2018年11月8日 第45号

バンクーバー・アジアン・フィルム・フェスティバル(VAFF)がバンクーバー市インターナショナルビレッジで11月1日から4日まで開催された。

第22回となる今年は、日加修好90周年を記念して日系コミュニティとコラボしたイベント “We Heart Canada + Japan 90”を4日に開催。日本とカナダの間で大切にしてきた「心」をバンクーバーの視点で描いた短編映画4作品が上映された。

共催は在バンクーバー日本国総領事館と国際交流基金(カナダ・トロント)。バンクーバーからの協賛はアジア・パシフィック・ファウンデーション・オブ・カナダ。

 

開会のあいさつをする多田総領事代理。次の90年の日加関係につながる企画になったと語った

 

バンクーバー日系4団体とアジア系監督によるコラボレーション

 上映されたのは4作品。バンクーバーの日系非営利4団体とバンクーバーを起点に映画製作を手掛けるアジア系監督4人がタッグを組み、それぞれの視点でバンクーバーの日系社会を描き出した。

 参加した作品は、「和 / Harmony」(バンクーバー日系経済団体連絡協議会:監督アレジャンドロ・ヨシザワ)、「Cosmos」(コスモス・セミナー:監督ルイザ・ファング)、「Way of the Bow」(The Kyudo Association of Canada:監督吉田真由美)、「Shoji」(日系プレースシニアズ:監督ジョン・チャン)。

 各作品は5分以内のショート・ショート・フィルム。限られた時間の中で、どのようにそれぞれのテーマを的確に描き出すかがポイント。

 「和 / Harmony」のテーマはビジネス。父親が築いた小規模だが「和」を大事にして日系コミュニティに貢献してきたビジネスと、父親のビジネスの大切さを認識しながらも自分で築いたキャリアにこだわる娘との関係を、バンクーバーでビジネスを展開する日系親子が抱える葛藤として描いた唯一のフィクション作品。監督のヨシザワさんはこれまでも日系コミュニティの映画を製作したことがあり、「自分のアイデンティティでもあり、日系社会が抱える問題を強制収容以外の視点から描くことも必要だと思った」と語った。

 「Cosmos」は大河内南穂子さんが主宰するコスモス・セミナーのメンバーが、バンクーバーで生活する日系人としての誇りと、異文化の中で暮らす日系人にとってコスモス・セミナーのような団体の存在意味をそれぞれの視点で語るインタビュー形式の作品。大河内さんは「こういう機会をいただけて感謝しています」と語った。意図的に日本語を使ったが自分たちと若者とでは日本語が違うために「翻訳に少し手間がかかったみたいですけど」と苦笑したが、「きれいで、華やかな」日加の架け橋を演出できた上々の出来栄えに、参加してよかったと笑った。

 「Way of the Bow」は、弓道の魅力をバンクーバーでの自分の人生に大きな転機をもたらしたという弓道家たちの言葉と映像で紹介。弓道が持つ一つひとつの動作の美しさを映像で表現したビジュアル的にも日本の伝統美が際立つ作品。世界中で人気を博す日本の武道の中でも、バンクーバーで比較的新しい弓道の団体に焦点を当てた理由を監督の吉田さんは「パウエル祭でデモンストレーションをしている時に魅かれたから」とQ&Aで語った。出演者のひとりマイク・ナカツさんは「すごくよくできて2018年の弓道を表していると思う」とうれしそう。「映像の美しさは吉田さんの力によるところが大きい。僕たちはいつもの練習をこなしていただけ」と語った。

 「Shoji」は日系強制収容がテーマ。強制収容の経験を持つShojiさんの「日系カナダ人としてのアイデンティティ」への思いを綴ったドキュメンタリー作品。日系シニアホームに暮らすShojiこと主役のショージ・ニシハタさんは、バンクーバー市パウエル街の生まれでタシメ強制収容所での経験を持つ。この世代の多くの日系人が持つ自身のアイデンティティについて静かな口調で淡々と語る様子が印象的な作品となっていた。

 撮影場所は、「Cosmos」と「Shoji」は日系文化センター・博物館で、「Way of the Bow」はバンクーバー日本語学校並びに日系人会館と日系コミュニティにとって縁の深い場所が選ばれている。撮影期間はどの作品も1日から2日と短く、スケジュール的にも厳しい中での撮影にはそれぞれに撮影秘話があったようだ。

 

最優秀作品は「Shoji」が受賞、カナダの大使館、領事館で上映予定

 最優秀作品発表の大役を担ったのは在バンクーバー日本国総領事館多田雅代総領事代理。受賞作品は「Shoji」と発表、記念の盾をチャン監督や関係者に手渡した。

 今回の企画 “We Heart Canada + Japan 90”の発起人のひとりは岡井朝子前総領事と明かした。昨年カナダ150周年でVAFFが同様の企画“We Heart Canada”をしていたのを知り、今年の日加修好90周年に合わせた企画を働きかけたという。

 多田総領事代理は「VAFFとジャパンファンデーションの協力がなくては実現しなかったので、すごくありがたいと思っています」と90周年企画の成功への協力に感謝した。「日加という国と国との関係だけではなく、90年、それ以上をかけて日加の人々が培ってきた関係を振り返るいい機会にしてほしかった」と語り、ビジネス、コミュニティ、武道、シニアとテーマが異なる短編映画製作プロジェクトが完成するまでのプロセスが、とてもおもしろかったと振り返った。

 最優秀賞作品「Shoji」は、今後カナダ国内の日本大使館や各領事館で上映されるという。多田総領事代理は、バンクーバーでは領事館主催のイベントの時や映画祭、ホームページやフェイスブックなどでも紹介したいと語った。

 Shojiこと主演のショージ・ニシハタさんは、受賞したことについて「びっくりした」と語った。撮影は、午後の時間を使って経験を話したり、撮影したりと大変だったよう。それにしては映画時間が短く「少し残念だった」と笑った。それでも「おめでとうございます」と言うと「ありがとう」とうれしそうだった。

 

“We Heart Canada + Japan 90”とVAFFについて

 今回のプロジェクトについては、VAFFのサイトに詳細が掲載されている。残念ながら受賞を逃した3作品についての今後の上映は未定だが、コスモス・セミナーでは2020年の20周年に合わせて上映する予定としている。その他2作品も上映機会を模索中としている。

 

VAFF “We Heart Canada + Japan 90”サイト
http://vaff.org/we-heart-canada-japan90/

(取材 三島直美)

 

多田総領事代理と記念の盾を受け取る最優秀賞作品「Shoji」のチャン監督

 

4監督によるQ&A。左から、ファングさん、吉田さん、チャンさん、ヨシザワさん

 

主役のショージ・ニシハタさん(中央)と、2人の息子、デイビッドさん(左)とジェイミーさん(右)

 

会場の大画面に紹介された4作品

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。