2017年10月19日 第42号

アートにはさまざまな表現方法がある。形にこだわる必要はない。伝えたいことを自分なりの方法で表現すれば、それがアートになる。地主麻衣子さん、ナイル・ケティングさんの今回の表現方法はパフォーマンスだ。

今回2人は10月3日から8日までバンクーバー市内各会場で開催された 2017 LIVE International Performance Art Biennale に参加するためにバンクーバーに滞在。10月4日、ウエスタン・フロント(303 East 8th Avenue)で作品を披露した。翌日にはワークショップも行いアートについて語った。

 

地主さん「Sound of Desires」の一場面。2017年10月4日バンクーバー市。Maiko Jinushi, “Sound of Desires”, 2017, Photo by BRYCE HUNNERSEN

 

ケティングさん「first,class」。ケプラーの惑星の音などを使いインターネットの世界と現実世界を表現している。Nile Koetting, “first,class” 2017, Photo by Laura Harvey

 

バンクーバーに新しい感覚のパフォーマーを

 2人のキュレーターはフリーランスの原万希子さん。日本・アジアから世界で活躍する新しい感覚のパフォーマーの作品をバンクーバーで紹介したくて2人を招待したと語った。2人とも音を使ったパフォーマンスだが、ダンスという類のものではない。

 地主さんの作品のタイトルは「Sound of Desires」。出演は地主さんとドラマーのジョン・ブレナンさん。ビデオで撮影録画しながら、ドラムの前に座るブレナンさんに地主さんが「欲望」について質問。その答えをドラムで表現してもらい、その様子を録画するというパフォーマンス作品。ビデオ撮影、質問、ドラム演奏、全てが作品となる。

 ケティングさんの作品タイトルは「first, class」。インターネットで作られる楽しいバケーションを売るストレスフルな日常と、時間と空間の交錯を、音と映像と道具を使って、自由時間でさえ人工的な「バケーション」で埋め尽くす商業主義への悲哀を表現している。

 「私は日本との関係があるから日本から紹介したいなって思った時に、ナイルくんと麻衣子さんの、これはちょっとバンクーバーの美術界では異色に見えるな、新しいなっていう、ここにはない、でも、たぶん彼らのジェネレーション的に同じくらいの世代の人たちにとって、すごく共有する感覚があるなって2人のパフォーマンスを思ってて」と原さん。

 地主さんとは一度2014年に、 一緒にやったことがある。「会話のやり取りの中から偶発的に出てくる世界観を語っていくって言うのは、すごく新しいと思った」。いわゆるパフォーマンスと言われるものとは全然違う構造で成り立っているものを見せたいと思った、と語った。

 ケティングさんの作品については「うわ、これすごい新鮮」と思ったという。「まさにコンピューターの中で起こっている感覚がスペースの中にあるって感じで、これはすごいやりたいって」。インターネットでのバケーションパッケージ販売にインスピレーションを受けたという今回の作品は、まさにパソコン世代の感覚。「偶発的ないろんな情報がくる中から、自分のスタイルとか、ライフスタイルとかをセレクトしていくとか、そういうことってすごく共有する感覚として始まってるなって。それをアートの中でやってるっていうのは、すごく新鮮でした」。ステレオタイプを壊していくアートには、その表現方法が何であれ、そこには新しい感覚で世界を切り取る感性がある。2人はそれを型にはまらないパフォーマンスという表現で伝えている。

 

何かが違うという感覚から生まれた

 地主さんは大学では油絵を専攻していた。それも友達に誘われたからで、特に自ら希望したというわけではない。「ちっちゃい頃、漫画家になりたくて、でも挫折して。中学生の時は小説家になりたくて、で挫折して。高校の時はオーケストラ部にいて音楽やってたんです」と笑った。美大には特に興味がなかった。ただ、絵を描くのは好きだった。授業中に落書きをしていた時、隣の席の美大予備校に行っている生徒に誘われ体験学習に行った。そこで体験した油絵の作品を褒められ美大へ。

 油絵を描きながらも映画や音楽、小説も好きだった。特に「時間の流れによるエモーションの動きみたいなのが、すごく自分にとって興奮を感じたというか」。しかし絵では「リズムとかムーブメントって表現できなくて。自分の人生の時間と小説を読んでる時間がオーバーラップする時のカタルシスが絵ではできなくて。絵を描きつつも、そこをどうやって表現できるんだろうって何年もやってて」。

 ある日文章を書き始め、それを朗読するパフォーマンスを始めた。ある時フェスティバルへの参加を誘われ、そのための作品に男女間の葛藤を描いた自分の文章を男性に読んでもらうという行動をビデオ撮影するということをやった。この時「映像って面白いって思って。映像だったら自分がやってきた絵のビジュアルのイメージも使えるし、そういう時間によるエモーションの変化とか、テキスト、物語とかも全部使えるって思って。そこから映像を作り始めたって感じです」。こうして自分のスタイルを確立した。

