世界の実効支配を目論んできたヨーロッパ、アメリカの勢力は、金融システムをコントロールすることでその実現を目指してきたわけですが、そのバーチャルなお金の増殖が結果的にシステム崩壊を招くことになりました。その一方、実態のあるお金のほとんどを持っている、アジアを中心とした国々が、そのお金をニューヨークのウォール街やロンドンのシティじゃないところで使い方を決めようじゃないかということになり、世界の覇権の中心が大西洋から太平洋に移ってきたというのが、今起こっている歴史的な流れです。見方を変えると、300年間続いたヨーロッパの支配が終わりを迎えようとしていて、そのために不安定な状況を招いているわけです。

 

―つまり、この金融システムの混乱はさらに加速するのでしょうか

最終的に、今のシステムに取って代わるシステムが出来上がれば安定しますが、その過程での混乱は避けられないでしょう。ただし、これはアメリカとヨーロッパでの話です。
ヨーロッパでは、地中海沿岸の国々はEUから離脱、独自の経済システムに戻るでしょう。
アメリカの経済状況は、一般で報道されている以上に悪く、政府はそれを何とか隠蔽しようとしています。そのひとつが失業率で、実はクリントン大統領の時代にその計算方法が変更されています。それは、一年以上失業していた人は計算に含めないなどの変更で、結果として低めの値を出すように操作されたわけです。昨年11月の雇用統計では、失業率が9%から8・6%に「改善」したと発表されましたが、実際には、それまでの1年間に仕事をしていなかった40万人あまりが失業者リストからはずされたために数字が下がっただけのことで、単なる統計上のごまかしにしか過ぎません。もしこの失業率を変更前の方法で計算すると、なんと17・5%、つまり公式発表の倍以上になるのです。さらに、失業しないまでも、かつては安定した定職で高給をもらっていた人が、ファーストフードのパートなどの低所得者になった数までも含めると35%以上になるのが、アメリカ経済の実態です。
この状況は、金融システム(各国中央銀行レベル)のトップでの話し合いがまとまらないので、さらに悪化する可能性があります。大銀行と呼ばれる、例えばシティバンク、バンクオブアメリカ、ゴールドマンサックス、ドイツ銀行などが、場合によっては破綻する可能性すらあります。こういった金融機関は、前回お話したように法的にはお金を作る権利がないにもかかわらず、架空のお金をどんどん作ってきた、いわば詐欺を働いてきたと言ってもいいでしょう。そしてその後始末をどうにかしなければならないところまで来てしまったのです。この問題を解決しなければ、国際決済システムがいったん壊れてしまい、かなりなカオスの状態に見舞われるでしょう。その後に来る新しいシステムに円滑に移行できるように金融機関、政府が責任を持ったやり方をとれば、そういう状況を避けられるかもしれませんが、そうなるかどうかは、指導者次第といったところでしょう。

 

―その、新しいシステムというのは、どのような形になるのでしょうか

可能性が高いのは、ドルを作る権利が、今のような一部の人間による密室の独占ではなく、透明性のある国際グループにゆだねられるのではないでしょうか。新しい金融システムを推進しているグループの言い方を借りれば、ドルをまじめな経済活動による(実体経済にともなう)商品と貴金属本位制にもどすということです。その場合、アメリカは独自のドルを発行することになるでしょう。つまり自分たちの国内用と国際決済用の二つのドルということです。結果として、アメリカは自国民の購買力の低下という痛みと引き換えに、国際競争力を取り戻すことになるでしょう。
要するに、お金が無いものは無いのだから、アメックスを使ってビザの支払いをし、次はビザを使ってアメックスの支払いをするといった、最後に破綻することが見えている自転車操業をやめなさい。現状を受け入れ、出費を収入に見合ったレベルに落とす―外食をやめ、小さいアパートに引っ越し、カードの支払いを済ませてしまう―という根本的治療をしなければならないところまで来ているんですよ、ということです。しかしアメリカはそれを認めたがらずやりたがらず、だらだらと先延ばしにしているのが現状です。
これについてIMF長官が次のように話しています。今までヨーロッパが主導権を握っていたIMFは、危機に陥ってきた国々に苦い薬を飲ませて治療を行って来たが、いよいよ今度はヨーロッパ自身がその薬を飲む番になったのだと。歴史的に見て、金融という産業はGDPの10%ぐらいを占めるに過ぎなかったのに、いつの間にか20%を越えるバーチャルな化け物、いわば寄生虫のような状態になってしまった。そして寄生虫が成長しすぎたため本体が衰弱(格差が広がりすぎて一般市民からお金がなくなり、取れるものがなくなり)、ついにお金を生む金の鳥を死なせてしまうという最悪の事態を招いてしまった。ここで金融業界を縮小再編し、経済基盤を作り直す必要があるのです。自分達(ヨーロッパ、アメリカ)がお金を操り、アジア人が物を作ればいいという間違った考えで、国際金融システムを乗っ取ろうとしてきた付けが回ってきたわけです。

 

