出場者と作品
スピーチのテーマは、「じしんよりもっとつよいもの」、「日本の大天災をめぐって」など、昨年3月11日に起きた大震災に関するものが目立った。また、SNSが大流行する現代、国境を越えて日々の生活を気軽にネットでシェアーできるフェースブックは、もはや当たり前。ハリウッドでも映画化されたフェースブックのテーマも多く、ネット中毒になりがちな現代人を浮き彫りにした。「山手線と僕」、「アニメよ、どこへいく?」など出場者の日本に対する興味を反映したものも多く、ユーモアたっぷりのものからシリアスなものまでスピーチのテーマは多岐にわたった。母国語でさえ、多くの観衆を前にスピーチをするのはかなりの度胸がいる。ましてや、第二外国語となるとなおさら緊張するものだ。それにも関わらず、棒読みではなく心のこもった出場者たちの熱弁は、会場の皆をひきつけた。
年々レベルが高くなるBC州日本語弁論大会
「若い割には人生のことをよく考えているのが印象的でしたね。」と大会の感想を話すBC州日本語弁論大会実行委員会のドクター・レベッカ・チャウ氏。「毎年、レベルが上がってきていますが、今年は特に高校生のレベルが高かったと思います。初級の学生でも初級以上の力を持っています。幼い頃から日本のアニメや漫画を見て育ち、日本のソフトパワーが生活の一部となっているようです。彼らの日本語には情熱や熱意がありますね。中には、大学生で全く読み書きは出来なくても、ペラペラに日本語を話せる方がいます。どうやら、日本のポップカルチャーの影響だそうです。今後は、もっとそういった学生たちのニーズに対応出来るように、レベルの高いコースを考え直したいと思います。」と話し、「弁論大会と言っても、皆さんの日頃の成果を全部発揮出来る場にして頂きたいと思っています。コンペティションじゃなく、『お祝いの場』、そして『交流の場』となって欲しいです。日本の文化やテクノロジーに対する意見、震災に対する思いなどを交換する場となることを願います」と締めた。
BC州日本語弁論大会実行委員会の大前典子氏は、「まず、レベルがとても高かったこと、そして粒が揃っていたこと、出場者たちが空覚えじゃなく、自分たちのスピーチの内容や意味をよく分かっており、観衆にそれを全て伝えたいという気持ちがあったこと、この3点が一番最初に頭に思いつきますね」と大会を振り返る。「日本語を勉強する人たちのために、常に何か目標を与えていきたいです。今は中国系の方が多いですが、以前は日系の方も大会に出場されていました。出場するには色々と条件がありますが、少しでも多くの方に日本語弁論大会に出場してもらいたいです。今回はやはり今トレンディーなフェースブックや震災関係が多かったのが印象的です。日々のちょっとしたことをきっかけに、ここまで出場者の皆さんが立派なスピーチを行ったのは素晴らしいことです。出場者皆さんが『スター』です。この大会はみんなと『出会える場』となって欲しいです」と笑顔で話した。
授賞式で「Wow! なんてイベントなの!皆さんグレイト・ジョブ!誰もがウィナーです!」と笑顔で話すドクター久保田竜子氏。「結果を決めるのはとても大変でした。個人的な経験を大きな社会問題に取り入れた方に賞を差し上げるかたちになりました。コンテント重視です。コンテントに自分のオリジナルな考えを加え、そこから自分がどう世界に貢献出来るかが大切です」と話し、「今後も日本語の勉強を頑張って続けてください」と締めた。
ダグラスカレッジでジャパニーズ・ランゲージ・インストラクターをする内藤優理氏は、「とにかく、大会を通して学生たちから勇気をもらいました。人前で外国語のスピーチをするのは、並大抵の努力ではありません。教師の立場としてその努力や苦労は本当に良く分かります。審査員の全員が言ってましたが、出場者たちからもらった勇気が何よりも一番です。これからも、多くの人たちに日本語を勉強していって欲しいです」と大会の感想を話した。
そして、本大会の審査員を務めて3年目になる在バンクーバー日本国総領事の伊藤秀樹氏は、「例年、レベルの高さに感心します。審査をするのが大変なほどです。時期もあり、震災に関するスピーチが多かったと思われます。日本に対する温かいメッセージを感じました。日本語勉強をぜひ続けていって欲しいですね」と笑顔で締めた。
大会の結果
