2018年7月5日 第27号

6月29日、ブリティッシュ・コロンビア州リッチモンド市にあるJTBの会議室にて、東京で整体院「ソレシカ」を運営する古藤格啓先生が講演を行った。古藤先生が開発した「ことう式あたまの整体®」は頭がい骨を調整することで全身を調整するというもの。プロの整体師もセミナーに集まるほどのカリスマ整体師である古藤先生の話に、集まった25人の参加者はぐいぐい引き込まれていた。ここで概要を紹介する。

 

 

圧倒的に女性が多かった参加者。古藤先生は、講演会当日とその翌日にも整体の施術を行い、バンクーバー滞在中はフル活動だったようだ

 

迷いながらも懸命に歩んできた道

 古藤先生は東京出身。幼少の頃から両親が医者にすることを目標にしており、英才教育を受けていたが、それが相当なストレスとなり小学生にして自殺を考えてしまうほどだったという。反抗心から公立の中学校に通うことになり、そこで良い先生に出会えたことが、今の生き方にも影響しているという。東洋大学経済学部へ進み、医療とは関係のない企業に就職する。しかし会社になじめず、組織に属することは自分に向いていないことを悟る。その後はプロレスのライターをやってみたりと紆余曲折を経て、整体の世界へ。この仕事を選んだのは実は直感だったという。中学校の養護教員だった母親が第2のキャリアとして整体に関心を持っており、専門学校の資料を取り寄せていた。その資料を目にして自分がその学校の体験入学を受けることにした。それをきっかけに大手の専門学校に通った後、いくつかの整体院で修業を積む。そして横浜で開業し、東京目黒区自由が丘、世田谷区奥沢へと移転して現在に至る。今は整体の施術の他、セミナーや講演会を行ったり、DVD製作などにも携わっている。

 日本では整体師は国家資格ではなく、施術方法も人によりさまざまだ。また保険適用外の診療なので、整体師としてそれなりの数の顧客を得られるかどうかは、その技術にかかっているともいえる。それは技術の研さんを積むことが必要だということだ。人の痛みを取ることにつながる整体師という仕事は医療とも通ずるところがある。家族に医療関係者が多かったことから、この職に就いたことはやはりDNAのなせる業だったのかもしれないと思える。そんなことから、若い世代にアドバイスを求められると「親の背中を見ておけ」と話すという。自分自身、医療従事者であった親の背中を見ていて今の仕事に就いたともいえるからだ。そんな整体師の仕事は自分にとって天職だと思うそうだ。

 

ことう式あたまの整体®の誕生

 横浜で開業し、予約表が埋まるようになると、ますます仕事に打ち込んだ。するとある時突然、突発性難聴になってしまった。耳鳴り、頭痛、右目の視力が落ち、鼻の奥が曲がって呼吸も困難になるほどに。全身麻酔で鼻の手術を受けることになったが、麻酔で心肺停止寸前となる事態に。さらに術後しばらくして、右の顔面と側頭部が左側に比べて前に突き出していることに気がついた。手術の前の不調は全て右側に集中していたことから関連性があるに違いないと思い、頭がい骨に関する医学書を多数入手して勉強。いきついた答えは、頭がい骨は動く、自分の症状は頭がい骨のズレが原因なのでは、ということだった。そして頭がい骨を自分で調整し始めると、右耳の難聴が改善されてきた。それが頭がい骨に注目することになったきっかけだという。自分の体の不調が、自身の整体に新たな道筋をつけたともいえる。人生には無駄なことはないということを実感したという。その後、軽い心筋梗塞にも見舞われるが、左腕(心臓がある側)の硬直を解いていくと心臓に血がめぐる感覚を覚えた。そういったことも整体の施術に関する気づきをもたらしたという。

 頭には血管がかなり集中している。頭がい骨がずれると血管が圧迫され、全身の血流が悪くなる。そこで、頭がい骨のねじれを取って血管の流れを良くすることで不調が改善されることが多い。実際、顧客の頭がい骨を調整していると背中やお腹、足先が温かくなってきたという感想を聞くという。頭がい骨はまた全身とつながってもいる。そういった意味でも、頭がい骨を調整することは全身を調整することにつながるといえる。

