2019年4月11日 第15号

ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー市の隣組で3月22日、サービスカナダ(Service Canada)から市民サービスのスペシャリスト、ダイアン・ストーズさんを講師に迎えてカナダの年金・援助金についてのセミナーが行われた。(メディアスポンサー:バンクーバー新報) 谷由紀さんが日本語への同時通訳を担当し、藤岡紀子さんが日本語に訳したガイドラインがこの日の参加者全員に手渡された。会場は41名の参加者で盛況となった。

今回は、セミナーで取り上げられた主な内容のみに絞って紹介するが、カナダの公的年金制度は多様で、援助が受け取れる資格やその金額は、様々な条件により決定される。また、収入額の上限などが設けられていても、他の条件や状況が考慮された結果、最終的には受給が可能になるケースもある。

ストーズさんは、「迷ったときには、とりあえず申請してみてください。やってみないことには受給のチャンスは生じません。最悪の結果でも、申請が通らないだけのことですから」と参加者に積極的に申請するように勧めた。

 

内容も複雑なトピックだけに、セミナー後には、多くの参加者からの質問があった

 

カナダ国年金は60歳から受給可能

 カナダ政府による公的年金としては以下の3制度が、その他、個人で掛ける年金としてはRegistered Pension Plan、RRSPなどが挙げられる。

1.CPP(カナダ・ペンション・プラン) 『カナダ国年金制度』
カナダでの就労経験があり、少なくとも1回はCPPに支払いがある人が受給できる。収入から差し引かれ(雇用主が一部支払っている場合もある)積立てられてきたもので、60歳から70歳の間に受給開始が可能で、65歳で100パーセントを受給できる。59歳の誕生日の1カ月後から自己申請ができる。

2.QPP(ケベックペンションプラン) 『ケベック州年金制度』
ケベック州で働いたことのある人が60歳から受給できる。

3.OAS(オールド・エイジ・セキュリティ) 『老齢年金制度』
就労経験の有無にかかわらず、カナダでの居住年数により受給額が決まり、65歳から70歳の間に受給が開始可能。18歳以降に40年間住んだ人には100パーセントの額が支給される。現在、OASの申請は自動的になっており、64歳になればカナダ政府から通知と申請用紙が送られてくるが、65歳の誕生日の6カ月前から自己申請もできる。

 

低所得シニアへの助成金

 低所得・無所得のシニアには、以下の助成金がある。

1.GIS(Guaranteed Income Supplement) 『補充所得年金』
カナダ国政府から低所得・無所得のシニアに支給される助成金でOASの小切手に付与される。

2.BC Seniors Supplement 『BC州補充所得年金』
BC州政府から低所得・無所得のシニアに支給される助成金。GIS受給者には自動的に付加される。

3.Allowance 『配偶者手当』
60歳から64歳の間で、配偶者(内縁も含む)がOASを受給しており、GISを受け取る資格のある人に支給される。

4.GST/HST rebate 『GST/HST 払戻金』
無所得、低所得であっても、インカムタックス・リターンで申請するともらえる可能性がある払戻金。

 

CPP(カナダ・ペンション・プラン) 『カナダ国年金制度』

CPP Retirement Benefit 『退職年金』
 CPPは日本での厚生年金・国民年金に該当するもので、上限(47年間働いた人が受けられる最高受給額)は1154.58ドル、カナダ国民全体の平均受給額は現在664.41ドルである(2019年3月現在)。掛けた額や年数によって受給額が決まる。
 60歳からで受給できるが、60歳から始めるか(36パーセントの減額)、70歳まで待つか(42パーセントの増額)、受給開始の時期によって受給額に大きな差が出るので各自の状況をよく考慮してから決断したいものだ。
 CPPは自身で掛けてきた年金なので、カナダ国外に移住しても受給できる。

Disability Benefit 『障がい年金』
 60歳から64歳で障がい(肉体的、精神的)を患って働けない人は、退職年金(Retirement Benefit)ではなく、障がい年金(CPP Disability benefit)を申請する。障がい年金は、65歳になったら自動的に退職年金に切り替わる。

Dropout Provision 『低所得期の年金補助』
 出産、子育てのため低所得・無所得だった期間(子供が7歳未満になるまでの間)、学校へ通う、仕事がないなどの理由で低所得・無所得だった期間(生涯における就労期間の17パーセント、8年間が上限)、あるいは障がい手当をもらっている期間においては、カナダ政府からCPPの掛け金の補助が出される。
 すでにCPPを申請済みでも、これに当てはまる時期があった人は、過去に遡って申請することができる。

Death Benefit 『死亡給付金』
 配偶者が亡くなると死亡日から何年経っていても申請できる。支給額は一律で2500ドル。

Survivor’s Pension Benefit 『寡婦/寡夫年金』
 CPP受給者が亡くなった場合、配偶者(子供は不可)は60パーセントの額を受給できる。後に再婚(内縁も含む)しても受給は続く。ただし、自身がすでにCPPの最高金額を受給している場合を除く。

