豊富な知識と経験を織り交ぜた赤堀氏の講演は、単なる経営論ではなく、聴衆に仕事や人生について、深く考えさせるものだった。赤堀氏のこれまでの経営者としてのキャリアの中には、好景気で会社の収益が急増した時期もあれば、2008年のリーマン・ショックの影響により自動車業界が激変し、大きな苦しみや孤独を経験した時期もあった。これらの経験談を交えて、赤堀氏は成長に向けた企業構造改革をわかりやすく説明した。以下に講演の内容の一部を紹介する。

 

赤堀氏が取り組んできた企業構造改革

大学卒業後31年間、日産自動車に勤務し、そのほとんどを海外で過ごしたという赤堀氏が、これまでに訪れた国は70カ国以上にのぼる。欧米、豪州、アジア、アフリカなど、世界中のありとあらゆる場所でビジネスをしてきたそうだ。その長いキャリアの中でも、今回の講演会では、1997年に北米日産フォークリフト社社長としてシカゴに赴任した時の経験、2005年から2009年までJATCO USA(世界第二位の自動車変速機メーカー)の社長を務めた時の経験、そして2009年からのパンパシフィック日産リッチモンド社長としての経験の三つに焦点を当て、企業構造改革について具体的に語った。

 

潜在的なニーズを探し、顧客を創造すること

「会社のサイズによって、経営のスタイルやアプローチは変わるが、経営の本質は、ほとんど変わらない」と赤堀氏は語る。会社は社会の一員であり、社会の潜在的なニーズを満足させ、顧客を創造する存在だ。消費者がまだ自覚していないニーズを探し、そのニーズを満たす手段を提供する。そして、それが消費者に受け入れられることで、新しい市場・顧客が生まれる。米アップルの共同創業者故スティーブ・ジョブズ氏は、まさにそれを成し遂げたと言えるだろう。会社の究極のミッションは、「ハッピーなお客様」を創造すること。これがうまく機能していれば、会社と従業員の将来は安泰だ。

 

「リストラクチャリング」は企業の成長を目的とした構造改革

日本では「リストラ」という言葉が、人員解雇という意味で使われることが多いが、欧米で言う「リストラクチャリング」は、企業の成長や価値の増大を目的とした企業の構造改革であり、決して雇用整理や縮小均衡のみを意味するものではない。
リストラクチャリングの三つの要素は、財務の健全化、事業の効率化、そして明確な成長戦略だ。キーワードは「成長シナリオ」。選択集中と実行のスピードが重要だ。まずは会社を診断し、即効性のある止血策で「出血」を止める。つまり、コストを削減し、生命線であるキャッシュを確保することだ。次に、会社のおかれた競争関係や業界全体を見渡し、会社が将来あるべき姿を描く。そして、そのビジョン達成に向けた改革を継続する。改革の継続なくして、真の企業変革はなく、実行あるのみだ。
赤堀氏は、1999年の「日産リバイバルプラン」や、2009年から自身が取り組んできたパンパシフィック日産リッチモンドの構造改革のシナリオを例として挙げ、リストラクチャリングについて解説した。

 

健全な組織のDNAと企業変革の4R

健全な組織のDNAには、以下の4つの要素がある。
(1)意思決定権(意思決定権と説明責任が明確である)
(2)情報活用(効率の良い情報の流れが、効率の良い意思決定を促す)
(3)動機付け(成果主義による動機付けで従業員は適切な目標達成を目指す)
(4)組織活動(効率的な組織構造により管理面の正しい専門知識がふさわしいレベルで発揮される)
これらが揃っていれば、戦略目標に向かって社員が団結し、かつ外部環境の変化に巧みに対応することができる。また赤堀氏は、自身のバイブルでもある「Transforming the Organization」という本から、「企業変革の4R」を紹介した。
(1)Reframing(企業方針の確立・徹底)
(2)Renewal(組織・人の活性化)
(3)Restructuring(事業の非合理性の排除)
(4)Revitalization(事業成長の始動・加速)
企業は生きている有機体だ。企業は意思を持ち、体も心も魂もある。人間と同じように生まれ成長し、病気になり老いていく。しかし、人間と違って、死は避けられないものではない。病気になったら、器官ごとの治療でなく、全体的治療が必要になる。これらの4Rを実行することで、会社に秘められたエネルギー源を引き出し、素晴らしいものにエネルギーを転換していくことができる。赤堀氏は、「参加者への公開質問状」と題して、講演会の参加者の会社についても質問し、それぞれが自分の会社について考える時間を作った。

