2019年3月21日 第12号

戦前のバンクーバーで人種を越えて人気を博した日系人野球チーム「朝日」の元選手上西ケイ(功一)氏がトーマス・ショーヤマ生涯功績賞を受賞した。

3月10日、ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー市で開催された日系プレース基金主催チャリティイベント「サクラガラ」で授賞式が行われ、家族や関係者など多くの人が祝福した。

この日は同時に、戦前の「朝日」の意志を継ぐ野球チーム「新朝日」の選手たちも招待され、日本遠征に向け激励を受けた。 またバンクーバーで和食を普及させ、日系コミュニティに大きく貢献した平居茂氏の功績を称えた。

今年のサクラガラには、講演者としてBC州ジョン・ホーガン州首相が出席。日系人強制移動政策で多くを失ったにもかかわらず、「(その後の)日系コミュニティの存在が、BC州がここまで成長し成功した根幹を成している」と称えた。 この日は在バンクーバー日本国総領事館羽鳥隆総領事夫妻も出席。参加者は約150人。同基金ロバート・バンノ理事長は「今日は、上西さん、新朝日、平居さんの、コミュニティへの貢献に対して感謝したい」と語った。

司会は日系人俳優でスモールビルやゴジラなどのテレビ・映画に出演したことがあるケビン・オオツジ氏が務めた。

 

トーマス・ショーヤマ生涯功績賞を受賞した上西ケイ氏(左)と授与した日系プレース基金バンノ理事長

 

バンクーバー朝日 元選手 上西ケイ氏 「光栄です」 トーマス・ショーヤマ生涯功績賞受賞

 戦前のバンクーバーに圧倒的な強さを見せる野球チームがあった。日系人だけで構成されたバンクーバーの「朝日」だ。まだアジア系への差別が激しい時代にあって、人種に関係なく人気を博した「朝日」は、1941年12月、太平洋戦争勃発に端を発するカナダ政府の日系人強制移動政策によって解散を余儀なくされ、チームは二度とバンクーバーに戻ってくることはなかった。

 しかし、そのフェアプレーとスポーツマンシップを貫いた頭脳的ベースボールは、人々の心から消えることはなく、2003年カナダ野球殿堂入りで再び脚光を浴びた。

 すでに多くの選手が他界し、当時の輝かしかった時代を語れる人が減っていく中、今でも健在で、自身を「ルーキー」と呼ぶ97歳の元プレーヤーがいる。それが上西ケイ氏。

 今回の受賞を受け、「とても恐縮しています」とほほ笑んだ。朝日に入団したのは1939年17歳の時。それから2年後にチームが解散したため、「私は97歳になっても、自分をルーキーと思って毎日を過ごしております」とあいさつをした。「思いがけなくショーヤマ賞をいただきまして、突然の驚きとともに身に余る光栄です」と語り「心からお礼申し上げます」と笑った。

 強制収容中も、戦後も、野球を愛し、スポーツを楽しみ、今は2014年に創設された新朝日チームとも交流を欠かさない。この日は、日系ユースアスレティクス奨学金を授与された新朝日チームも招待され、新旧朝日の選手が揃う晴れの舞台となった。

 

「朝日」のレガシーを受け継ぐ21世紀の「新朝日」

 新朝日野球チームは2014年に創設された。同基金にいたジョシュ・カワード氏によって、戦前のオリジナル「朝日」のレガシーを再現しようと提案されたと、この日チームを代表してあいさつしたエミコ・アンドウ氏が紹介した。

 翌年には日本遠征を実現。以前日系ユースホッケーチームが日本遠征を行った経験を参考にしたという。2年ごとに13歳から15歳までの選手を中心に構成されたチームが日本遠征を実施。日本の野球チームとの親善試合や文化交流を図っている。

 以来、新朝日の名前は瞬く間に広がり、当初は15人だったメンバーは、今では300人を超えるという。メンバーには朝日の歴史、日系コミュニティの歴史、そして朝日が大事にしてきた野球精神を伝えている。メンバーはもちろん日系人限定ではない。そんな新朝日の存在を最も喜んでいるのが上西氏。アンドウ氏は「ケイさんの新朝日チームへの協力と貢献に非常に感謝している」と語った。

