2017年4月27日 第17号

マニトバ州ウィニペグから単独人力でウィニペグ湖、グレートスレーブ湖、グレートベア湖と全踏破。さらに北極海を2000キロ歩いて、極地冒険の聖地レゾリュートへの自力到達。冬のカナダを舞台に壮大な冒険にチャレンジしている日本人がいる。本紙でも何度か登場している冒険家の関口裕樹さんだ。整備もされてなく無人の氷上を歩くことから、活動時期は冬期のみ。全行程は4〜5年かけて到達を目指している。日本に帰国するため、乗り継ぎでバンクーバー空港に立ち寄った関口さんがインタビューに応じてくれた。

 

 

冒険中の関口裕樹さん

 

これまでにもカナダに冒険にいらっしゃって、インタビューさせていただいていますよね。今年の冒険について、いつ開始および終了したか教えてください。

 2月7日に日本を出て、バンクーバー経由でウィニペグに到着しました。2月11日まで食料や燃料調達といった準備をして、実際に歩き始めたのは2月12日です。今年は暖冬で氷の状態が悪く、3月25日に冒険を終了。42日間かけて約600キロメートル歩きました。

 

今回、歩いた道のりは?

 冬期のみ、川や湖が凍結したところを歩くのが僕の冒険のスタイルです。ウィニペグから20キロほど北東にある、レッドリバーが流れるセルカークという街から始めて、ウィニペグ湖を北端の街、ノルウェイハウスへ。ノルウェイハウスからはネルソンリバーを北上するつもりでしたが、氷が解け始めていたので、今年の冒険は終了することに決めました。ノルウェイハウスに到着した数日後のことです。

 今回は氷の状態が悪かったので氷上を歩いている間、ずっと緊張していました。だから、道路に出て気が抜けてしまったような気がします。

 レゾリュート(北極探検の拠点)まで4〜5年かけて到達することを目指しています。

 

グレーターバンクーバーは今年の冬については暖冬ということはなく、雪が多く、寒かったという印象がありますが、マニトバは暖冬だったのですか?

 僕がいた2月〜3月にかけての気温は、平均でマイナス一桁台から10度前後でした。マイナス40度といった気温を記録する地域なので、随分暖かかったことになります。

 何度か雨にも降られました。

 

雪ではなく雨ということは、確かに気温が高かったようですね。セルカークからノルウェイハウスの少し先まで、スキーと徒歩で踏破したということですが、荷物を運ぶのにそりも利用していらっしゃいますね。関口さんのような方が使うのは、特別なそりなのでしょうか?

 昨年の北極圏海面踏破では、海に出るため100キログラム前後の荷物を載せることもあり、特別なものを使っていました。そちらは借り物だったのでお返しして、今年は、ホームセンターにあるような3千〜4千円の、カナダでも30ドルぐらいで購入できるそりを利用しました。今年は70キログラム程度の荷物でした。

 

冒険中は、どのように一日を過ごしましたか?

 7〜8時ごろに起床。2時間ほどかけて、水を作ったりして準備をして、10時から夕方6時ごろまで歩きます。大体6時ごろに、その晩を過ごすところを決めますが、湖で氷が割れていたりすると、そこから離れて陸上でテントを張りました。夜はルートを確認したり、日記をつけたり…。それから装備のメンテナンスをして11時ごろ寝ます。睡眠時間は約8〜9時間です。

 

一日の歩行距離は?

 15〜20キロメートルです。

 

今回の冒険で辛かったことを教えてください。

 暖冬のせいで、氷が思ったより凍っていなかったことです。予想していたより悪かったですね。4月初めぐらいまでは凍っていると思っていましたから。

 食料や燃料の補給も、当初の計画では400キロほどいったところで行うつもりが、氷の状態がよくなかったため、ペースも悪く、予定より早く補給しなければなりませんでした。

 

冒険中、どんなものを食べていらっしゃったのでしょう。

 テントではラーメンやミニッツライス、昼間の動いている間はチョコレートクッキーを食べたりします。

 

冬なので野菜や果物はとれませんよね?

 ですからビタミン剤を持ってきました。

 

プロテイン(たんぱく質)源は?

 サラミやジャーキー、粉ミルクなどで摂ります。昨年は海だったのでクジラの肉など手に入りましたが、今年は湖と陸だったので、そういったものは食べませんでした。

 

大自然の中を一人ということで、場所が場所だけに動物に襲われる危険はありませんでしたか?

