2019年5月16日 第20号
5月9日、在バンクーバー日本国総領事公邸で、日加コー・オプ・プログラム(CJCP)で日本に向かう学生たちの壮行会が開かれた。CJCPでは、カナダの大学でコー・オプ・プログラムを取り、日本での就業を希望する学生に仕事を斡旋している。1991年に開始以来、現在までに千人以上が参加しており、今年は41人が日本に向かう。
今年はコー・オプ2回目という学生もいるとのこと
かけがえのない経験を
レセプションではCJCPの共同ディレクターであるジュリー・ウォルクリさんが開会の挨拶で、CJCPが開始されて28年目となりこれまでに50社を超える日本企業がカナダの学生をインターンとして受け入れてきたと説明。そして、学生たちにとって日本での就業は忘れられない経験となるだろうと述べた。続いて、学生たちが一人ひとり日本語で自己紹介をした。たくさんの人が見ている中で慣れない日本語で話すということで、みな緊張しながらもしっかりと挨拶していた。
学生たちは日本での就業に先立ち、CJCP事務局があるブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)で4日間のトレーニングを受けている。CJCP共同ディレクターのジャビド・イクバル博士が名前を読み上げ、羽鳥隆在バンクーバー日本国総領事が修了書を手渡した。このトレーニングの中で、日本文化紹介を担当したバンクーバー日本語学校教諭のベイリー智子さんと渕岡純子さんも、レセプションに出席。学生たちに、書道、着物の着付け、カラオケを紹介したという。日本の企業で働くと宴会に参加する機会もあるだろうということで、日本の企業文化の一端として紹介したカラオケは、学生たちにも好評だったという。
最後に羽鳥隆総領事が挨拶、近年日本では海外から高い技術や技能を持つ人材を積極的に取り入れていくことが奨励されているとし、CJCP参加者が各々の職場でその知識を生かして貢献していくことに期待すると述べた。
このレセプションには、カナダで事業を展開する企業の代表者も招かれていた。富士通インテリジェンス・テクノロジー社の岡野憲司さん、カナディアン・オートパーツ・トヨタ社の藤田康平さん、エフコムサービシーズ社の堂満定さん、クラスメソッド・カナダ社のエイミー・アビルメッドさん、パネフリ・ノースアメリカ社の鈴木聖十さんが、学生たちと交流する機会を持った。昨年、今年とCJCPの過去の参加者3人を採用したというエフコムサービシーズの堂満さんは、「日本のチームと日本語でのEメールでやり取りできるので助かっています。若い時点で海外に出て仕事をするというのは、将来のキャリアなどを考えていく上でも、とても良い経験となると思います」といい、コー・オプ・プログラムを高く評価していると語った。
学生のコメント
レセプションで参加者を代表して挨拶したデビッド・タングさんは、オタワのアルゴンキンカレッジでコンピューター工学を専攻している。日本では楽天に勤めるということだ。 日本を訪れて文化研究をした人類学者の話を聞いたりして、日本への関心を高めていったという。「例えば、義理チョコ、ホワイトデーといった日本にしかないユニークな習慣についてですね。また、ある人類学者は、日本経済の動向に合わせてバレンタイン用チョコレートの広告が変わると説明したんです。こうした見方はとても興味深かったですね」。日本で仕事をするにあたっては、「日本のソフトウェアについて学びたいです。例えば『カンバン・システム』というソフトウェア開発などに興味があります」と言う。日本で正社員として採用されたらうれしい、と意欲的な抱負も語った。
東京ガスでリサーチアシスタントとして、8カ月就業して昨年カナダに帰ってきたというウェミ・エイデさんは、UBCで地質工学を専攻していた。日本のアニメと漫画が好きで日本に関心を持っていたという。日本での就業については、「私の上司は英語がわかりましたが、同じチームの人たちはあまり話せなかったので、最初は少し大変でした。でも日本の人はとても親切でしたので、私の日本語も上達していきました」と言う。ただカナダに帰ってきてから日本語を使わないので忘れてきているとも。また、日本の企業文化はカナダのものとは随分違ったというが、特にそのことで困難を感じたことはなかったという。今年大学を卒業し、バンクーバーで土木工学の仕事に就くことになっているそうだ。
発展が期待されるプログラム
学生らと言葉を交わしていた羽鳥総領事に感想を聞くと、「印象的だったのはケベック州からの参加者が多かったことですね。カナダ東部の人はヨーロッパの方に興味があるのかなと思っていたので。日本について関心を持つ人が増えてきているのかなという印象でした」と話した。羽鳥総領事はレセプションでのスピーチで、日本の企業の特徴として、「会議が多い」「仕事熱心」といったことを挙げた。また、就業時間以外の飲み会は交流を深めるために意外と軽視できないものであり、「飲みニケーション」なる言葉もあるほどだと説明した。日本に在住する外国人も増えてきている昨今、受け入れ先の企業に外国人上司がいたということもそれほど珍しくなくなってきている。「ぜひ、『飲みニケーション』で日本人の同僚と交流を深めてもらいたいですね」と話す。また、「日本としては海外からの働き手を積極的に受け入れていく動きが出ているので、ますますこうしたプログラムは重要になっていくのではないかと思います」と語った。
CJCPのプログラムアシスタントの根本優子さんは、「海外からの学生を受け入れてくれる企業はIT、ソフトウェア、プログラミングといったところが多く、理工系の学生が対象となるのでどうしても男性が多くなる傾向があります」と言う。今年は女性の参加者が10人弱と、圧倒的に男性が多い。CJCPの次の目標として、「文系やビジネス系のコー・オプの機会を増やしたいというものがあります」という。その際にネックとなるのが言葉の問題だ。大学などで日本語のクラスを取っている学生も多いが、ビジネスで通用するレベルまで到達するのはなかなか難しい。一方、「理工系の職種であれば、テクニカルな共通言語がわかればできるので、企業も取りやすいのだと思います」。カナダの学生にとっては、 日本での就業を経験できる素晴らしい機会でもあり、日本の企業にとっても海外の技術を取り入れたり、社内の国際化につながるというメリットがある。今年の受け入れ先企業は17社で、そのうちの何社かは複数人を受け入れる。すでに20年以上受け入れている企業もあり、コー・オプ・プログラムの高い実績を感じさせる。
コー・オプの参加者たちは4カ月から12カ月間就業する。受け入れ企業に正式採用され、大学卒業後に日本で就職というケースもあるという。また、日本で働いた経験をカナダの企業で生かしていく形で貢献することも期待される。
(取材 大島多紀子)
修了書を受け取る時も日本式にしっかりとお辞儀
CJCP共同ディレクターのジュリー・ウォルクリさん
乾杯の音頭を取った羽鳥隆在バンクーバー日本国総領事
羽鳥総領事に向かって自己紹介する形で、大学名、専攻、勤め先企業名までしっかりと日本語で伝えた参加者たち
日本で就業経験を持つウェミ・エイデさん。明るくはきはきとインタビューに答えてくれた
日本独特の文化に興味を持っているというデビッド・タングさん