 従来の整体の世界では、頭がい骨を触るのはタブーという風潮があったが、古藤先生が頭がい骨を調整する整体に関してのDVDやテキストを世に送り出すようになってから、一般化してきているようだという。頭がい骨を押すというと痛そうなイメージを持つ人もいるかもしれないが、古藤先生の施術はぎゅうぎゅうと力を込めて押す方法ではないため、そうした不安を感じる必要はないとのこと。頭がい骨に特化している(「ことう式あたまの整体®」は商標登録済み)とはいえ、全身をくまなくチェックして調整していく。ソフトな施術ながら本格的で高い効果を実感できる整体技術なのだ。 

 

痛みにこだわらない 

 肩こりや腰痛など、痛みを感じる箇所にダイレクトに施術しても効かないことも多い。全身くまなく調整するという施術を行っているうちに、痛みのある場所から離れたところから調整していくというスタイルを確立していくことになったという。痛みのある場所にダイレクトに施術することが最善とも限らないのだ。また、痛みを抑えるためにすぐ薬に頼ること以外の方法もあるかもしれない。そのように考えのクセを変えてみてはどうだろうか。そうしたことで痛みや不調の概念は変わっていくかもしれない。

 不調の少ない健康的な生活を送るために大切な3つの点がある。まず、きちんと立てる体を作ること。首から上が前に突き出しているとか、胸を張って背中を反らした姿勢は良くない。少し背中が丸いくらいのやや猫背の姿勢の方が自然な立ち方だ。次に、しっかりと呼吸すること。古藤先生も肋骨の位置を調整して呼吸がしっかりできるように施術することがあるという。また、呼吸をする度に頭がい骨は動くので、きつめの帽子を被って動きを止めてしまうのは、しっかりとした呼吸を妨げるので注意が必要。そして血流の滞りのない状態を作ること。それは全身の血管を圧迫しない状態を作るということだ。特に脇の下や太ももの内側など大動脈が流れているところが圧迫されると、全身の血管が委縮してしまう。そのことが体の不調につながっているケースも多い。この3点を普段の生活でも意識してみたい。

 

認知症と整体

 整体は認知症予防の助けになるのではないかと考えているという古藤先生。長期間、体に痛みを抱えていた人は、認知症になりやすいというデータがある。痛みは局部で起こっているが痛みを感じるのは全て脳だからだ。痛みをあちこちに長い間感じていることで、ネガティブな気持ちになりがちなのが、認知症の原因の一つになっているかもしれない。そこで、整体によって痛みを軽減することで、認知症の予防の一助になり得ると考えている。また、降圧剤を服用している人は整体に対する反応が出にくいようだという。降圧剤を飲むと血圧が下がる、つまり毛細血管へ血を送るための血流が下がる。つまり血がすみずみに巡りにくくなるということだ。整体を受けることで血圧が下がることもあるので、試してみることも悪くないのでは。また、降圧剤の服用に関しては、本当に必要かどうかを考慮してみてほしいという。

 

頸椎のねじれを解消

 脳には4本の大きな動脈によって血液が供給されている。2本の内頚動脈と2本の椎骨動脈だ。椎骨動脈は主に小脳へ血液を送っている。小脳の働きは体を動かすことがメインなので、小脳への血液の流れが悪くなると体にも不調をきたしやすくなる。また、動脈が通っている首がねじれていると、血管を圧迫して血の巡りを悪くする。首の骨にある頸椎のねじれを取ることで血流を確保することが大切だ。古藤先生の整体では、全身のバランスを取るように考えて施術しているが、その中でも首を重視しているという。首が痛くて回らない人というのは、ねじれがかなり強い傾向があると思うのでそれを取っていくのがいいかもしれない。

 

日常のセルフケア

 参加者から、首のねじれを直すために自分でできるセルフケアについて質問が出た。利き手と反対の手(右利きの人は左手)を意識して使うようにすることが有効だという。また、歩き始めなど最初の一歩も利き足が出がちだが、反対の足を最初に出すように意識してみるのも良いという。他にも手の平を意識して上や前に向けるようにするのも腰痛予防に有効だそうだ。  最後に、癌で命を落とした友人が遺した「スピリットが喜ぶ人生を送れますように」という言葉を紹介した古藤先生。その言葉の意味をかみしめながらこれからの人生を送っていきたいと結んだ。よりよく生きるための体づくりの手助けをする整体、それが古藤先生の目指す施術なのだろうと感じた。

(取材 大島多紀子)

 

ロックとプロレスが好きという型破りな整体師 古藤格啓先生

 

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