある。

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今回のセミナーは、複雑な場合もあるカナダの公的年金の申請手続きについて、日本語で話し合う貴重な機会となった。この記事の中には書ききれなかった項目・受給条件などもあること、また規則は随時変更されることがあるため、自分にとって最良の申請をするためには、必ずサービス・カナダで詳細を確認する必要がある。(取材 船山祐衣)

 

サービス・カナダ (Service Canada)
電話番号:1-800-277-9914
ウェブサイト:www.servicecanada.gc.ca

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