2019年5月23日 第21号

親が面倒をみられなくなったときに、子供が平穏無事に生活できるだろうか。発達障害を持つ子供の将来に親が懸念を抱くのは当然であろう。

誰もが病気や認知症を患う可能性はあるし、健康であってもいつかは人生の終焉を迎えるときが来る。いつ何があっても、子供が困らないように準備をしておきたいものだ。

発達障害家族の会『Twinkle Stars』主催のもと、ブリティッシュ・コロンビア州・バンクーバー市のDDA(Developmental Disabilities Association)で4月27日、KMK法律事務所(KMK Law)のケン・クレマー弁護士とエドワード・ノー弁護士を講師に迎え、親なきあとも障害者が安全に暮らしていけるような遺言や信託、資産計画の設定法についてのワークショップが行われた。(メディアスポンサー:バンクーバー新報)

この3時間以上にもわたるワークショップで、耳慣れない法律用語も多く出てくるスピーチに30名の参加者はじっと耳を傾けた。内容は、部分的に日本語でも説明された。

 

(写真中央)講師のケン・クレマー弁護士、(右)エドワード・ノー弁護士、(左から)ワークショップ主催者のバーンズちぐささん、通訳を担当したゴディン裕子(ひろこ)さん

 

PWD(Persons with Disability)と障害者給付

 18歳以上で、肉体的、あるいは精神的な障害が著しく、日常生活を営む能力が極度に限られていて介護を必要とする状態が2年以上続くと、BC州政府から障害者(PWD)と認められ、障害者給付・その他の援助を受けることができる。BC州で障害児としての援助をすでに受けている場合には、ほぼ自動的に援助が続き、簡易化されたPWD申請書で申し込むことができる。

障害者信託の法と政策

 2015年12月1日のBC州政府による規定の変更により、より多くの資産を持ちながら、障害者給付の受給を継続することが可能になった。

 現在、障害者給付受給者の免除資産の上限は10万ドル、夫婦ともに受給資格がある場合は20万ドルである。年間1万2千ドルの上限内であれば、贈与、献金、相続金は免除所得となり給付金の受給に影響せず、その回数に制限もない。養育費援助、遺族年金、Work Safe BC援助金も受け取ることができる。

遺言の重要性

 遺言を残さずに死亡すると、裁判所が指名する人が死亡者の財産を管理することになる。通常、法定管理人には配偶者か子供が指名されるが、家族であっても最高裁判所へ資産管理許可の申請をしなければならない。この許可が下りるまでには時間と費用もかかる。

 一般的に、資産価値は10万ドルを超えることが多く、親が遺言を残さずに死亡して、障害者給付を受けている子供が遺産を受け取ることになった場合、給付金の受給資格を失う可能性が生じる。

 また、子供が18歳以下の場合、親権を託す保護者が遺言によって指名されていないと、子供の親権は政府機関に委ねられ、資産管理権は公的信託に引きわたされる。

遺言の残し方

 遺言者は16歳以上であることが条件で、19歳以上の証人(Witness)2人の同席のもと、遺言書にこれら3人の署名を必要とする。遺言による遺産の受取人は証人にはなれず、証人は謝礼やギフトの受け取りを禁じられている。

 遺言書の証人が死亡しても、遺言書と証人は有効であり、再び作成する必要はない。また、遺言に期限はないが、内容はいつでも変更可能なので、状況や気持ちの変化に伴い常に更新しておく。

 また、遺言による遺産の配分が不適切、不公平な場合には、相続人が法定遺留分への訴訟を起こせることも念頭において分配を決める。通常、障害者には、他より多額に残すのが適切であると法的に判断される。

障害者と信託制度

 財産管理が困難、あるいは不可能な障害者に財産を残すときには、信託制度が使われることが多い。また、本人に持ち家の管理ができない場合には、家を購入して残すよりも、財産は信託として残す方が賢明であろうとクレマー弁護士は語る。

 信託(Trust)とは、委託者(Settlor)が受託者(Trustee)に財産を移転し、受託者は信託財産(Trust fund)を管理、運用して受益者(Beneficiary)に提供する仕組みのことをいう。

