東日本大震災の被害と復興の兆しを見せ始めた日本
2万人を超す死者行方不明者、3000億ドル以上という他国の国家予算にも匹敵する損害額。人的にも経済的にも、甚大な被害を受けた被災地の現状はいまだその爪跡を大きく残している。
その一例が倒壊した建物の瓦礫の山。私が訪れた町にも、高さ40フィート(約12メートル)、長さ30メートルにも及ぶ見渡す限り続く瓦礫の山があり、その処理を巡って大きな問題となっている。
被害の後始末は日本にとってこれから乗り越えなければならない大きな壁であることは間違いない。
しかし、日本はすでに復興に向けて大きく前進を始めている。マグニチュード9・0という前代未聞の大地震でも、時速300キロで走行する新幹線は大きな被害を受けなかった。東京の高層ビル群もびくともしなかった。これらの一つひとつをみても、日本の技術力の高さが分かる。
こうした世界最高の技術力を日常的に追及している日本人が、この大惨事から立ち直ることは容易に想像できる。そして、日本の素晴らしさはこの大惨事を教訓として将来に活かす努力をすること。『何が起こり、何を行い、何を行えばよかったか、すべてが痛々しいほどに記録されている』、『失った命の尊さを胸に刻みながら再建する』。すでにその研究は始まっている。

福島原発
私が日本へ行くと言うと、安全性を疑う声が私の周りから上がった。その原因は、福島原発事故であり、事故を集中的に報道してきたメディアにある。
私自身は、今回、福島原発近くへの訪問を強く日本政府に要望した。そして最近まで立ち入り禁止となっていた地区への訪問が実現した。「カナダから食料や水を持って行くのか」と出発前に聞かれたりもしたが、私は被災地に宿泊し、その地で生産された野菜や肉を食した。そうすることを希望した。理由は、そこでどのような生活がなされているのかが見たかったからで、人々の日常は極めて普通だったと報告できる。
だからといって、ここで私がその地域での危険が全くないとは言わない。それでも、放射性物質は毎日、毎時間、発電所では毎分測定されている。その量はほとんどのそれらの都市でカナダを含めた世界の他の都市とほとんど変わらないと報告されている。なにより私自身が安全だと体感した。
私は日本訪問中に、同地で開催されていたツーリズム会議に出席した。世界観光機関事務局長も参加した会議だった。その時、我々がともに発信したかったメッセージは、「我々はここ(日本)にいるし、安全だと感じているし、日本の経済も回復してきている」ということ。
私は日本の復興を比較的楽観的にみている。それは、希望という感情的な面からだけではなくて、再建、経済など現実的な側面からもそのように捉えられることを自分の目で確かめたからである。

TPPについて
講演内でも環太平洋戦略経済連携協定(TPP)について、デイ氏は駆け足で触れた。基本的にはデイ氏は日本のTPP参加に賛成の立場で説明している。TPPについては、来場者からの質問に答える形でより詳しく説明した。(講演時点では、日本はTPP参加を正式表明していなかったが、今月13日までハワイで開催されていたアジア太平洋協力会議(APEC)首脳会議で、日本、カナダ両首相とも正式にTPP参加の意向を表明した)

また来場者からの「TPPについて日本では大議論が起こっていて、デイ氏も日本の参加を促しているが、なぜカナダでは議論すら行われていないのか」という質問に対しては、次のように答えた。

(講演内で示した)日本への提案は、カナダについても当てはまること。カナダは過去3年間、二国間、多国間自由貿易を積極的に推進してきた。今では名実ともに自由貿易国としての立場にいる。それでも、私自身はカナダがTPP参加については真剣に考慮することを同僚に勧めている。国内では特定の産業について交渉不可能な部分があることも事実だが、それらの産業と向き合い、もっと広い視野を持つ必要がある。参加して受けるダメージよりも、参加せずに受けるダメージのほうが大きい。これは両国に言えることだと思う。

原発の将来について
講演終了後、原発の将来についての意見を聞いた。

原発依存については、日本で大きな議論となっている。一つは必要性の是非。これは言うのは簡単だが、実行するのは難しい。二つ目は技術的側面。今回の事故で問題が浮き彫りになった。私は議論をすることは非常に大事だと思っている。そして議論では、科学的根拠に基づき、証拠を基本とし、原子力エネルギーの有無による因果関係を考慮する必要がある。
日本やカナダのような大国では、現時点で太陽光や風力発電は補助にはなるが、経済を支えることはできない。原子力、もしくは天然ガスや石油が必要となるだろう。どちらの方向性を取るにしても、それは日本国民が自分たちで決めることだと思う。

 

ストックウェル・デイ氏
アルバータ州議会議員を経て、2000年にカナダ同盟党首に。2003年同党が保守党となり、2006年に政権を取ると、内閣入り。2008年には国際貿易大臣兼アジア太平洋ゲートウェイ担当大臣に就任。2010年予算庁長官となった。2011年5月の総選挙に立候補せず、政界の第一線から退いた。

 

(取材 三島直美)

 

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