 動物の姿は見ませんでした。でもオオカミの足跡を見ました。大きくてクマかと思ったんですよ。写真を撮って、地元の人に聞いても、クマだという人もいれば、オオカミという人もいました。結局、ハンターがオオカミだと言っていたので。

 夜、遠吠えとかも聞きました。

 

お一人で、怖くなかったですか?

 ちょっとは怖かったけど、何もなかったので、大丈夫なのかなって。オオカミは人は襲わないそうなんです。住民に聞くと、ペットは危ないから気を付けろって言ってました。ベアスプレーはあったほうがいいかなって思いましたが、ああいうものはバンクーバーとか大きな街のMEC(アウトドア用品店)などでしか買えません。

 

今回の冒険で良かったことを教えてください。

 思ったより楽しめたことです。僕は完全に人の気配がないところで、大自然を感じたいと考えています。周りに町があるのでどうかなと思ったのですが、求めていた環境に近かったと思います。

 また、ウィニペグ湖を無補給で歩ききるつもりが、ペースが悪かったため、先住民インディアンの村を食料や燃料の補給に訪れました。彼らと話ができたのがよかったです。どちらかというと無関心で、ものすごくフレンドリーというのではなく、困ったら助けてくれるというように素朴な感じでした。

 

ずっと一人で淋しくなったりしないのですか?

 それはないです。一人で楽しめます。

 

ブログに「なんだか、自分がやりたい冒険のスタイルに近づけていた様な気がするんだけどなぁ…40日ではちょっと短い。出来ればあと一月程は、無人の川をひたすら一人で歩いていたかった。」と書いていらっしゃったのが、私には印象的でした。関口さんのやりたい冒険のスタイルというのは、どういうものでしょう。

 先ほども話をした、完全に人の気配がないところで、大自然を感じて冒険するって感じですね。僕は極地冒険には必需品といわれる衛星携帯電話などの通信機器を持っていないので、動けなくなるとやばいんです。僕が今、目指しているコースは地味で、恐らく僕が初めてだろうというコースです。そこを黙々と歩くのが楽しかったです。

 来年については、まだはっきり決めていませんが、今、考えているのが、今回、冒険を終了したノルウェーハウスから再開して、自転車でイエローナイフを目指すという旅ですね。やはり2月〜3月と冬期に挑戦します。

(取材 西川桂子/ 写真提供 関口裕樹さん)

 

名前:関口 裕樹(せきぐち ゆうき)
生年月日:1987年8月16日(29歳)
山形県山形市出身・在住
スポンサー:モンベル
e-mail:This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.
ブログ: 関口 裕樹 冒険のブログhttp://ameblo.jp/timl40000k/   

関口裕樹さんの冒険の軌跡:
2006年 徒歩日本縦断 2715km 109日間 
2007年 自転車日本一周 9051km 83日間 
2008年 韓国縦断 720km 29日間 
2009年〜10年 自転車オーストラリア大陸一周(自転車によるコジアスコ登頂・滑降) 21075km 233日間 
2010年 自転車日本横断265km 20時間28分 徒歩台湾縦断569km 31日間 
2011年 自転車厳冬季北海道走行 1320km 21日間 
2012年 1月 自転車厳冬季アラスカ縦断(失敗)778km 21日間   2月 徒歩行厳冬季アラスカ200km 6日間 
2013年 自転車厳冬季アラスカ縦断1400km 32日間   徒歩日本横断250km 7日間 
2014年 厳冬季カナダ北極圏マッケンジー河400km踏破 
2014 年 真夏の砂漠デスバレー縦断~気温差100 度への挑戦 780km13日間
2015 年 徒歩行厳冬期知床半島(敗退)スタート前に敗退を決定 記録なし
2016 年 厳冬期カナダ北極圏海氷面スキー&徒歩踏破400km  34日間
2017 年 厳冬期カナダ人力縦断 Phase 1 600km 42日間

 

 

その日の行動を終了してこれから夕食、就寝。 テント、寝袋、マットと全て極地冒険用だ

 

 

凍りついた湖の上をひたすら歩く

 

 

人の気配が全くない

 

 

氷の状態がよくないときは陸上で テント

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。