2018年11月22日 第47号

オンタリオ州トロント市に拠点を置くジェトロ(日本貿易振興機構)カナダが主催する「日加イノベーション・パートナーシップ・フォーラム」が、ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー市で11月16日に開催された。 今年が日加修好90周年となる記念イベントとして開催。良好な日加経済関係が、従来の製造業・森林業を基本にテクノロジー産業が促進する中、今回はバンクーバーに拠点を構えた日本企業、バンクーバーから日本へ進出したテクノロジー関連企業が集い、双方で事業展開する優位点を語った。 基調講演者には、最近バンクーバーをハブ拠点として事業を開始した富士通インテリジェンス・テクノロジーの最高経営責任者(CEO)吉澤尚子氏を迎え、事業内容とバンクーバーを世界のAI拠点とする利点などを紹介した。 羽鳥隆在バンクーバー日本国総領事、BC州政府雇用貿易技術大臣ブルース・ラルストン氏、連邦政府からは中小企業・輸出振興大臣メアリー・エング氏があいさつ。ジェトロ・トロント所長酒井拓司氏がジェトロの役割について説明した。

 

富士通インテリジェンス・テクノロジーCEO吉澤氏

 

「なぜバンクーバーにAIセンターを設立したのか」
基調講演:富士通インテリジェンス・テクノロジーCEO吉澤尚子氏

 富士通はAIビジネスをグローバルにけん引する新会社として「富士通インテリジェンス・テクノロジー」をバンクーバー市に設立した。テクノロジー分野で最先端を走る富士通がAIビジネスのハブとするセンターを、なぜバンクーバーに設立したのか。

 富士通はAIビジネスにおいて、従来の日本から世界各地域へという一方通行のビジネス形態ではなく、ハブとなるAIヘッドクオーター(HQ)を中心にして世界各地域が連携する形を取っているという。

 そのHQ設立先に選んだのがバンクーバー市。今年11月1日に事業を開始した。バンクーバーに選んだ理由を、1.連邦政府、BC州政府の積極的な働きかけと最新テクノロジー分野への支援、2.AI、量子コンピューティング、データ科学分野において、すでに研究機関での研究が活発、3.多様性があり1QBインフォメーション・テクノロジー(1Qビット)などの量子コンピューティング分野で協力できる機関が多い、4.IT分野でバンクーバーに進出している企業が多く、テクノロジー分野に関して環境が整っている、5.ビジネスを展開するうえでの費用対効果が高い、6.北米という地理的な有利性。アメリカのAIに関する投資は日本の17倍。これらの他にもバンクーバーならではの理由として、多様な才能が発掘できること、北米西海岸で日本に近いこと、アメリカ・カリフォルニア州シリコンバレーと時間帯が同じであることなど、地理的条件も有利に働く。さらに、オンタリオ州のトロント大学と長年にわたり研究では協力関係にあり、今年3月には富士通共同研究所を開設するなど、カナダの研究機関との関係が深いことなどもカナダの都市を選択した理由として挙げた。

 スピーチでは疾風雷神から命名した富士通のAIブランド「Raijin」を紹介。これから世界のAIエコシステムの中核企業となることを目指して、バンクーバーコミュニティとも連携して、ここから世界に発信していきたいと意欲を語った。

 

テクノロジー分野で日本とカナダが協力し世界トップクラスへ

 日本とカナダは、天然資源、自動車、森林、農水産と従来型の貿易関係のつながりも強いが近年はテクノロジー分野での協力が加速していると連邦政府、州政府代表が語った。

 「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPPもしくはTPP11)」が、早ければ来年1月にも発効となる。

 日本・カナダの2国間貿易関係は、ますます活発になると連邦政府、州政府が期待する。なかでもカナダが力を入れているテクノロジー産業では、日本の協力は欠かせないというのが一致した意見。

 エング中小企業・輸出振興大臣は、富士通と1Qビットの協力関係を例に、世界第3位の経済大国であり、世界トップクラスのイノベーション大国の日本はカナダにとって最優先市場と述べ、中小企業日本進出への期待と、「アジアの国々の中ではカナダへの投資が最も多い国」日本のカナダテクノロジー産業への投資増加を期待した。

