2017年5月4日 第18号

4月21日、バンクーバーの隣組で「シニアの住宅」と題して、在宅でのケアと高齢者向けの住宅やケアホームに関するワークショップが開かれ、30人が参加した。 講師は当地でソーシャル・ワーカーを長年続けてきたアンダーソン佐久間雅子さん。日頃、仕事を通じて蓄えてきた情報を隣組でのボランティアとして惜しみなく伝えてくれた。以下、講演の概要を紹介しよう。

 

 

 

◆加齢や病気で日常生活に困難が生じてきた場合どうするか

 どんな手助けが必要かによって、政府関係のサポートが利用可能か、民間のサービスを利用すべきかが分かれる。

 政府が提供する在宅での介護サービスは、生活介助(身体に関わるサポート)のみ。例えば、入浴や着替え、投薬など。そのほかの生活援助(買い物、料理、掃除、洗濯など)は基本的に民間のサービスを利用するしかない。

 ここでひとつ頭に入れておきたい重要なことがある。介護の必要レベルが高くなり、施設に入居が望まれる状況になった場合、政府運営のケア施設に入居するには、基本的にそれ以前に政府の生活介助のサポートを受けていた履歴が必要条件であるということだ。

 

◆政府提供のケアワーカー
政府が提供する在宅ケアの提供者には次の種類がある。

(1)ホーム・サポート・ワーカー (Home Support WorkerあるいはResidential care aidと呼ばれる) ホーム・サポート・ワーカーは、入浴や着替え、薬の投与などの生活介助を行う。
(2)ホーム・ケア・ナース(Home Care Nurse) ホーム・ケア・ナースは、処方箋の管理や点滴などの医療的な手当てや、慢性疾患の管理のための血圧測定などを行う。
(3)作業療法士(Occupational Therapist) 要介護者にとって自宅にどんな介助設備(手すりやバスルーム用の椅子など)が必要かを見極めてアドバイスを行う。 
(4)理学療法士(Physio Therapist) 歩行や移動など、運動機能の訓練に当たったり、適切な歩行補助の器具についてのアドバイスを行ったりする。
(5)アダルト・デイケア 普段一人で外出が難しい人が社会と接することができるよう、各種アクティビティやランチのプログラムを提供。
(6)ケース・マネージメント 日本でケア・マネージャーと呼んでいる職種に相当する。要介護者のケアプランを立案したり、手配したりする。

 以上のサポートをどれだけ必要としているかを政府の査定担当者が判断する。それによって、生活介助サポートの時間の長さ、訪問頻度が決められる。アダルトデイケアの頻度も査定担当者が判断。またホーム・ケア・ナース、作業療法士、理学療法士の訪問頻度は必要に応じ決定される。

 

◆介護を受ける費用

 政府提供の生活介助サポート(ホーム・サポート・ワーカー)の利用費は、要介護者の年間収入に応じて、政府が定めた計算式によって算出される。この年間収入とは純粋な収入を指し、家などの財産は含まれない。(政府からGIS:Guaranteed Income Supplementを受けている人ならば、政府提供のホーム・サポート・ワーカーの費用は無料である)。

 アダルト・デイケアは基本1日10ドル。その他のサポートは無料。

 

◆介護サポートを求める場合の政府機関の連絡先

 政府提供の在宅介護サービスの利用や公的施設への入居を希望する際は、管轄地域別に存在する下記の機関2カ所のどちらかに連絡を。これらの相談窓口には通訳のサービスもある。土日を含む毎日午前8:30〜午後4:30に電話受け付けを行っている。

レーザーヘルスホーム・ヘルス・サービス・ライン
電話:1-855-412-2121 (バーナビー市より東の地域)

バンクーバー・コースタル・ヘルスアクセスライン 
電話: バンクーバー604-263-7377  リッチモンド604-278-3361 ノースバンクーバー 604-986-7111

 

◆在宅の介護サービスー民間サービス利用の場合

 民間の介護サービスを受けたい場合は、介護を提供する民間機関(エージェント)に相談する、新聞に介護ヘルパー募集の知らせを出す、友人知人などに介護ヘルパーを紹介してもらう、といった方法がある。隣組で介護ヘルパーの情報を提供してもらうことも可能だ。  

 エージェントは、通常、医療的介護、生活介助、生活援助、付き添いなどのサービスを提供している。

 政府で提供されるサポートで不十分なところを、民間のサービスで補うことも可能である。(政府が提供する在宅介護サポートは、基本的には最大3、4時間以内である)。

 