 信託には2種類あり、受益者も裁量権を持つ非裁量信託(Non-Discretionary Trust)と、受託者が全面的に裁量権を握る裁量信託(Discretionary Trust /一任信託のことでヘンソン信託法とも呼ばれる)がある。

 非裁量信託では、受託者は全ての裁量権を握っておらず、受益者も受託者とともに、あるいは単独で信託管理ができる。信託財産が20万ドルを超えると障害者給付を受け取れないが、ハンディキャップを持つことによってかかる生涯の費用が20万ドルを超えると政府に認められた場合、この上限額は変更され、障害者給付も受給できる。

 裁量信託では、受益者がいつ、どの程度の額を信託から受け取るかについて決定できる裁量権を受託者が100パーセント握る。受託者は実用的に対応することが義務付けられるが、受益者が信託からの支払いを要求する権限は全くない。しかしながら、信託財産は所有資産とは見なされず、資産免除額の上限もなく、障害者給付を受給し続けることができる。

信託設定時の注意事項

1.信託受託者は遺言で指名し、遺言は政府にも提出しておく。

2.子供が2人以上いて、障害のある子供に財産を多く残したい場合には、その旨を遺言に残すことで均等に配分されることを防げる。また、その理由も手紙にして残すと法的にも意思が反映される。

3.受益者が重度の障害などを理由に自身で遺言を残せない場合には、死亡後の信託資産の受取人を前もって決めておく。信託では、最終受益者が信託を破綻させる力があるので、死亡後の受取人が設定されていることにより、信託が破綻となる可能性がないと見なされる。

4.受益者が信託を破綻させた場合、自身が信託裁量権を持つ場合には、信託財産は個人資産と見なされ、障害者給付は受けられない。

5.受益者が信託財産から現金を受け取ると、個人資産と見なされ、障害者給付から同額が差し引かれる。費用は信託から直接支払ってもらう形を取ることで、こういった問題が避けられる。

6.医療関係、介護サービス、その他、障害者であることによってかかる主な費用は政府から援助されるので、信託金は食費や衣料費、旅費、趣味など、本人の生活をより豊かに向上させるために使いたい。受託者にBC州における障害者援助についての知識がない場合には、受託者が専門の弁護士に相談し、信託金が有効に使われるよう配慮したい。

7.親の死亡後にRRSPやTFSAを子供が自動的に受け取る場合にも、これらが信託に入るように設定しておくことも必要だ。

信託受託者(Trustee)の指定法

 受託者は一人に定めず、数人以上を選び、受益者との年齢バランス(受益者が生涯を終えるまで継続できることが望ましい)、信託管理能力、責任感、受益者との関係、障害者援助システムに関する知識、在住場所などを考慮に入れる。

 通常、9割の人が家族、親戚、友人を受託者に選ぶ。ふさわしい人物がいない場合には、信託会社、弁護士、会計士、ファイナンシャルアドバイザーなどを受託者に選ぶこともできる。

 信託設定には費用がかかるので、どれくらいの財産を残すかにもより、収支の釣り合いが取れているか見極める。信託会社に依頼すると、少なくとも年間、5千〜7千ドル程度の費用がかかる。家族が受託者に選ばれる場合でも、受託者として規定の管理費用を受け取る権利があり、受け取った額は所得税の対象となる。

信託には自分の希望も託そう

 子供に信託財産を残す場合、信託内の資金をどのように使ってほしいか、子供の将来にどのようなビジョンを持っているかを希望状(Letter of wishes)として残す。希望状に法的な拘束力はないが、受託者が信託財産を運営する上で大変役に立つことが多い。例としては、「①息子/娘がどこかへ旅行に行ける機会を毎年与えてほしい、②冷蔵庫内は、いつも食料でいっぱいにしてほしい」というように細かく箇条書きにする。手紙の内容は毎年、定期的に更新する。