Pension Sharing 『所得・年金分割制度』
 配偶者どちらかの収入が多い場合、申請して許可がおりた時点から、二人で所得・CPPを分けて所得税の支払い額を減らすことができる。いつでも中止が可能だが、どちらかが施設や病院に入ったりすると、その時点で継続は不可能となる。

Credit Splitting 『年金均等分割制度』
 結婚、あるいは同居していた期間のCPPは、離婚・別居後も二人分を均一に等分することができる。

 

OAS(オールド・エイジ・セキュリティ) 『老齢年金』

 OAS制度のもとには、OAS Pension 『老齢年金』、Guaranteed Income Supplement (GIS) 『補充所得年金』、Allowance 『配偶者手当』、Allowance for the Survivor 『遺族年金』 の4種類の給付金がある。

OAS 『老齢年金』
 カナダ市民権、または永住権の保有者で、18歳の誕生日以降に最低10年間住むとOASの受給資格ができる。カナダ政府は日本国政府をも含む他国との協定があり、カナダ以前に住んでいた協定国からのOASを加算することができる。
 カナダでの居住年数(永住権の修得日から数える)は1年以上あることが必須。プラス、カナダ以前の協定国での9年が加算可能で合計10年間とみなされる。
 また、カナダに移住する前に、ワーキングホリデーや訪問滞在した期間も考慮されることがある。
 自国に帰国している期間が長く(例えば毎年、半年近くにわたって帰国するなど)、旅行とは見なされない場合には、その期間はカナダでの居住年数には換算されないことがある。
 カナダに40年間在住した人には最高額の601ドル45セントが、20年間在住した人にはその半額が支給される(注:2019年3月現在の額で1年に1回の調整がある)。20年以上の在住者には、カナダ国外へ移住しても支給される。10年間(最低限の在住年数)在住した人には4分の1の額が支給される。

高所得シニアのOAS
 65歳以降も高収入がある人がOASの受給を始めると、所得税が増額されることがある。このような場合には、受給が最高70歳まで延期できることを考慮に入れたい。
 受給時期を遅らせると、支給額がひと月0.6パーセント、年間7.2パーセント増額されるというメリットもある。5年後の36パーセント増額が上限で最高額となり、支給が始まった時点での金額が永久に続く。
 OASの受給時期を65歳よりも延期させたい場合は、その旨を手紙に記し、カナダ政府に提出する。その時にはカナダに到着した日の証明(Landed Immigrant)が必要である。証明書を失くしたら、サービスカナダで申請すると、カナダ移民局に直接問い合わせてくれる。また、コピーが原本と同じであることをも証明してくれるので、公証人や弁護士による証明(有料)の必要がなくなる。

GIS 『補充所得年金』
 カナダ在住のOAS受給者で、低所得のシニアに支給され、支給額は収入のレベル、配偶者の有無により決定される。
 カナダ国外に移住すると、出国日から6カ月を限度に支給される。
 前年には所得があったが今年からはなくなった、というように収入に変化があった場合には、速やかにサービスカナダに申請する。その際には所得の証明も必要となる。
 銀行の利息や株からの収入がある人には、GISの受給資格がない場合もあるが、とりあえず申請してみることも勧められる。
 配偶者との収入を合わせた額から査定され、所得税の申告を4月30日までに済ませると、そこから自動的に受給額が決まる。

Allowance 『配偶者手当』
 配偶者がOAS、GISを受給できる65歳に達すると、60歳から64歳の間で低所得であれば受給資格ができる。
 税金はかからないが、国外では受給できない。

Allowance for the Survivor 『遺族年金』
 配偶者がOAS、GISの受給者でありながら死亡した場合、残された人に受給資格ができる。OASの上限は601ドル45セント。(2019年3月現在)
 収入が規定を多少上回っている場合でも、他のベネフィットが適用、調整されることもあるので、とりあえず申請してみることが勧められる。

 

 これらの他にもサービスカナダからは、健康状態の悪化などにより家の改装が必要になった時の費用の補助(Housing-related programs)や、家賃が収入の30パーセントを上回る場合の差額支給(『SAFER』New Horizons for Seniors Program)、その他様々な援助がある。

 

*サービスカナダに連絡すると、年金の申請について問い合わせることができる。前もって知らせておくと、日本語への通訳も手配してもらえる。
サービスカナダ(Service Canada)の連絡先 
電話番号:1-800-277-9914
ウェブサイト:www.servicecanada.gc.cawww.canada.ca
*また、隣組でも年金に関する情報が提供されている。
*申請用紙はウェブサイトからプリントアウトできる。内容によってはオンラインでも申請できるものもある。

 政府からの援助は、積極的に申請することで、様々な可能性が高まることを常に念頭においておこう。日本と違ってカナダでは、ただ待っていたり、 知らずにいたりすると受給のチャンスを見逃してしまうことにもなりかねないので気をつけたい。

(取材 中村みゆき)

 

 

(写真中央)サービスカナダのダイアン・ストーズさん、(右)隣組ボランティアの谷由紀さん、(左)隣組ボランティアの藤岡紀子さん

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。