2017年10月26日 第43号
アメリカのコロンビア大学でMBA取得、2000年代の日本で金融業界・機関再生に携わり、バンクーバーでも企業再生を手がける投資家ピーター・エスピグさん。エリート的肩書を持つ一方でビジネスへの考え方はとてもシンプル。日本滞在15年以上、つちかった流ちょうな日本語で、自身の日本での経験はカナダに来ている日本の若者にも通用すると語る。
今回は、日本に感謝し、日本人の実直さが好きだというエスピグさんが、日本の若者にカナダで英語習得とビジネスチャンスをつかむための秘訣をアドバイス。チャンスはいつも目の前にあると語った。
短いカナダでの滞在を有意義なものにするには積極的なアプローチが大事と語るエスピグさんバンクーバー市内事務所で
カナダ人コミュニティで英語習得を
ワーキングホリデーでカナダに来ている多くの若者がおかす間違いは「目的と順序」。英語の習得のためという目的は「それだけでは物足りない」と語る。さらに、英語を勉強したい、ワーホリでカナダに来る、英会話学校を探す、仕事を探す、この「順番に弱点がある」とも。
これではワーホリで来る若者が陥る落とし穴にはまってしまう。英会話学校では留学生との交流がほとんどで限られた英語しか身につかない。仕事探しをカナダに来てからやっていたのでは、レストランやカフェなどしかなく、ここでも使っている英語は非常に限られる。これでは「1年間というせっかくのカナダ滞在がもったいない」という。
解決方法は、まず、来加前から準備すること。自分がどんな仕事に興味があるか、日本に戻ったらどういう仕事に就きたいか、カナダの市場を探してそういう職業があるか、「みつかるかどうかは別にしてまずは準備をすること」。日本人の若者はここを怠る傾向にあるとみている。見つからなければ最終的にレストランやカフェでもいい。
そして英会話については「英語を学ぶための近道は、カナダ人に囲まれて会話すること。カナダ人と何かを一緒にするのが近道」という。例えば、カレッジにはいろいろなコースがある。ワインが好きならワインのコース、もしカフェで働いているとしたらコーヒーメイキングのコースとか。学校のコースでなくても趣味のサークルやクラブのような集まりに参加するとか。「自分の仕事に関連するものや興味のあるコースを取るのがいい」とエスピグさん。授業料もこちらの方が安い。「興味があるから英語も覚えるし、共通の趣味からカナダ人の友達もできやすい」。
自身は日本で料理クラブとワインクラブに通ったという。「日本の料理を習うと同時に言葉も習得する。日本人の友達もできる」と笑う。
会話の上達方法は間違いながら続けること。日本人が英会話学校が好きな理由は、実戦で初めから完璧にやりたいと思うから。だからまずは英会話学校に通って仕事を探す。そこが落とし穴。「テニスでもうまくなる秘訣は、まずは練習を始めて間違ってもいいから続けること。でも日本人の場合は初めからうまく打とうとする。どんどんミスして、ドンドンうまくなる。まずは使うこと」。実戦で使うのが近道と語った。
カナダ人コミュニティと繋がることでチャンスが広がる
共通の趣味はビジネスにもつながる可能性があるとエスピグさん。例えば、ワインコースに参加して、ワイン好きと話していると日本酒の話になったりしてビジネスチャンスにつながるかもしれない。「実際にカナダ社会に入らないとニーズは見つけられないから」と自身の経験から話す。
エスピグさんは、最初に訪日した1989年には山梨に滞在した。理由は「英語を話せる人が少ないと思ったから」。東京のような都会だと英語を話せる人が多い。無理にでも日本語を話す環境に自身の身を置いた。それから山梨には宝石店が多いことを知った。そこから宝石店の人などといろいろと話をして「自分の考え方とちょっと違うなって思って」。そこから自身でも宝石店を開いて成功した。そこにいてコミュニティと密着していなければ見えない視点だ。
興味があることなら何でもいい。バイトをしながらアートが好きならコンピュータデザインコースで学んで、自分のスタイルとカナダのスタイルと比較して、ヒントが得られるかもしれない。ビジネスチャンスがあるかもしれない。ビジネスにつながるものは何も特別なことではないという。
「レストランでバイトみつけて1年間安定して続けられるけど、そうではなくて、まず自分が何がしたいのか、何に興味があるのか、工学部だったとか、エンジニアだとか、絵が好きとか、夢がある人はあきらめないで最後まで好きな業界を探し続けた方がいい」と、有意義なカナダ滞在にするための秘訣をアドバイスした。
ビジネスで成功するために必要なもの
カナダで成功している日本人のビジネスではレストラン業が多い。それはニーズとノウハウがあるからだ。
エスピグさんはカナダでビジネスを成功させるのに必要なものは「勇気とプランニング」と語った。「資本金は別」と言う。「資本金はいいアイデアがあれば集まる」。あとは積極的なアプローチ。日本人はここがソフトすぎると語った。
バンクーバーは日本人がビジネスをするのにチャンスが多いとみている。理由はニーズが多いこと。「バンクーバーではシンプルな日本人スタイルが人気。アジア人が多く、日本のものが大好き。機会は多いと思う」。ビジネスチャンスとは何も特別なものではない。「日本人は自分のアイデアに自信があれば成功すると思う」と語った。
日本に感謝し日本人の実直さが好きだから
エスピグさんは現在、バンクーバーに在住しニコラ・マイニングCEOに就いている。
1989年にブリティッシュ・コロンビア大学数学科を卒業し日本へ。学生時代はアメフト選手としても活躍し、プロ入りの選択肢もあったが「もともと経済に興味があったから」と、経済を勉強するなら「経済大国がいいと思って」と日本行きを決めた。
アジアをあまり知らなかったことも日本を選んだ理由だった。目的は「経済と日本語を学ぶこと」。ウィーン生まれで、ドイツ語、英語、イタリア語を話す。ヨーロッパでの経験はすでにあったため、アジアでの国際経験を積みたいと、当時経済大国として名を馳せていた日本に行った。
日本には約10年滞在。2001年にアメリカのコロンビア大学へ、MBAを取得し2003年に卒業。その後、再び日本へ。日本の金融業界で事業に携わった。2003年には新生銀行(旧日本長期信用金庫)の再生グループに入った。2004年からはゴールドマン・サックスへ。2007年まで勤め、2009年からバンクーバーに在住している。
エスピグさんにとって日本での経験は貴重だったという。日本のビジネスも学んだし、日本人の人柄にも触れた。「日本にすごく感謝しているし、日本人の実直さが大好き」という。だから日本の若者にも成功してもらいたい。日本人の海外での印象は「消極的すぎる」だ。
「ワーキングホリデーでも、学生ビザでも、何が一番大事か。それはカナダ人と接触すること」。英語習得でも、ビジネスでも同じ。そこからいろいろなチャンスが広がっていく。しかし日本人はそこが弱い。もっと積極的になっていいと「やってみようの気持ちがないと始まらないから」とエールを送った。
(取材 三島直美)