 ホーガン州首相は「朝日のレガシーという責任感を受けた新朝日チームに日本遠征で頑張ってほしい。後ろにはBC州民がついている」と激励した。

 

日本遠征を控えて 5勝を約束

 今年は新朝日が日本遠征を実施する。3月14日から28日の日程で、神奈川県横浜市、滋賀県彦根市、最後に甲子園を訪問する。今年の遠征チームキャプテンを務めるブレイク・ダラザナさんに目標を聞くと、「前回の勝利数を上回りたい」と大きな笑顔を見せた。2017年チームは5勝4敗。今年は前回より試合数が少ないため勝率はかなり高くなる。それでもプレッシャーはなく「すごく楽しみ」と目を輝かせた。試合だけではなく、人々との交流も楽しみにしている、たくさんの人と会いたいと語った。

 今回監督を務める福村十三郎氏は、新朝日の野球を見せたいとしながらも、「野球だけではなくて、日本での人々との交流を経て、いろいろなことを吸収してもらいたい」と野球を越えた交流を期待した。

 

日本からジャズシンガー上西千波氏が祝福に

 上西氏のいとこの孫でジャズシンガーの上西千波氏が、この日は日本からお祝いに駆け付けた。

 以前バンクーバーに訪問した時に朝日の物語にインスピレーションを受け、詩を作って日本でも紹介している。

 広島出身で平和コンサートに参加することも多く、上西ケイ氏の親類というだけでなく、朝日の物語を平和へのメッセージとしても発信したいとの思いもある。

 今回は「ほんとに光栄です。何を歌おうかと考えたんですけど、なつかしい日本の歌として『さくらさくら』を選んで、平和の歌をお届けしたと思い『What a wonderful world』を選曲しました。ここで歌えてすごくうれしかったです」と、初めて上西氏の前で歌えたことを喜んだ。

 上西氏は「うれしいですよ。CDで聞かせてもらってますけど、歌うの(を聞くの)は初めてだったので」と隣りの席で笑顔を見せた。

 

日系コミュニティの台所 「フジヤ」社長 平居茂氏の功績を称える

 日系人なら知らない人はいない日本食スーパー「フジヤ」。そのオーナーの平居茂氏は、1969年にマネキレストランを開店、77年にはパウエルストリートにフジヤ1号店をオープンし、日系コミュニティだけではなく、バンクーバーに日本の「和食」を普及させた第一人者。フジヤはその後クラークドライブに移転、ダウンタウンやビクトリアにもオープンした。2002年にはハイゲンキ・レストランを日系ホーム内に開店。多くのシニアが「和食」を楽しめる憩いの場所となっている。

 この日は、平居氏の日系コミュニティへの多大な貢献を称えた。平居氏を紹介したゴードン門田氏は、帰化2世と呼ばれる日系人の歴史やすしバーを導入したマネキレストラン時代の笑い話を紹介し、平居氏がよく口にするという「ミーは何にも知らんのよ」の口癖を真似、会場を沸かせた。

 平居氏はこの晴れの舞台に、「言葉には言えません。これからも、サービスのいい、いい店にしたいと思います。がんばります」とうれしそうに語った。

 

トーマス・ショーヤマ 生涯功績賞

 日系コミュニティやカナダに生涯において多大な功績をした人物に贈られる賞。トーマス・ショーヤマ氏は、サスカチワン州政府や連邦政府の下でさまざまな政策に関わり、カナダに大きな貢献をしたことで知られる日系人。その功績を称え、同賞が創設された。

 毎年日系プレースが主催するチャリティイベントサクラガラで表彰されている。

(取材 三島直美)

 

上西ケイ氏と新朝日ベースボールチームメンバー

 

日系コミュニティへの貢献を称えて花束を贈られた平居茂氏(右)とプレゼンターのゴードン門田氏

 

日本遠征前に激励を受ける新朝日チームのメンバーと、あいさつするエミコ・アンドウ氏

 

ジャズシンガー上西千波氏が日本から駆け付け、上西ケイ氏のために歌を披露した。伴奏はSlinki

 

講演者BC州ジョン・ホーガン州首相

 

司会を務めた 日系人俳優ケビン・オオツジ氏

 

日系プレース基金事務局長 ナオミ・カワムラ氏

 

サクラガラ実行委員会 ブライアン・ツジ会長

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。