 

従業員のやる気を引き出すことの重要性
「企業にとって、最大の重要資産は人です」と赤堀氏は語る。従業員の目が生き生きとしているなら、その会社は伸びる。従業員が「働きがい」を感じる仕事環境を提供するためには、チャレンジ性のある仕事を与え、成果についてのフィードバックをきちんと与えることが大切だ。
例えば、パンパシフィック日産リッチモンドでは、毎月ニュースレターを作成し、全社員に送っている。その中には、会社の方向性などを含む赤堀氏から社員へのメッセージと共に、顧客から届いた感謝状なども掲載している。「機会あるごとに、良い仕事をして頑張って社業に貢献している社員を、皆の前で、そして時として家族の前で表彰することで、益々張り切って仕事に取り組んでくれる。そういう『ほめる企業文化』を持つことが重要です」と赤堀氏は強調した。
構成員が力を合わせ、非凡な成果を上げるのが組織の強み。できる従業員に仕事を丸投げするのではなく、一人一人に適切な仕事を与え、チームワークを大切にする。それに加えて、成果を基準に評価することと、人事評価を明確にすることも重要だ。これらを実行することで、成果が上がる社風(企業文化)を育てることができる。

 

ローコストで効率的な業務運営体制を目指すには

コスト削減についても、社長だけではなく、従業員一人一人が、意識して実行しなければ、成功はしない。そこで赤堀氏が推進してきたのが、社内3C(Cost Conscious Culture−コスト意識の強い企業風土)活動だ。
例えば、JATCO USAの社長としてデトロイトに赴いた時には、会社で採用された従業員のコスト軽減活動に対して、映画のペアチケットと食事券をプレゼントする企画を始めた。そうすると、なんと、一年間で6万ドルのコスト軽減をすることができたという。これこそ、現場力だ。現場にいる従業員は、管理職にはわからないコスト削減の手法や改善すべき点を知っている。インセンティブや、風通しの良い関係性を通して、いかにそれを引き出すかは、経営者の手腕にかかっている。

 

健康を大切に〜食の知識を持ち、毎日の食事で健康づくり

「企業戦士は体が資本」と赤堀氏は話す。企業構造改革を実行するためには、まず、経営者が心も体も健康であることが大切だ。特に健康な食生活を推進する赤堀氏は、講演会の中で食に関するクイズを出し、来場者全員が参加した。和気あいあいとした雰囲気の中、参加者は楽しみながら、もやしや緑黄色野菜など、栄養価の高い食品について学んだ。

二時間半にわたる赤堀氏の講演会は、企業構造改革に関する具体的かつ実践的なノウハウだけでなく、参加者のそれぞれが、経営者として、あるいは従業員として仕事で成功するためのヒントが詰まったものだった。「従業員一人一人が、『もっとがんばろう』という気持ちを持っていることが、最終的な組織の力になると思う」という赤堀氏の言葉が心に残った。

 

(取材 船山 祐衣)

 

Profile

赤堀正明氏:青山学院大学経営学部卒業。73年4月に日産自動車に入社。79年米国イリノイ大学経営大学院に社費留学しMBA取得。89年より同社の北米販売課長、93年より日本地区販売マネージャーを経た後、97年より北米日産フォークリフト社社長としてシカゴに赴任。2005年より09年までJATCO USAの社長を務め、09年よりTNC Automotive Inc.、パンパシフィック日産リッチモンド、サレー各社社長兼CEO。

 

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