代理人契約(Representation Agreements)と代理委任状(Powers of Attorney)について

 資産計画、遺言作成時に必要なのが代理人契約と代理委任状。精神的な能力をいくらかでも失ったとき、死亡したときに、自分に代わって治療や介護、経済、法的なことを執行できる人を指名し、代理人契約書にその詳細を記す。BC州でのアドバンスケア・プランニングを有効にするのに必要で、作成時の弁護士による介助は必須ではない。

 代理人契約書には「Section7」と「Section9」の2種類があり、「Section7」では、認知症などによって判断能力をいくらか失っていても治療、介護、経済的、法的な決定権を部分的に、「Section9」では作成時に遺言者の100パーセントの判断能力が要求されるが、延命治療、その他全てにわたっての決断を任せられる代理人が指名できる。

遺言作成を専門家に依頼する場合の費用など

 さて、気になるのは専門家に依頼する場合にかかる費用についてだが、クレマー弁護士の事務所『KMK Law』では、依頼者はまずウェブサイト(https://kmklaw.net/legal-services/estate-planning/questionnaires/)で質問事項に答えを記入する。質問に正確に答えられている場合には、おおよその費用査定も可能であるとのこと。その後、コンサルテーションに入る前に15分程度、電話での無料相談ができる。この時点で、そのまま依頼を進めていくかどうかを決める。決定したら、1時間程度の本格的なコンサルテーションに入り、その費用は、遺言書作成時の一括料金に含まれている。ただし、依頼を止めた場合には、時間分のコンサルテーション費用が発生する。

 作成にかかる時間と費用は依頼人のケースにより異なるが、費用の平均額は2500〜3000ドルが目安だそうだ。

資産計画の手順と確認事項(『KMK Law』による)

1.準備
*所有、共有する不動産(名義者の名前も)、銀行預金、株、投資、RRSP、RRIF、TFSA、年金計画や生命保険、その他資産価値のある全ての財産と負債を書き出す。
*遺言の計画を練る。子供が未成年で後見人が必要な場合に、指名しようとしている遺言の執行者(Executor)と受託者(Trustee)にその意思があるかを確かめる。
*配偶者と子供への法的、道徳的な義務について考慮する。
*家族の状況を踏まえて、信託が必要かどうかを決定する。
*代理人契約(Representation Agreements)と代理委任状(Powers of Attorney)を設定する。
*専門家に相談し、死亡後に生じる可能性のある税金を最小限にとどめられるよう計画する。

2.実行
*遺言書を作成して署名をする。
*執行者と受託者のために更なる手引きが必要なときには、その旨を手紙に書いて残す。
*財務、法務のための長期にわたる代理委任状(Powers of Attorney)を設定する。
*自分自身の医療や個人的な決断のための代理人計画を準備する。

3.保存と再検討
*遺言は、定期的に見直し、人生に大きな変化があった時には再検討する。
*RRSP、RRIF、TFSA、生命保険の受取人の指定を確認、更新する。
*現時点での資産の記録を保管し、定期的に更新する。
*計画を見直した方がよい状況とは…
 ・遺言作成時、更新時から5年以上経ったとき
 ・別居、離婚、結婚などの変化があった場合
 ・遺言、遺言にまつわる書類中に記載されている人物が死亡した、意思能力を失った場合
 ・遺言書署名以降に子供や孫が生まれた場合
 ・遺言には残していないが、状況次第では経済的援助をする義理のある人物が存在する場合
 ・遺言執行人を変更する必要が生じた場合
 ・遺産の受取人を追加、または削除の必要がある場合
 ・遺言に追加したい遺産が生じた場合
 ・前回、遺言を見直して以来、財産が増えた場合

 

バンクーバーを拠点とする『Twinkle Stars』では、発達障害者を持つ家族のために、今後も定期的に日本語でのワークショップやイベントを開催予定。

ウェブサイト:https://tampoppo.jimdo.com/

連絡先(バーンズちぐささん):This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.

(取材 中村みゆき)

 

ワークショップは英語で行われたため、部分的な日本訳や解説があった

 

ケン・クレマー弁護士

 

エドワード・ノー弁護士

 

ワークショップ主催『Twinkle Stars』のバーンズちぐささん

 

 

今週の主な紙面
3月26日号 第13号

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