 今は対話の中から生まれる感情とストレスを、楽器を使って表現してもらうスタイルを取っている。楽器を使う理由は、よりストレスがかかるから。「そのフラストレーションのある状態にパフォーマーを置いて、どういう変化が出るのかを見たいというか。ただ話してるだけって言うのとは違う要素を入れたかった」。

 ケティングさんのアートへのきっかけは自分が存在できる場所だった。「学校で落ちこぼれで何にもうまくいかないし、友達もできないし。なんか言葉もうまくできないし。その時、すごくアブストラクトな世界に生きてて」。両親に文化的な趣味があり、映画や展覧会に親しんでいた。そうした中で展覧会に連れられて「これなら私も行けるんじゃないかって。こういうクレージーな世界があって、なんか先生とかもいないし(笑)。この作品いいとか、これがアートとかじゃなくて、骨格的なところでこういうスペースが開けているんだったら、自分が存在しててもいいんじゃないかって。なんかある意味セラピーみたいな感じで」。それから展覧会やパフォーマンスを片っ端から見た。美大にも行った。

 しかし「学校っていうものが、そもそも合わないっていうことに気づいて。道であったり、クラブで会ったりする人から学ぶことの方が、数千倍学校で学ぶよりもいろんなことを学べる。自分の場合はね。実際に舞台の上に立ったりとか、ギャラリーの人と会ったり話したりする方が自分に合ってるって思ってるし、来るもの拒まずでいろんなものを、とにかく経験していきたい」。それが自分のスタイルに繋がっていく。

 

アートはクールじゃなくていい

 型にはまったアートを目指しているわけではない。アーティストと呼ばれることにも抵抗がある。そうケティングさんは話した。「もちろん、いつも絶対にいいものを作ろうとはするけど、でも今の風潮のアンチテーゼみたいな感じで、アーティストっていうものはいつもクールな作品を作ってて、失敗がない存在っていうか、そういうものがすごい疑問で」。アートに対して権威的な意味での価値づけに疑問を感じる。「自分は、すごい有名なアーティストが今までと全然違うことして失敗することの方に意味を感じてて」。アーティストが単なる社会的な意味でのアクセサリーみたいになることを危惧しているという。「社会的に立場の弱い人が見えなくなってることとか、障害を持ってる人とかが、たまにだけど社会的にアクセサリー的な要素で使われたりとか。それを打開していかに存在自体が普通のことになるかってことを、そういったことが自分が思う文化だし、そういうところで自分もファンクションしていきたい」。

 アートはアーティストが作るものと思われているが、そうは思っていないとケティングさん。いわゆるアーティストと呼ばれる人ではない人が、意外とそういう機能を社会的に持っていたりする。自分はその延長線上にいる。そう思っている。

 アートを作るのは楽しいという。「社会的に見て、アーティストっていう存在が唯一、すっごいロークラスからすっごいハイクラスまで生きていける職業だなって」。柔軟性があるのはこの仕事ならでは。「多様性に触れられるっていうのは一番面白い」そう語った。

 

社会的多様性が面白い町

 バンクーバーについて「自分はなんかすごい好きで」と地主さん。滞在場所の近くの空き地でネイティブらしい人がドラムに合わせてダンスをしている場面に出くわした。そこにいる人たちの恰好はバラバラ。工事現場の蛍光色ベストを着たり、ホットパンツをはいたおばさんだったり。「しばらく見てたら、女の人が一緒に踊ろうって誘ってくれて。手つないで踊っててそれが楽しかった」という。「バンクーバーのいいところは、ちょっと田舎っぽいっていうか、人が割と温かいというか。小さすぎず、大きすぎず、みんな割とオープンなところ」と笑った。

 ケティングさんは、来る前までは正直、「過ごしやすい系かな」と思っていたと笑った。しかしダウンタウンイーストサイドのような場所を見て、「ダイバーシティがあるっていうのが、街としてすごいリッチっていうか面白いなって思うんですよ」と語った。暮らしているドイツ・ベルリンやヨーロッパは、社会的にすごくうまく操作され過ごしやすい。「生活しにくさだったりとか、生活の厳しさっていうのをじかに見ると、ある意味すごい自分がやってることの意味とかを再確認できるし、そういったところは自分にとってもプラスになったりとか、一歩立ち止まって、自分のいわゆる『アーティスト』としての意味とか、なんで自分はこれやってんだろとか、考えるきっかけにもなります」と語った。

(取材 三島 直美)

 

地主麻衣子さん
神奈川出身。ニューヨーク在住。パフォーマンス中心の活動をしている。
www.maikojinushi.com

ナイル・ケティングさん
日本生まれ。2013年からベルリン在住。作品作りやパフォーマンスなどでヨーロッパ・日本を中心に活動している。
www.nileshaw.org

  

 

パフォーマンスが終わった後の会場で。左から、原さん、ケティングさん、地主さん。2017年10月4日バンクーバー市

 

 

公演翌日に行われたワークショップの様子。2017年10月5日バンクーバー市

 

 

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