祖母の柳行李(ごうり)

「祖母が日本から持ってきた柳行李があるんです。戦時中の強制移動のときにグリーンウッドに持っていき、その後も母が大切に保管していました」と話すローズマリーさん。会ったことのない祖母の話は、子どものころ母からたくさん聞かされた。
明治時代に単身カナダに渡った祖母は、当時の日本人女性としては大変冒険心に富んだ人だったのではないか。それまで2度日本に行ったことのあるローズマリーさんは、祖母の故郷弘前を訪ねてみたいという思いを募らせた。

 

メールがきっかけ

ローズマリーさんの弟のデイビッド浜口さんが弘前コンベンション・ビューロー(現・弘前観光コンベンション協会)に電子メールを出したのは2003年。「私の祖先は侍です。弘前公園の堀端に住んでいるはずの親類、工藤一郎さんを捜してくれませんか」と、英文で問い合わせた。
海外からの突然のメールを受け取ったのは、当時のビューロー事務局次長でみちのく銀行の小林陽一さんだった。ローズマリーさんが後で聞いた話によると、弘前には工藤という苗字がたくさんあるが、小林さんが開けた電話帳の最初のページに工藤一郎さんの名前があったという。

 

親類と対面して墓参り

2005年、浜口さんでなく、姉のローズマリーさんが夫のケンさんと日本へ旅立った。弘前に着いてびっくりしたのは、予想外に大きな町だったことだ。
祖母の実家訪問、墓参り、歓迎会、市内観光に加え、日刊新聞『陸奥新報』からのインタビューなど、訪日前の不安をよそに温かな歓迎を受けた3拍4日の旅だった。
「祖母が育った家を訪ねて祖母が歩いた道を歩く夢がかない、感激しました。母親同士がいとこの工藤さんやその兄弟、親類に会えたのも、小林さんが捜してくれたお陰です」

祖母、大山マキについて

長年、隣組で日系人の世話をしてきた山城猛夫さんによると、工藤マキは1902年に渡加。鏑木五郎牧師の手で、後任の大山卯吉牧師と結婚式を挙げたのはその2年後とされている。
これを裏付けるように丹念に調査したのが、ローズマリーさんが弘前で対面した本田光明・セツ夫妻だ。「工藤マキは祖父の妹で、私の祖叔母に当たります。マキは1875年生まれで、父の工藤真文(まぶみ)は津軽藩の儒学者でした。同じく津軽藩の儒学者であった本多庸一が弘前メソジスト教会の初代牧師になったことから、マキは幼いころから教会の日曜学校に通っていたのです。女学校を卒業後、東京の青山学院に入学したときには、本多庸一が院長になっていました」と本田セツさん。
儒学者は侍に武士道を教える先生で、中国由来の儒教(宗教ではない)に基づき、漢文の読み書きが出来ることから漢学者とも呼ばれていた。宗教色がないのでマキがクリスチャンになったことにも何の抵抗もなかったようだ。
一方の大山卯吉牧師は1867年、鹿児島で薩摩藩士大山綱丈の四男として生まれた。英語を習得するため青山学院の前進である東京英和学校に入り、そこで本多庸一から教えを受け、卒業後BC州リッチモンドのスティーブストン教会に派遣された。
「マキと卯吉はクリスチャン、青山学院、本多庸一の糸でつながり結ばれたのです」

 

カンバーランドでの働き

卯吉がバンクーバー島、ナナイモの北にあるカンバーランドの教会に派遣されたことから、卯吉とマキはナンバー1日本人区に住み、学校が出来るまで教会で子どもたちの指導にあたり、炭鉱で働く日本人家族のために尽くした。胃潰瘍を患ったマキは、バンクーバーのパウエル街で高橋医師の治療を受けていたが、1923年に48歳の若さで死亡。定年後、胃がんに冒された卯吉は1930年、カンバーランド総合病院で亡くなった。享年61歳だった。卯吉とマキは2男5女を育て、カナダに多くの子孫を残し、すでに5世の時代となった。
カンバーランドの日系人墓地には、198人の日系人が永眠している。2008年にカナダを訪れた本田さん夫妻は、浜口さんの運転する車でローズマリーさんとその姉のマリアンさんと一緒に、念願の墓参りをした。「マキの家は弘前城の近くにあり、明治時代からの桜の名所でしたので、桜のオーデコロンを持って行き墓石に降りかけてやりました。マキが弘前を離れてから104年が経っていました」

 

その後のつながり
マキの長女グレース栄はアルバータ州で日系人初の正看護婦となり、その後日本に渡り、1933年に東京で結婚した。1980年代にカナダの親戚が日本を訪れるようになると、英語が堪能な栄が2国に別れて住む工藤、大山両家の橋渡しの役目を果たしたが、その後一族は言葉の壁もあり、音信不通になった。
「デイビッドは日本にいる親族のことを一生懸命探してくれました。今では先祖の古い手紙や文書が見つかると私の夫のところにメールで送ってくるので翻訳してやっています」とセツさん。
メールをきっかけにつながったカナダと弘前との交流。さらに山城さんの紹介で、当地に住む弘前出身の日本人移住者とも知り合ったローズマリーさんは「お城の堀に咲く桜がとてもきれいだそうです。私たちが訪ねたのは10月でしたから、今度は春に行ってみたいですね」と話している。

(取材 ルイーズ阿久沢)

 

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