◆施設への入居

 要介護の程度により、次の三つの施設から適当な施設を見定めよう。

(1)インデペンデントリビング(Independent Living)
①提供するサービスは基本的には食事と掃除。
②入居者は、歩行・移動に介助が不要で、助けが必要なことを認識でき、助けを呼ぶ能力のあることが望まれる。
③個室があり、食事は共有スペースで食べる。
④運営はすべて民間(営利あるいは非営利団体)であり、費用はさまざま。

(2)アシステッドリビング (Assisted Living)
①提供するサービスは基本的に食事、掃除、生活介助、投薬など。
②③はインデペンデントリビングの特徴と共通。
④運営は政府経営と民間の両方がある。
⑤政府経営の施設の入居料などは利用者個人または夫婦の年間収入に応じて定められる(税引後収入の70パーセント。また入居料には上限及び下限がある)。民間施設の費用はさまざま。 *日系ホームは政府経営のアシステッドリビングにあたる。

(3)レジデンシャルケア (Residential Care)
①24時間ナーシング(介護看護)ケアが受けられる(生活介助、投薬、介護全般)。
②歩行や移動が困難、あるいは認知障害などがあり、24時間の要介護者が入居する施設。
③運営は政府経営と民間の両方がある。
④政府経営の施設の入居料などは、利用者個人または夫婦の年間収入に応じて定められる(税引後収入80パーセント。また入居料には上限及び下限がある)。民間施設の費用はさまざま。

 

◆入居に当たって

 政府経営の施設に入居を希望する場合は、居住地域の機関(先のフレーザーヘルス、またはバンクーバー・コースタル・ヘルス)に連絡して、査定を受ける。冒頭で述べたように、政府施設への入居が認められるのは、基本的に入居以前に政府提供の在宅サポートを受けていて、その後自宅で生活が困難になった場合に限られる。

 どの施設に入居するかは、自分で希望を出すことができる。ただし空きがない場合は、順番待ちとなる。このウェイティングリストからの入居は、申し込みの順番が先かどうかではなく、施設での介護の緊急性の高い人が優先となる。

 施設の所在地に関し、基本的に入居可能なのは住居地域の施設であるが、入居希望者の文化背景なども考慮され、地域を越境しての入居が認められる場合もある。(バーナビー市以外からの日系ホームへの入居など)。

 

◆アシステッドリビング 、レジデンシャルケアや在宅サポートに関する情報サイト

フレーザーヘルス (バーナビー市より東の地域)  
www.fraserhealth.ca > Health Info> Home and Community Care
(Burnaby, New Westminster, Surrey, Maple Ridge, Port Coquitlam, Langley, Coquitlam, Port Moody, Delta, Pitt Meadows, White Rock, Chilliwack, Abbotsford, Hope, Misson)  

バンクーバー・コースタル・ヘルス 
www.vch.ca >Your Health >Seniors (Vancouver, Vancouver's North Shore, Richmond, the Sea-to-Sky Highway, Sunshine Coast, Bella Bella, Bella Coola, the Central Coast およびその周辺)

 

◆その他のシニア向け住宅

 介護などのサービスはないが、料金等の面で利点がある住宅も紹介された。

(1)非営利団体が経営するシニア向けアパート 
①年齢制限がある。 
②生活介助や食事、掃除などのサポートはない。
③通常の家賃より低料金である。 

(2)BCハウジングのシニア向けアパート
①55歳以上入居可能。
②大半は生活介助のサポートはない。
③収入制限がある。

 

◆住宅に関するその他のサポート
・BCハウジングが提供する住宅補助金制度
 SAFER(Shelter Aid for Elderly Renters)

 以下の条件を満たせば、誰でも補助金がもらえる制度である。
①60歳以上で、12カ月以上ブリティッシュ・コロンビア州に居住歴のあるカナダ市民、永住者か難民であること。
②住まいの家賃が収入の30パーセント以上であること。年収の上限がある。

 講演では、そのほかシニア向けの住宅の情報源やGISに関連した経済的な情報など、実用的な内容が紹介された。参加者からは「政府関係の施設に入居するためには、自宅で介護を受けていたことが条件となることを知ってよかった」と感想が聞かれた。

 なお、政府の提供するサービスの規定などは日々変わるため、最新情報を確認のうえ、実際の利用にあたってほしい。

(取材 平野 香利)

 

 

司会を行う隣組の高科磨理子さん。定員いっぱいの参加者に、関心の高さが伺われた

 

 

 

ケア施設の特徴を簡潔が紹介された

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。