かつての路面電車中央駅

ダウンタウンの中心からヘイスティングス通りを東へ歩いていくと、チャイナタウンの入り口ともいえるあたりにアジア系カナダ人の現代アートギャラリー、センターAがある。一本向こうのガスタウンはブティック、カフェ、ネイティブ・アートのみやげ店が並び、華やかなにぎわい。様々な人種と文化が入り混ざる一角だ。
同様に100年前も、このあたりは街の重要な場所だったという。6階建ての第二次帝国式ルネッサンス建築の路面階に、ブリティッシュ・コロンビア路面電車中央駅がオープンしたのは1912年。キュレーターの原万希子さんは「このビルの歴史を知れば知るほど、バンクーバーの文化の多重性と豊かさを痛感します。この展覧会は観客を過去100年の旅に連れ出します。そこではヘイスティングス通りは夜はナイトクラブや劇場、ネオンライトにあふれ、メイン通りでは毎朝10時にチリワック電車で郊外の農家から運ばれる新鮮な野菜が路面店で売られていました」と話す。

現代アーティストたち

このビルの100年祭を記念する展覧会は、中央駅という特殊な建築に焦点を当て、移民たちがバンクーバーに与えてきた文化と、この街が都市化してゆく過程を描き出すのが主なテーマだという。
参加するアーティストはレイモンド・ボジョレー、スタン・ダグラス、アリ・カジミ、ヴァネッサ・クァン、エヴァン・リー、シンディー・モチヅキら6名のカナダ在住の現代アーティストたち。それぞれの個人史を語りながら、ダウンタウン・イーストサイドの重層する歴史を新しい視点から紹介している。

シンディー・モチヅキさんがかつてのパウエル街を表現

広いギャラリーの中に、各アーティストの絵画や立体作品、過去の手紙などが展示される中、日系アーティスト、シンディー・モチヅキさんの作品展示は、ひとつの部屋の中にあった。箪笥の引き出しに並んだお菓子、隣接する畳、バックには日系人がかつてのパウエル街を語る声が流れる。落ち着いた空間の中で、シンディーさんに話を聞いた。

祖先はどこの出身ですか?

祖母はルル・アイランド(リッチモンド)で生まれた2世で、強制移動後日本に行き1960年代にカナダに戻りました。静岡出身の祖父とウォルナット・グローブでイチゴ畑を持っていました。私は4世で、日本語は話すことはできますが書くのは苦手です。

どんな風にアートの世界に入っていったのですか?

子どものころから絵を描いたり何か作るのが好きでした。ハイスクールで芝居を書いたりデザインを始め、キャピラノカレッジで創作を専攻しました。SFUの文学部に移ってビジュアルアートのクラスを取ったときに、教授からこの分野に進むべきだと勧められました。近代アート科でファイン・アートの修士を取得してから、モントリールのNFB(ナショナル・フィルム・ボード)でアニメーターとして働きました。

影響を受けたアーティストは?

ウィリアム・ケントリッジのアニメーション、ショーン・タンのイラスト本など、その時期によって影響を受けたアーティストがいます。日本のアーティストには魅力を感じます。広重や北斎の木版画も興味深いし、黒澤明の映画にも感化されています。

アニメーション、ビジュアルアートなどいろいろな形の表現をしていますね。

アートの表現方法はアイデアとコンセプトによります。まずスケッチして簡単な内容を書き、どの表現法がいいか考えていきます。

オープンドア・プロジェクトに出てくるパウエル街の商店は実際にあったものですか?

すべて戦前にあったお店です。第2次世界大戦前、まだ日系カナダ人が捕虜収容所に送られる前の日本人街はたくさんの市場、レストラン、風呂屋、日本のお菓子を売る店などがあふれていました。近くにロジャーズ・シュガー(製糖工場)があったので、お砂糖を使うお菓子屋さんはたくさんあったみたいです。
こうした失われた時間と場所の室内を再現しようと試み、日系博物館の資料や写真を参考に、店のオーナーや従業員、年配者たちにインタビューして、この展覧会のために新しい作品を作りました。

展示の中に、実際に当時のお菓子を置いたのにはわけがありますか?

以前味わったことのある食べ物には、それにまつわる出来事などいろいろな思いが広がると思います。今回祖母のレシピでかりんとうを作りました。大福や饅頭は隣組の人たちから習いました。これらのお菓子を会場で販売し、畳の上に座ってたべてもらい、少しでも当時のパウエル街の様子が伝わればいいと思っています。

 

(『TO | FROM BC ELECTRIC RAILWAY: 100 YEARS』
都会の電灯!ブリティッシュコロンビア路面電車100年祭!
2012年9月15日(土)ー11月10日(土)
ギャラリー開催時間:火曜 ー 土曜(祝休廊)
11amー6pm(入場無料)
*展覧会に併せて会期中たくさんのパブリック・プログラムが開催される。
詳しくはウェブサイト参照。www.centrea.org
Centre A:Vancouver International Centre for Contemporary Asian Art
2 West Hastings Street, Vancouver, BC V6B 1G6
(604) 683-8326 This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.

 

(取材 ルイーズ阿久沢)

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