2018年10月25日 第43号
高校を卒業し成人となる移行期間は、発達障害を持つ子供やその家族にとって重要な時期だ。18歳以下を対象としたさまざまな助成や支援が、19歳以上になると受けることができなくなる。成人になってから受けられるサポートを知り、子供の将来設計を立てていくTransition Planningについて学ぶワークショップが、9月29日、バンクーバー市にあるDevelopment Disabilities Associationで開かれた。(メディアスポンサー:バンクーバー新報) その概要を紹介する。
左から、マカロフゆうこさん、テリー・シェンケルさん、バーンズちぐささん
ワークショップを主催したのは、発達障害児/者を持つ家族をサポートする日系グループ、Twinkle Starsだ。2010年に発足、2015年からは、ブリティッシュ・コロンビア(BC)州のNPO団体であるDevelopment Disabilities Association(DDA)と協力しながら活動している。セミナーやワークショップなどを企画し、発達障害者を家族に持つ人たちが日本語で情報交換をし、互いに助け合える機会を提供している。
最初にTwinkle Stars代表のバーンズちぐささんが挨拶したあと、DDAファミリー・サポート・サービスのアシスタントディレクターであるテリー・シェンケルさんが同協会のサービスについて説明した。今回のワークショップの講師は、自身も自閉症の子供を持ち、成人への移行期間にもいろいろと苦労を経験してきたというマカロフゆうこさん。同じような境遇の家族をサポートするVancouver Parents Transition Groupの代表を務めている。最初に、会場の約30人の参加者が1人ひとり自己紹介した後、マカロフさんの説明をメインに参加者自身の経験からの補足説明などがあって、質問や意見交換が活発に行われた。
14歳から16歳—準備と計画の時期
ティーンから成人への移行期間に実行したいことを年齢別に挙げたチェックリストをもとに、重要なポイントを説明した。まず発達障害を持つ子供が14歳から16歳の間に、高校卒業後の将来設計について考え始めたい。その子が興味を持っていることや趣味、得意な分野などを実際の社会生活に活かす方法はないか、どういうところで暮らし、どのような仕事に就くか、など家族やカウンセラーなどと相談する。可能ならば、当の本人である子供にも一緒に考えさせることもよいだろう。高校卒業後、大学やカレッジで勉強を続けたいのなら、子供が履修可能なプログラムや受けられるサポートなどについて調べる。公立及び民間の支援機関などが提供するデイプログラムに参加するとか、パートタイムで仕事をするなど、どのような社会生活を送るか考えよう。
また、19歳以上から受けられる支援や助成金などについての情報収集をする。こうした支援や助成を受ける場合、その手続きや審査には時間がかかるものなので、早めから行動に移すことも大切だ。
心に留めておきたいのは、待っているだけではなにも得られないということ、自分たちで行動を起こすことが大事だ。家族、親せき、友人をはじめ、支援機関、カウンセラー、医療関係者、ソーシャルワーカーなど、自分と子供にとって有用な情報やサービスを提供してくれる人たちと積極的に関わるようにしたい。また、同じような境遇の人たちが集まるサポートグループはリソースの宝庫。情報交換だけでなく、気持ちを共有して励まし合ったりできる大切な場所となり得るので心強い。
17歳—各種申請の時期
子供が17歳半になる頃、Ministry of Housing & Social Development(住宅及び社会性発達省・以下MHSD)に障害者手当(Persons with a Disability(PWD)benefits)を申し込む。審査が通るまで大抵6カ月ほどかかるため、18歳時から支給されるようにするためには、その半年前に申請をすることが望ましい。同時にPWDを受け取るための銀行口座を開設するのも良い。
