2019年4月4日 第14号

3月14日、15日の2日間、ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)日本研究センター(CJR)主催で『北海道150年:近現代日本と世界における殖民・植民地主義と先住民性』関連イベントが開催された。

初日にはUBC人類学博物館(MOA)で、アイヌのミュージシャンとハイダ族ミュージシャンにバンドが加わり、音楽によるコラボレーションが行われた。翌日のワークショップと基調講演に先立ち、ミュージシャンたちが歌と音楽を通して、自分たちの文化を継承することの大切さを表現した。

 

UBC日本研究センターとUBC人類学博物館(MOA)共催で行われた演奏会。アイヌミュージシャンのマユンキキさん(左から4人め)、ハイダ族のテリ-リン・ウィリアムズ=デビッドソンさん(左から5人め)、八幡巴絵さん(右から2人め)

 

『北海道』命名から150年

 2019年は、1869年(明治2年)に独自の歴史や文化のある土地アイヌモシリが『北海道』と命名されてから150年になる。

 UBCでは、同大学歴史学科のトリスタン・グルーノ助教授と人類学博物館(MOA)アジア担当キュレーターであり、同大学で教壇に立つ社会文化人類学者の中村冬日博士が『北海道150年』イベントを企画した。中村博士によると『北海道150年:近現代日本と世界における殖民・植民地主義と先住民性』は日本、アメリカとカナダが共有する植民地主義の歴史や現在の先住民族のあり方を考察し、和解へ向けての相互理解、協力の道を模索することを目的としたもの。

 

先住民問題への取り組み

 現在UBCが力を入れていることのひとつに、カナダで実施された植民地主義や同化政策、先住民問題がある。14日の演奏会で冒頭の挨拶をしたサンタ・オノ学長は、これまでのUBCの取り組みを説明した。

 2017年、ハイダ族酋長でアーティストのジム・ハートさんが彫った55フィートのヒマラヤ杉が『和解のトーテムポール』として、バンクーバーのキャンパス内に設置された。また今年4月には、1800年代から1996年まで続いた寄宿舎学校制度にUBCが携わったことを、サンタ・オノ学長が、寄宿舎学校出身者および先住民族コミュニティに対して謝罪。キャンパス内に寄宿学校に関するセンターが設立された。

 「この土地は、文化、歴史、伝統の上に成り立っています。『北海道150年』は、真実と和解のために国際協力を分かち合う北海道とブリティッシュ・コロンビア州の文化、芸術、音楽を通して国際協力を分かち合うことを目的としています。協賛の在バンクーバー日本国総領事館、国際交流基金に感謝します」と述べ、多田雅代首席領事を紹介した。

 

アイヌの伝統歌

 久しぶりに再会した女性たちが手を取って喜び合う。民族衣装を身に着けたマユンキキさんと八幡巴絵(ともえ)さんの歌は『ウエカプ』という挨拶の踊りから始まった。

 枝に積もった雪が落ちる様子を手振りしながら歌う『シカタ クイクイ』、海の神とも呼ばれるシャチの歌『ポン レプン』など、手を叩いて拍子をとったりしながらふたりの輪唱が続く。文字を持たない狩猟採集民族であるアイヌは、音楽もすべて口伝した。その題材は、広い大地や大自然。アイヌの生活文化の中で生まれたものだ。

 「札幌から来ました。ここは北海道と気候が似ていて、カナダにいるというより地元にいるみたいです。とても楽しい気分です」と話すマユンキキさんはアイヌの伝統歌を歌うグループ『マレウレウ』として活動するほか、アイヌ語の講師を務める。唇の周りにはアイヌの文身(いれずみ)文様に似せたメイクをしていた。

 アイヌ民族に伝わる竹製の口琴『ムックル』を口にくわえて共鳴音を出した八幡巴絵さんは、2020年に開設される国立アイヌ民族博物館の学芸員。白老アイヌの出自を持つ職員として“歌って踊れる学芸員”をテーマに活動中とのこと。

 

ハイダ族の想い

 テリ-リン・ウィリアムズ=デビッドソンさんの曾祖母は、ハイダグワイのスキッジゲート生まれ。白人による入植、植民地化を経験して109歳まで生きた曾祖母を思って作った歌が『Colonization』(入植)。ミュージシャン、活動家、アーティスト、弁護士の顔を持つテリ-リンさんはハイダ族の言葉で歌うことを通して、先住民文化を守ることの大切さを訴えている。

 最後にマユンキキさん、八幡巴絵さん、テリ-リンさんがバンド演奏とともにコラボレーション。3人の歌声が館内に響き、文化を継承することの大切さをダイナミックに表現した。

 

北米で唯一の『北海道150年』関連イベント

 15日のワークショップではカナダ、日本、アメリカの大学より研究者が植民地主義とアイヌのアイデンティティに関する発表をした。その中の石原真衣さん(北海道大学博士研究員)も、アイヌのルーツを持つ研究家である。ミュージシャン3人による鼎談に続き、アメリカと日本における植民地主義に関する基調講演で幕を閉じた。

 MOAの中村博士は「世界的な先住民問題を植民地主義とつなげて考えることと、研究者と研究対象となる先住民の方々の両者に登壇していただくことで、対話と和解を進めることを目的とした企画でした。音楽という共通の言葉を通してのコラボレーションは、演者だけでなく観客も巻き込んで他者への理解や尊重を深めることができたと思います。ワークショップでは、さらに『北海道150年』のテーマに切り込み、積極的な討論が行われました。北米では唯一の『北海道150年』関連イベントだったことで関心も高かったと思います」と話している。

(取材 ルイーズ阿久沢)

 

 

(左から)演奏会で冒頭の挨拶をしたサンタ・オノUBC学長と主賓の在バンクーバー日本国総領事館の多田雅代首席領事

 

(左から)マユンキキさんと八幡巴絵さん

 

竹製の口琴『ムックル』を口にくわえて共鳴音を出した八幡巴絵さん

 

バンドとともに軽快なリズムに乗って自作曲『Colonization』(入植)を歌ったテリ-リン・ウィリアムズ=デビッドソンさん(中央)

 

 

 

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