心洗われた極上のひととき

コスモスセミナー第12期の締めくくりとなる、特別企画、「香道へのいざない」が6月13日、日系文化センターで開催された。講師は御家流香道 宇野京子師範だ。現在、神奈川県藤沢市在住の宇野師範が1カ月間、バンクーバーに滞在する機会に、「雅な香道を会員の皆さんとぜひ一緒に学びたい」というコスモスセミナー主宰、大河内南穂子さんや事務局をまとめるリトンかおりさんらの強い想いから実現した。セミナーでは、香りの歴史とその優美な世界を紐解き、実際に香木を焚き、組香まで体験させてくれた。

日本の伝統芸能、香道
「香木を焚いて楽しむ香道は、茶道や華道同様に、日本の伝統芸道の一つです。でも、茶道や華道ほど知っている人はいません。なぜでしょう」という問いかけで始まった「香道へのいざない」。宇野さんは、茶道などは家元制度があり、芸が伝承されていったが、香道は元来、公家、天皇、将軍、大名ら、一部の人が楽しむもので、一般の人を教育しようというものではなかったことを挙げた。  現在、スティック型、そして三角帽子の形をしたものをはじめ、さまざまな種類で楽しむことができるようになっているお香は、千数百年の歴史を持つ。日本書紀に、流れ着いた木片を火にくべたら、たいそう良い香りがしたと、香木の漂着についての記述が残っている。続いて奈良時代の仏教の伝来で、供物としてお香を焚いた。  源氏物語でも登場する。お姫様がご飯粒のような糊性のものと香木や他の香料を混ぜて、薫物を作り、これを焚いて、衣に焚きしめたり、部屋で焚いたり、香を聞く場面が描かれている。香道では「香をかぐ」とは言わず、「香を聞く」と表現する。香木は日本では採れないため、持っている量は権威の象徴でもあり、大名がお姫様の輿入れのときに持たせたりした。 お香は、一部上流階級のみのものであったのかと思いきや、室町時代ごろから庶民にも香が広がっていったそうだ。浮世絵で遊女が使っている様子も描かれていて、「江戸時代には、質の差はあるけれども、より多くの人が楽しむようになりました」という。
続いての説明は香木についてだ。倒れた木や朽ちた木が、長い間地中にあり、樹脂などの化学反応で固まってできたのが香木で、最高のものは、よく耳にする伽羅(きゃら)だ。
香木は原産国により分類する。羅国(らこく)=タイ、真南蛮(まなばん)=カンボジア、眞那賀(まなか)=マレーシア、佐曾羅(さそら)=インド、寸門多羅(スモンダラ)=スマトラ、そして伽羅(きゃら)=ベトナムだ。6つの種類があり、六国と呼ぶ。
興味深いのは、香道では香りを味で表現することだ。宇野さんは「香りは鼻から吸うと、すうっと口から抜けるため」と説明した。『すっぱいけれど甘くない』『苦い。のどがいがいがする』『キャラメルの甘さ』というように、ひとりひとりが自分の味に置き換えて覚えましょう」

たおやかな香りを楽しんだ参加者

最初はひとつひとつの香りを聞いていたが、その後、自然の移り変わりを解釈したり、出来事を説明するために、香りを合わせていったのが香組(こうぐみ)だ。そして、香木の香りを聞き、楽しむのを聞香(もんこう)、ゲーム性の高い、数種類の香りの違いを利用して、テーマを表現するのが組香(くみこう)だ。順番に出てくる香を聞いて当てる。今回のセミナーの開催日、6月13日は、嘉祥改元の日であったことから、嘉祥香の香組で、参加者の中から希望者10人が組香に挑戦した。
嘉祥の日は、「昔、疫病が流行るのは6月で、栄養をつけるために食物を集め、お菓子を用意して家臣に賜った」というものだ。
まず、宇野さんから嘉祥香の組香の遊び方について説明があった。嘉祥香は4つの香木を用いる。最初に試しがあり、3つの香りを聞く。一つは聞かない。時間の関係で、本来10だけれども、今回は7つの香りを聞いて、どの香りがどの順番で出て来たかを当てるというものだ。
ただし、香道は『いじわる』でない、『やさしい』そうだ。「ぜんぜん当たらなくてゼロ点でも、負けにならないんですよ」というように、香りを聞き分けるだけではない。1から16まで番号を書いた札を引き、その数字の合計を得点として、香りを当てた数に加算して競う。
試しで始まった組香では、香りの聞き方の作法について説明があった。香炉が回ってきたら、左手の上に載せ、右手でふんわりと覆い親指の間から香りを聞く。「息を吸い込んだ後は、吐かなければいけませんが、香炉に向かってではなくて、顔をそむけて脇に逃がすようにしないと、灰が飛んでしまいます。」
用語も独特だ。香りを聞く回数は息(そく)で数える。通常、3回か5回で、三息か5息となる。香道では、香木がずれたりしても、自分で直さず、香元に戻す。香木が外れることを『走る』という。香元は香を焚く人だ。「バンクーバーは乾燥しているためで、湿気も大切ですね」というように、今回は、香が走りやすかったそうだ。
試しでは、聞いた香りがどのようなものであったかメモに取る。「樟脳のような香りだったという人は、たんすの香りがしたなどと、書かれます。ご自分の分かりやすい言葉で書いてくださって結構です」。試しの後は本香で7つの香りを聞いていき、試しで聞いた三つ、あるいは聞かなかった香りかを、名乗り紙と呼ばれる用紙に毛筆で書いていく。折りたたまれた名乗紙にはあらかじめ、自分の名前(声明の名前のみ)を上に書いておく。ひとつ聞くごとに一枚の札を取る。
本香が終わると採点だ。当たった香りの数を調べ、続いて引いた札に書かれた数の合計を計算して、最終得点は、この二つを足した数になる。「香、満ちました」という宇野さんの声で、第一部の香道についてのセミナーは終了した。
幽玄の世界に酔った後、休憩をはさんで第二部は、雰囲気を変えて、バイオリンとチェロのミニコンサートが行われた。演奏したのは、Victoria Symphony に所属する竹田 志麻さんと、ブリティシュ・コロンビア大学の音楽プログラムの博士課程に進学予定のLaine Longtonさんだ。二人が奏でる伸びやかな音色が参加者を魅了した。
組香に挑戦したエクルストン希子さんは、「最初は少し緊張しましたが、だんだんほぐれて和気藹々と楽しむことができました。素晴らしいセミナーを企画してくださったコスモスセミナーの皆さんに感謝しています」と感想を語った。また組香の席に就いた10人中、黒一点の松井豊さんは、「香道という雅な世界に触れてみたい、そして、その香道を一生懸命されている宇野さんがどういう方か、この二つに興味があって」と参加の理由を語り、「とても良かったです」と満足の様子だった。
講師を務めた宇野さんの「バンクーバーの皆さんは、日本を離れて長い方も多く、日本の良い時代をそのままもって来ていらっしゃるような気がします」という言葉が、印象的だった。

(取材 西川桂子)


コスモスセミナー

生涯学習の一環として多くの異なった場で活躍する方々と交流することにより知識を深め自己を磨き、異文化での生活を有意義に過ごす会。第2水曜日に日系文化センターにおいてセミナーを開催している。(毎年7、8月は休み) www.cosmos-seminar.com

 

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