BC州の公共企業体Community Living BC(CLBC)では、主に障害のある人への助成金の支給を取り扱っている。CLBCのオフィスは各地にあるので自分の住む地区のファシリテーターに連絡を取り、指定された医師からの診断書を提出して認定を受ける。成人になってからの住居を探したり、就職支援サービスを受けたりするためには、Community Living service を提供する機関に申請しなくてはならない。こうした機関の多くはNPO団体で、DDA、PosAbilities、Spectrum Society、Burnaby Association for Community Inclusion(BACI)など、多数ある。これらの機関でサポート受けるためにはまず、CLBCで障害者の認定を受けなければならないので、まずはCLBCと連絡を取ることが必要となってくる。自分たちに合う支援機関を探すためにも、いくつかの機関に問い合わせて、担当者と会って話し合ったり、見学に行ったりした方がいいだろう。実際に支援を受けるまでに時間がかかることを考えて、早めに行動を起こすことが大切だ。
18歳—計画を実行に移すとき
高校を卒業する18歳。At Home Programによる医療費の補助が終了する。PWDが支給されることが決まっていれば、18歳から受け取れるようになる。高校を卒業するということは、学業や学校生活をスムーズに行うために受けていた学校からのサポートも終了する。また、子供やティーンとその家族の福祉等を担うMinistry of Children & Family Development(MCFD)から受けていたサポートも18歳まで。まさに転換期といえるだろう。
成人となる19歳からは親は法的に子供の保護者ではなくなる。もし、子供の判断能力等に不安があるなどの場合、医療、生活、経済的なことの管理や決定を子供の代理として執行できるRepresentation Agreement(代理人同意書)を作ることを考慮するのも良いかもしれない。
19歳以上—引き続き将来設計を
19歳になるとAt Home Programからの補助金の支給が終了する。大学やカレッジに進学する人もいるだろうし、なんらかの仕事に就く人もいるだろう。一区切りついたと感じることもあるかと思うが、まだまだ将来のことや住む場所などについて考慮しなければならないことは多い。そういう意味でもネットワーク作りや情報収集などは続けていったほうがいいかもしれない。
親が子供にしてあげられること
最後の質疑応答では、事前に寄せられた多数の質問にマカロフさんやバーンズさんが答えていった。その中で「暴力行為や睡眠障害を持つ人が、グループホームに入ることができるか」という質問があった。入ることは可能だが、睡眠障害を含む問題行動の程度がひどくなるほど、こうしたホームに入ることは困難となってくる。親がずっと子供を療養することは難しいことを考えると、早い段階から問題行動を減らすためのサポートを受けたり、専門家に介入してもらうようにしたい。現在、グループホームは新規につくられることがないため、空きを待つ人が多く、入ること自体が困難というのが現状だ。グループホームの他にもホームシェアという、一般家庭に預かってもらうような形のものがあるが、いずれにせよいつでもすぐに入れるということはない。
今回のワークショップの参加者が持つ子供たちは、小学校低学年から大学生・社会人までと幅広かった。自閉症など発達障害も人によってその症状の程度などが違う。そのため、それぞれの家庭で抱える問題や困っている点は少しずつ違ってくるが、どの家庭でも子供がより良い人生を送れるように、精一杯の努力をしている様子がうかがわれた。さまざまな支援機関がサポートを提供しているものの、どこでもすんなりとサポートが受けられるとは限らない。たらい回しにされたり、冷たい反応にあったり、誰に相談すればいいのか困ったりと苦労は尽きないだろう。
子供が未成年のうちは親が守ることができても、成人し、また親も年を取ることでいつまでも同じように守り続けることは不可能だ。子供がしっかりと自立、または、そのために必要な支援を受けることのできる環境づくりをしてあげることが、成人になろうとする発達障害児の親としての大切な役割なのかもしれない。
**注意**
この記事で取り上げた政府機関や民間の機関や団体の情報などは、2018年9月29日現在のものです。政府の方策など変更が加えられることがありますので、最新の情報をご自身で得られるようにお願いします。
支援機関・サポートグループ
Twinkle Stars
https://tampoppo.jimdo.com/から左側のメニューの「バンクーバー日系家族会Twinkle Starsを選ぶ。自閉症についての説明、情報なども多数掲載。
以下は英語のサイト
Development Disabilities Association
www.develop.bc.ca
Vancouver Parents Transition Group
www.vptg.ca
(取材 大島多紀子)
講演では熱心にメモを取りながら話に聞き入る人が多く見られた