原発事故に対する一般的な考察

福島事故と1986年に起こったチェルノブイリ事故とを比較した講演を行ったのはアーノルド・ガンダーソン氏。エネルギーコンサルティング会社フェアウィンズ・アソシエイツのチーフエンジニアで、原子力産業界で原発の安全性に疑問を投げかけていた元幹部、スリーマイルアイランド事故の調査では専門家証人を務めた経歴を持つ。
講演の中でガンダーソン氏は、両事故の違いについて、チェルノブイリは2週間以内に放射性物質の放出が止まったが、福島は1年経った今でも放出し続けていること、原子炉心がチェルノブイリは1つだったのに対して、福島は10あることを指摘した。類似点は、どちらの場合も、政府による情報隠ぺいが行われたことを挙げた。
福島事故の長期的な影響の可能性については、第1に経済的な負担が38兆円に上ること、第2に今後20年間でガン患者が100万人増加しその他の健康被害も予想されること、第3に焼却による放射性物質の飛散は事態を全国規模に拡大し悪化させることを挙げた。
チェルノブイリか福島かどちらが最悪のケースかという問いにはどちらも最悪と答え、「自然災害だろうと人災だろうと誰も最悪の事態を予測することはできない。原子力エネルギーは財政的にも環境面でも国を滅ぼす可能性を秘めている技術だ」と締めくくった。日本は再生可能エネルギーを主とする国造りを先駆者として実現できる高い技術を持った国。それを将来に活かしてほしいと希望を語った。

カナダとの関係

原発事故の影響はカナダ、特にブリティッシュ・コロンビア州で見られる。ノースバンクーバーに生育する海藻やバーナビーマウンテンに降った雨を調べると、3月11日以降に通常より高い放射性物質の値が検出されたという調査結果が発表された。
また、カナダ側からの視点として、世界有数のウラン輸出国のひとつであるカナダの現状についても議論された。カナダのウラン採掘場でも福島事故と似たような現象が起きていると指摘。ウラン採掘にたずさわった労働者がガンなどで死亡しているケースが目立っているにもかかわらず、政府が正確な現状と数字を発表していないことを例に挙げた。カナダのウラン輸出を止めるには需要をなくすしか方法はないだろうというのが結論だった。ただ、福島の原発事故もカナダのウラン採掘場も同じような状況にある中で、お互いに協力し、世界中で同様の立場にある人々と連携して訴えることができるのではないかとの意見も出された。
その他には、日本に大きな被害をもたらした地震や福島原発事故後にも、カナダ政府もブリティッシュ・コロンビア州政府も必要な対策を十分していないとの指摘も出された。
リスクコミュニケーションという観点から講演したブリティッシュコロンビア大学のアン‐マリー・ニコール博士は、危機的状況における情報伝達について、正確な情報伝達のためには危機に対する技術的対応と精神的対応の両方が必要で、危険性や最悪の事態を否定した過剰な安心報道や共感の欠如といった、現在のメディアの情報伝達態度は基本的なところで危機下の情報伝達方法として誤っていると指摘した。こんなことをしていれば、政府機関への信頼が薄れ、科学者や管理システムにさえ疑いを抱くようになる。福島原発事故で日本国民が経験したことと一致する内容だった。
カナダ、ブリティッシュ・コロンビア州の生態系への影響について、今年漁獲するサーモンから検査を強化する必要があるとの意見も出された。

日本からの報告

日本からは、福島の市民放射能測定所の丸森あや理事長と岩田渉氏、北海道からは市民オンブズマン代表の後藤冬樹氏が参加した。後藤氏は日本の原子力安全神話の崩壊や原子力村という日本独特のコミュニティについて発表。丸森、岩田両氏は、福島県の置かれている現状を訴えた。

会議終了後インタビューに応えてくれた丸森、後藤の両氏は、今回の会議の感想を原発、原子力、福島事故という問題にバンクーバーで関心と知識を持っている人が多いことに驚いたと語り、これを日本で報告することによって、日本での意識もよりいい方向に向いてくれることを期待していると語った。
今後の活動については、丸森氏は、低線量被ばくの影響を研究調査する第三者機関を作りたいと語り、専門家と一般市民とがかかわることによって、より強いネットワークづくりを進め、国際放射線防護委員会や国際原子力機関に匹敵する機関を構築したいと語った。

今回の会議では、学術研究者や専門家がそれぞれの分野から発表し、「原子力」について多角的に考察された。福島で起きた原子力発電所事故を基準に議論された会議だが、いつどこで同じ事故が起きても不思議ではない。そしてカナダ国内に目を転じるとカナダも全国の電力量の約15パーセントを原子力でまかなっている。カナダ原子力協会によると、原子炉は全国で20基あり、18基がオンタリオ州、ケベック州とニューブランスウィック州に1基ずつ建設されている。福島原発事故以後、安全性が強化されたが、福島の事故は100パーセントな安全はあり得ないことを証明した。
会議では最後にこの問題は国際的な注目が必要で、さらに情報交換などを行っていく必要があることを確認した。


ドキュメンタリーフィルム「Surviving Japan」

3月11日の前夜、ドキュメンタリーフィルム「Surviving Japan」の上映会が行われた。シアトル在住のクリス・ノーランド氏監督作品。東日本大震災が発生した当時、東京に滞在していたノーランド氏は、自らの体験と、そこから生じたさまざまな疑問の回答を得ていく過程の半年間を映像に収めている。
自らボランティアとしてがれきの撤去作業に参加し、避難所や仮設住宅で生活している被災者との交流を映し出す。時々垣間みられる被災者の本音が生々しく、痛々しい。
鑑賞後、映画タイトルには、人々が日本でどう生きていくのかという期待と、日本がどう生き抜いていくのかという問いかけが込められているような気がした。
映画内ではオノヨウコ氏が曲を提供している。一般公開に向け資金集めをしている段階だが、ウェブサイトから少しだけ視聴できる。

http://www.survivingjapanmovie.com

(取材 三島直美)

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