内田俊郎氏は、1998年4月、鹿嶋市の市長に就任。現在四期目を務める。『教育改革』を最大の公約として掲げ、子供たちの学力向上と、鹿嶋市の国際化の実現に確固たる信念と構想を持ち、現実的な政策をつぎつぎと手がけてきた。

鹿嶋市では『教育改革』のため、実際にはどのような取り組みを行っていますか。

具体的には、小学校からの英語教育、補助教員制度、理科や音楽の専科教員制度、小学校低学年の少人数学級制度、教員の指導力向上を目指した師範塾の設置、学校図書館の充実(学校図書館日本一で国語力アップ実現)、新入学時や障害を持つ子に対する豊かな教師力での対応、音楽やスポーツなどの分野でのプロ指導、小中学校の校舎の完全耐震化と校庭の芝生化、放課後の居場所づくり(児童クラブ等)、第3子以降の給食費や幼稚園・保育園の無料化などがあります。
そのなかでも、英語教育には特に力を入れています。2005年、英語教育アドバイザーとして、PLS(Pacific Language School)英語教育研究所の所長マスミ・オーマンディ氏を迎え、2006年度からPLSオリジナルメソッド・カリキュラムを漸次導入し、今年で7年になります。2007年には内閣府から英語教育特区の認定も受け、話す、聞くというコミュニケーション能力の強化を最重点に指導を続けています。
実際には、市内の全小学校12校の1年生から6年生まで、授業に英語特別プログラムを導入。同時に、生きた英語に触れることができるよう、英語を母国語とする外国語指導教師(NLT— Native Language Teacher)を各校に配置しています。そして、NLTが、担任と相談しながら、生徒が英語による基本的なコミュニケーション能力と豊かな国際感覚を育んでいけるよう、実践的な活動を推進しています。
一方、中学校ではALT(Assistant Language Teacher)による英語コミュニケーションの時間を設け、英語による英語授業を1年生から始めています。

英語教育に特に力を入れているのはどういう考えからですか。

日本国内諸領域での国際化はますます加速し、大手企業数社では、社内公用語を英語に切り替えたり、外国人労働者を増やし国際化への先手を打ち始めたりもしています。今後ますます、世界に通じる優秀な人材、世界を相手に活躍できる人材が求められるようになるでしょう。
そのような潮流のなかで、鹿嶋市においても、多方面にわたり国際化に対応できる人材育成の必要があると考えました。世界に羽ばたく『鹿嶋っ子』を育むためには、英語によるコミュニケーション能力の強化育成が不可欠です。そこで、いち早く小学校での英語教育を開始しました。小さいうちから生きた英語に慣れる必要があるからです。
日本人の英語力不足は長年の課題です。それにもかかわらず、国内の『英語教育』はなかなか進展しません。やっと2011年度から、小学校5年と6年に外国語活動(英語)が導入され、年間授業35時間が全国で義務付けられました。鹿嶋市では2008年度から市内12の全小学校で、1年生から英語活動を導入し、全校が同じ歩調で活動を進めています。これから、その成果は実証されてくるでしょう。

現場の先生からは、生徒の英語力向上に関してどのような感想が寄せられていますか。

小学校の先生からは、
「ネイティブの自然なスピードの英語を理解し反応するなど、聞く力が育っている」
「繰り返し指導を行うことで、話す力が定着してきている」
「ネイティブと英語を使って話すことに児童が臆さなくなった」
「スピーディに授業が進むようになり、児童に活動の場をより多く与えられるようになった」
「子ども同士でも英語のコミュニケーションを楽しめるようになっている」
というような感想が寄せられています。
中学校の先生からは、
「新入生の英語を聞く力が年々高まっている」
「小学校で英語の音声にかなり慣れ親しんできているので、中学英語への導入がスムーズである」
などの感想が寄せられています。

生徒の英語に対する考えや期待、また実際の成果などの報告を聞くことがありますか。

英語教育の実態調査として、市内抽出校の6年生に児童英検を実施したところ、全国の児童英検受験者平均スコア83・6%(2012年)を上回る86・8%を達成しました。
また、中学1年対象の県のリスニングテストでは、年々達成率が向上し、2011年度には90%の達成率をあげています。
最近ある調査で、中学2年の生徒たちに、学んだ英語を将来どのように生かしたいかを尋ねました。すると、1位「海外旅行」、2位「仕事」、3位「いろいろな国の人とのコミュニケーション」という回答でした。この結果を見ても、鹿嶋市での英語教育は、子供たちの意識のなかにしっかりと根付いてきていると感じています。

*   *   *

内田市長らは六日間の滞在日程中、鹿嶋市の英語担当教員が参加するESL教授法の研修プログラムを実施するニューウェストミンスター市の市長や教育長と面会する。また、UBCやSFUなどの大学にも訪れ、教育事情を視察する。
昨年3月の東日本大震災では鹿嶋市も各地域で少なからず被害を受けた。しかし、市内の学校や市庁舎の建物は、すでに補強工事を済ませてあったため、被害は最小限に抑えられたという。大震災以来、海外から寄せられた温かい支援や応援に感謝の気持ちも伝えたいと内田氏は語った。

 

(取材 高橋百合)

 

鹿嶋市の市名表記について

1995年9月の市制施行開始にあたり、佐賀県の鹿島市との混同をさけるため、『鹿嶋市』という表記が用いられるようになった。しかし、市制施行以前の旧鹿島町の『島』での表記が、鹿島臨海工業地帯、鹿島アントラーズというように、現在も一般的に使われている。

パシフィック ランゲージ スクール(PLS)

世界に通用するマナーとコミュニカティブ・イングリッシュを身に付けたグローバルシティズン(地球市民)の育成を目指す英会話学校。レイ&マスミ・オーマンディ夫妻が40年に及ぶ英語教育を通して得た経験から独自に開発したPLSシステムを使用している。本校、東京都杉並区。
同校のPLS英語教育研究所は、市町村の教育委員会からの依頼を受け、プログラム提供を行うほか、プログラムを効果的に進めるNLT(Native Language Teacher) とHRT(Home Room Teacher)の研修を通して英語教育をサポートするコンサルティングやアドバイスを行っている。

鹿嶋市での英語教育に関わってきて

パシフィック ランゲージ スクール(PLS) 英語教育研究所 所長 マスミ・オーマンディ

2005年10月、鹿嶋市の当時の教育長、市内各小学校の校長先生方、国際理解教育担当の先生方にPLS英語教育研究所のプログラムを説明させていただきました。内田市長は決断を行動に移すのが速く、翌年2006年春からの導入が決定されました。そして、市内12校のうち、まず3校から開始。その後7校、2校と続きました。
PLSのプログラムは画期的です。母語習得と同じように、文字を見ないで聞くことから始め、ネイティブスピーカーがすべて英語で授業を進めます。それを小学校1年生から始めるわけです。最初、日本人の先生方は戸惑われました。しかし、しばらくすると、子供たちが耳から聞いた英語を柔軟に受け入れ、学ぶ力をぐんぐん伸ばしていくのに驚かれました。最近では、先生方自身で研究会を作り、たいへん熱心にこのプログラムに取り組まれています。訪問研修で学校に伺うたび、先生方の姿勢が以前と変わってきていて、いい意味でショックを受けています。
勉強でも修学旅行でもいい、サマーキャンプやボランティアでもいい。子供たちは、どんどん海外に出て体験を積んでほしい。将来、そんな子供たちと海外で出会って、「鹿嶋市の出身です」「鹿嶋の小学校時代から英語を耳にしています」と言われてみたい。それが私の夢です。

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