 BC州ラルストン雇用貿易技術大臣は、富士通の東京事務所にジョン・ホーガン州首相とともに訪問し吉澤氏とも話をした、とBC州の積極的な働きかけを強調した。BC州にはテクノロジーに関する優秀な企業や研究機関が多い。富士通のバンクーバー進出は、こうした研究分野でもBC州に大きく貢献してくれると語った。

 日本との関係はBC州がカナダで最も深い。両国関係はバンクーバーから始まったと言っても過言ではない。アジアの玄関口として「クリーンテクノロジーセクターからデジタルセクター天然資源産業まで、BC 州が(CPTPPの)恩恵を受けるよう努めたい」と、双方向関係強化推進を目指すと約束した。

 羽鳥総領事も日本とBC州の今後の経済関係はCPTPPでますます強固なものになっていくと語った。日本とカナダは2016年6月に安倍信三首相とジャスティン・トルドー首相で双方向の投資を促進することで合意したと紹介し、このようなジェトロの企画は両国にとって非常に有意義なものとなるだろうと語った。

 バンクーバーは多国籍で多彩な才能が多い都市であり、日本の研究機関の本拠地としては理想的な街。またカナダのテクノロジー企業で世界進出を目指すなら、日本への進出は、その第1歩として重要なステップと考えるとも語った。

 今年が日加修好90周年の記念の年であり、総領事館がこのイベントに協力できることをうれしく思うとあいさつした。

 

バンクーバーから日本へ、テクノロジー分野で活躍するカナダ企業

 後半には、バンクーバーに拠点を置くテクノロジー企業が日本へ進出したきっかけや、経験をパネルディスカッション形式で語った。

 司会を務めたのは、カナダ政府からウエスタン・エコノミック・ダイバーシフィケーション・カナダのジョン・タック氏。日本で事業を展開し、日本文化を深く知るため日本の大学を卒業したという経験を持つ。

 参加したのはユニフィラー・システム社長マーク・ソワリス氏、ループシェア社長アンワー・スカリー氏、キャドメイカーズ取締役アモル・ブラックストック・ペドロソ氏、1Qビット共同創設者兼社長ランドン・ドーンズ氏。

 それぞれに日本へ進出する上で苦労したことや日本市場、日本企業との関係などを話した。今回参加した4氏のうち、東京での事務所立ち上げから独自で行ったキャドメイカーズのペドロソ氏は、銀行開設や事務所探しなど、いろいろと苦労が多く、カナダならオンラインで済むところが日本は書類社会で驚いたと語った。

 ユニフィラー社とループシェア社は日本市場進出はスムーズだったと言う。仲介役を務めたのがジェトロ。ソワリス氏は、カナダの中小企業で日本市場への進出を考えているなら、ジェトロに協力を求めるとスムーズにいくことが多いと語った。

 

パネルディスカッションに参加した企業

Unifiller Systems Inc. : www.unifiller.com
LOOPShare : loopshareltd.com
CadMakers : www.cadmakers.com
1Qbit : 1qbit.com

 

ジェトロ(日本貿易振興機構)

カナダ 拠点はトロント。2016年11月に民間企業の意見を政府間協議に反映させるための窓口として「日加ビジネス促進窓口」を設置し、さらなる日加経済の促進に貢献している。バンクーバー事務所ではBC州の情報収集・提供を行っている。

ジェトロ・トロント事務所
120 Adelaid St.W., Suite 916, Toronto, Ontario M5H 1T1, Canada
Phone: (416) 861-0000
Email: This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.
HP: www.jetro.go.jp/canada/

ジェトロ・バンクーバー事務所
Phone: (604) 684-4174
Email: This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it. (英語対応のみ)

(取材 三島直美)

 

 

日本とBC州のさらなる経済関係発展に協力したいと語る羽鳥総領事

 

日本からBC州への投資、日本への輸出が伸びていると日本の重要性を強調。BC州ラルストン大臣

 

カナダの中小企業にとってチャンスが多い日加関係と話す連邦政府エング大臣

 

パネルディスカッションの様子。左から、ソワリス氏、スカリー氏、ペドロソ氏、ドーンズ氏、タック氏

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。