夏が近づくと増える印象のある食中毒。昨年、米国ではメロンが感染源とされるリステリア菌で約30人の死者を出した。カナダでも2008年に、メープルリーフ社で生産されたハムからのリステリア菌感染で、22人が死亡している。大きな食中毒事件以外にも、4月にはLotus Catering and Fine Foodの真空包装されたシーフード製品が、ボツリヌス菌に、Western Familyの一部Pomeberry BlendベリーミックスがA型肝炎ウイルスに汚染している可能性があるとして、カナダ食品検査庁(The Canadian Food Inspection Agency:CFIA)が警告を行った。CFIAのウェブサイトを見ると、今年になってから健康への危険、アレルギーなどで、1月に11件、2月19件、3月27件、4月16件の警告がある。
これから夏にかけて、心配な食中毒だが、肉や魚介類以外にも、野菜、果物による事件が近年増えている。米国で2008年のトマトによる、そして2008年から2009年にかけてピーナツバターによるサルモネラ菌感染、昨年、ドイツで病原性大腸菌(0-104)感染では、キュウリやもやしが原因と疑われた。細菌、ウイルス、原虫、寄生虫など、食中毒に起因する菌への汚染について、連邦政府や自治体レベルで調べたり、汚染防止対策として衛生的な取り扱いがされているか立ち入り検査や指導が行われたりしている。気になる食の安全確保のために、カナダ政府の取り組みを見てみよう。

食品安全を所管する機関
日本では厚生労働省、農林水産省、都道府県などの自治体、保健所が管轄する食品安全。カナダでは、連邦、州・準州、地方自治体がそれぞれのレベルで食品安全に関わり、お互いを補っている。たとえば、食肉の場合、連邦政府で登録される施設は連邦政府の機関、州政府で登録される施設は州政府が管理している。州政府が管轄しているのは、食肉が州内のみに出荷されるような比較的小さな組織だ。
食品安全については、連邦政府では農務農産食品省(Department of Agriculture and Agri-Food Canada)、保健省(Health Canada, HC)や食品検査庁(Canadian Food Inspection Agency, CFIA)などが担当している。
HC と CFIA は独自の役割と権限を持っている。ウェブサイトによると、HCは、保健大臣に対する報告義務を負い、食品の安全と栄養に関する政策や基準を定め、アドバイスや情報を提供する。そして公衆衛生、栄養の安全に関する食品・薬品法(Food and Drugs Act)の条項を取り締まり、食中毒の早期探知と警戒のための調査を行う。
一方、CFIA は、HC の定める政策や基準に関して検査を行うほか、回避可能な食品安全の危険性からカナダ人を守るためのプログラムやサービスを開発、展開する。昨年、福島第一原発の事故による放射性物質の汚染を受けて、一部日本産食品のカナダへの輸入が規制されたが、その決定はCFIAが行った。また、CFIAは食品安全の調査を行い、自主回収の有効性を確保するのに対して、HCはリスクのアセスメントをCFIAに提供する。

自主回収
カナダで食品が自主回収されるのは
・公衆衛生担当官からの報告
・消費者や業界の苦情
・実際の食品媒介疾患の集団発生
・CFIAによる検査や試験、サンプリングプログラム
・他の政府機関からの情報
・世界のパートナーからの報告
・企業内部でのサンプリングにより懸念が見つかった時(企業は食品の安全を保証するため、通常、厳しい品質保証システムを配置している)などの場合だ。
そして、自主回収の理由には、食品にメラミンをはじめとする化学物質や、金属・ガラスなどの異物が混入している、食中毒を引き起こすバクテリア、ウイルスによる汚染などがある。
CFIAが行う食品の自主回収の警告は3種類となっている。
クラス1自主回収(ハイリスク)
その食品を食べたり、飲んだりすることで、重大な健康上のリスク、もしくは死に至る可能性のあるものに対して。
クラス2自主回収(中程度のリスク)生命を脅かすことのない、あるいは短期間、健康問題を起こすような場合。健康な人が重大な症状を発症する可能性は低い。
クラス3自主回収(低リスク・リスクなし)連邦政府の食品規制に従っていないものの、健康上のリスクがない食品。

食品安全確保のためのシステム リスク・アセスメント
病気が発生するケースでは、まず州や準州の保健所などが調査を行う。そして発生源が見つかったら、CFIAが調査して、HCに情報を提供。自主回収のクラス1〜3というように、リスクのレベルを判断するのは、HCだ。

通知・警告
リスクの度合いが高い場合は、CFIAはメディアを通じて、国民に自主回収の警告を通知する。CFIAのウェブサイトでも警告を行うほか、e-mailリストを申し込んでおけば、通知が届く。Twitterでも警告する。

自主回収
市場から製品を回収する責任は業界、つまり通常、企業が負う。[自主回収の数字 http://www.inspection.gc.ca/english/corpaffr/relations/res/images/statrece.jpg]

フォローアップ
企業が自主回収を行ったか、CFIAで確認。企業側で適切な処理を行っていない場合は、CFIAが製品を押収することもある。
さらにCFIAが引き続き調査を行うことで、ほかにも安全性が懸念される製品が見つかることもある。その場合は追加で警告を行う。このように政府は努力しているが、今年2月にConference Board of Canada が発表した食品安全に関する報告書では、カナダの食品媒介疾患の発生率は米国より高いという。
カナダの食品安全確保のための姿勢は十分なのか不安になるが、報告書を作成したConference Board of Canada の研究主任アソシエーツのダニエル・ムンロ氏は「数字を見るとき、3つの点について留意しておきたい」として
①食中毒の数字に関して一部の病原菌については、確かにカナダは米国を上回っている。しかし、食品媒介病原菌による死亡事件は、一人あたりの数字でもカナダは米国よりずっと低い
②時間の経過に伴う傾向を見ると、表にある4つの病原菌全てで、カナダの数字は激減している
③数字は報告された件数で実際に起こった数字ではないことから、国によっては食中毒の発生探知がうまくいっていない国、逆に探知能力に秀でている国がある可能性がある。数字だけを見て判断するのは危険と挙げている。
2月16日付けの『Edmonton Journal』で、CFIAによる食品検査は十分に厳しいものではないという記事が発表されていた。検査が十分に行われていると思うかについてもムンロ氏に聞いたところ、カンピロバクターやサルモネラ感染については、検査をしっかり行っている国で発生率が低いものの、大腸菌感染は検査件数の多い国で増えている。単純に検査体制をより強化することで、疾病発生件数が減るわけではないとの考えを示した。
カナダでは毎年、680万件の食品媒介疾患が報告されている。ただし、食中毒で死亡に至るケースは極めて稀だ。食品安全の危険因子は、農産物をはじめとする材料生産、製造、加工、小売や卸、最終的に消費者による調理あるいはレストランなどでの加工と、あらゆる段階に存在する。さらに菓子をはじめとする加工食品の場合、グローバル化により原材料の安全性確保がより複雑になっている。政府や企業なども努力をしているものの、安心して食品を楽しみたいという、消費者の願いの実現が難しいのが実情だ。


(取材 西川桂子)

 

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