―さすがに一般市民もそのような現状に腹を据えかね、昨年はオキュパイ・ウォール・ストリートなど、多くのデモが起こりました。しかし目だった成果も引き出せず、下火になってしまったように見えてますが

今は冬なので下火になっていますが、これから夏に向けて、再びかなりの規模のデモの動きが活発になってきます。アメリカの世論調査では91%の市民が議会を信用していないというデータも出ています。前回お話したとおり、アメリカでは軍隊や警察がワシントンD.C.の言うことを聞かない場面も出てくるかも知れません。自国の政治に見切りをつけたアメリカ人が、大挙してカナダに移動してくる可能性もありますし、世界のあちこちでクーデターや革命が起こるかもしれません。

 

―ここで話題を日本に向けたいと思います。バブル崩壊以来の失われた20年に続き東日本大震災、原発問題、TPP問題など、日本にも問題が山積みのように見えますが、この先日本はどのように進むべきでしょうか

日本でもヨーロッパやアメリカの裏で起こっているような支配勢力の決裂が起こり、話がまとまらないために、現状を打破できないでいます。
TPPに関してですが、日本が参加表明をしていざ蓋を開けてみると、アメリカはどうも非公開で協議を進め、秘密条約にしたい様子です。何か公にしたくない悪い都合でもあるのでしょう。日本はこの状況から、自分たちの利益になるところが少ないと見たようです。1月に予定されていた日米首脳会談がキャンセルされたのも、そのためかもしれません。最終的に、日本はTPPには参加しないでしょう。
そのかわり、中国をはじめとしたアジアの国々との連携を深める動き(たとえば、日中間の貿易決済をドルではなく、円や人民元で行うことを促進する合意など)がますます活発になるでしょう。

 

―アジアの国々の間では利害関係が複雑に絡み、協力関係が築かれるのと同時に、小競り合い(中国漁船の違法操業、軍事行動など)も絶えません。さらに北朝鮮の金日正総書記の死去に伴う朝鮮半島情勢の不安定化も懸念されていますが

北朝鮮の軍や指導部内部では、南北統一と、北朝鮮を中国並みに発展させるという基本的な意思統一がなされたのではないかと思います。そのタイミングでの金総書記の死亡であり、また朝鮮半島情勢を混乱させる理由がない(得をする者がいない)ので、遅からず南北統合に向けた動きが表面化するでしょう。北朝鮮は、マスコミが言うほど狂信的な国ではありません。統一に向けたプロセスの過程では、交渉を有利に進めるためのかけひきの材料として小競り合いなどが起こることはあるでしょうが、基本的な流れは変わらないでしょう。
それは他の国々の間の交渉でも同じことで、局所的ないざこざが全体的な発展を妨げることにはならないでしょう。 ヨーロッパやアメリカとは違い、日本は製造業などの産業基盤を持つ、実態経済が残っている国で世界最大の債権国ですから、経済はやがて回復すると信じています。私は現在東京に住んでいますが、少なくとも目に見える形での不景気は存在していません。ホームレスも目だって増えているわけではなく、失業率も低いまま安定しています。
放射能についても同様で、私も線量計で色々なところ(東京、千葉、群馬、埼玉)を測っていますが、全く測定されないんですよ。これはマスコミが騒いでいるほどの問題ではなく、逆に報道によって日本人の心が汚染されるほうが心配なくらいです。
残念ながら日本の政府は、国民に対して返済できないくらいの借金をしています。それどころか、隠れデフォルトもしています。分かりやすい例は、政府が借金をする手段として一般的な、満期10年の国債です。今までですと10年たって国債が償還されると、政府は新たに10年物を発行していました。それが今では25年物になっているのです。つまり、借金の返済を今までの倍以上先延ばしにしていることになり、これは民間会社ならば不渡りと呼べるものです。そのため、年金支給額が減ったり、福祉の出費が厳しくなるなどが起こるでしょうが、それでも日本は基本的に豊かな国であり、さらに中国、東南アジアの周辺諸国の経済成長が続いている状態なので、最悪でも経済は横ばいか、多分成長するのが2012年の日本だと見ています。


(取材 平野直樹)

注 この取材は、ベンジャミン・フルフォード氏と直接スカイプで行われた。

 

ベンジャミン・フルフォード氏プロフィール
1961年カナダ生まれ。上智大学比較文化学科を経て、ブリティッシュ・コロンビア大学を卒業。「日経ウィークリー」記者、米経済誌「フォーブス」のアジア太平洋支局長などを経て、現在はフリーの国際ジャーナリスト、ノンフィクション作家として活躍中。著書に『メルトダウンする世界経済―闇の支配者と「金融大戦争」のカラクリ』(イーストプレス)、『3・11人工地震テロ&金融サイバー戦争 二人だけが知っている超アンダーグラウンドのしくみ だまし討ちに気づかない日本人へ!これ以上毟られるのがいやならこれだけは知っておけ!』(ヒカルランド)、 『図解「闇の支配者」頂上決戦』(扶桑社)、『イルミナティだけが知っている[洗脳工学編]闇の支配者「絶対構造」の超カラクリ』(ヒカルランド)など多数。

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