あまりにも出場者全員のレベルが高く、順位を決めるのがとても大変だった本年度。「みんな、ワクワク・ドキドキでしょう!」と日本語で言って会場から笑いを呼んだ司会のマーク・ウィスニエウスキ氏が受賞者を発表。在バンクーバー日本国総領事の伊藤秀樹氏から賞状と賞品を受け取った受賞者たちは皆、「ありがとうございました」と日本語で言い、伊藤氏、審査員達、観衆にそれぞれ深くお辞儀をする姿が印象的だった。また、「1位の賞品はiPod Nanoです」とウィスニエウスキ氏が言うと同時に、会場から「おー!いいなー!」と拍手が沸いた。高校の部を担当したセント・ジョージズ・スクールのマーサ・バセット氏、アルファ・セカンダリー・スクールのノリコ・コサカ氏、JALTAの中本優子氏、立命館の丸山加奈子氏、企友会の西羅正章氏、GPIカナダの下坂陽子氏の6人の審査員、そして大学・一般の部を担当したUBCのベレン・ファン氏、在バンクーバー日本国総領事の伊藤秀樹氏、懇話会の児玉章次郎氏、UBCのドクター久保田竜子氏、三井カナダの内藤修之氏、ダグラスの内藤優理氏、ランガラの竹井明美氏の7人の審査員が、悩んだ末に出た大会の結果は左記の通り。
最後に
スピーチに聞き入る私は「こんなにも綺麗な日本語を耳にしたのは、本当に久しぶりだ」と心でつぶやきながら、驚きと感動が隠せなかった。ある程度の期間以上、異国の地に居るとまともな日本語が話せなくなる。つい、相手が日本人でも英単語が混ざった日本語英語のような会話が成り立ってしまう。言葉の使い方も表現の仕方も北米版ジャパニーズ。さらに、漢字に置いては変換キーのあるパソコンに慣れ過ぎ、読めても書けない、正確には思い出せないことが多くなってきた。日本語が母国語の私でさえ、正しい言葉選びや文章構成は至難の業で、いい加減な日本語で通してしまう。それを考えると、出場者たちの日本語学習への努力は半端なことではないものだと思う。そんな彼らの日頃の日本語学習の成果が存分に発揮された本大会で、私は日本語を学びたい方が多くいることへの喜びを感じながら、私自身がもっと日本語を大切にしていきたいと心に誓い会場を背にした。
BC州日本語弁論大会結果
高校の部初級:
第1位:「ラストプレゼント」のレイチェル・ヴァンさん(バーナビー・ノース・セカンダリー)
第2位:「いじめののぞき」のジャエ・フーン・チョイさん(ロード・バイング・セカンダリー)
第3位:「僕の日常」のアンディ・ソングさん(バーナビー・ノース・セカンダリー)
高校の部中級:
第1位:「大胆不敵な女」のアシュレイ・ルーさん(バーナビー・ノース・セカンダリー)
第2位:「山手線と僕」のヤング・フー・チョーさん(ウエスト・ポイント・グレイ・アカデミー)
第3位:「180度変わった私の考え」のユーユン・グアンさん(ウエスト・バンクーバー・セカンダリー)
高校の部オープン:
第1位:「わたしはだれでしょう?」のシャナ・イーさん(ポート・ムーディー・セカンダリー)
第2位:「アニメよ、どこへいく?」のティエリア・ヤングさん(エリック・ハンバー・セカンダリー)
第3位:「こたえはこころに」のアイリス・フーさん(チャーチヒル・セカンダリー)
高校の部全体:
特別賞:「デニスリッチーはだれでしたか」のジョシュア・フェルナンデズさん(キラニー・セカンダリー)
特別賞:「となりのひと」のウラム・キムさん(ポート・ムーディー・セカンダリー)
大学・一般の部初級:
第1位:「アイドルを目指して!」のエイミー・ベンソンさん(クワントレン・ユニバーシティー)
第2位:「きえた水のあわから学んだゆうき」のジェレミー・カフカさん(UNBC)
第3位:「技術の進歩と人間の生活」のジュンハオ・リーさん(UBC)
大学・一般の部中級:
第1位:「なぜ、弟ばっかり?」のサリー・ウーさん(ランガラカレッジ)
第2位:「絆」のロレッタ・ユーさん(SFU)
第3位:「腐女子と呼ばれる女性」のポーリーン・ツイさん(SFU)
大学・一般の部上級:
第1位:「日本の大天災をめぐって」のフランシスカ・パークさん(UBC)
第2位:「河童と自然と人間」のヴィヴィアン・ヒーさん(UBC)
第3位:「フェイスブック=フェイス・ツー・フェイス?」のアンジェラ・イーさん(UBC)
大学・一般の部全体:
特別賞:「NEETと僕の対話」のリン・ズーさん(SFU)
特別賞:「クォーターライフクライシス」のエリン・パッコーネンさん(UNBC)
(取材 門利容子)