2017年3月16日 第11号

万が一、病気やけがで自分に判断能力がなくなってしまった場合、医療・看護の判断や、財産管理を誰に行ってもらいたいだろうか、どんな医療看護を受けたいだろうか。事前の医療計画と生存中の財産管理について弁護士の森永正雄氏に話を聞いた。(この取材は2月22日、隣組で行われたワークショプ「第2回アドバンス・ケア・プランニング」の内容を弊紙が森永氏にインタビューして、編集したものです)。

 

 

「事前に準備がなく、判断ができなくなった人の判断を引き継ごうとする場合は、裁判所に後見人として任命されなくてはならず、時間も費用もかかる手続きとなります」と森永正雄弁護士

 

世話をする 周囲のためにも

 もし認知症などで自分のことを管理・判断ができなくなった人の代わりに、周りの人たちが必要なお金を銀行口座から引き出したり、医療や看護にかかわる判断を下すことは、しばしば必要になることだ。しかし何の準備もなければ、ブリティッシュ・コロンビア州の法律では個人の権利保護のために、本人の財産は凍結される。また例え一番身近に世話をする人がいる場合でも、医療看護にかかわる決定権は、本人との実際の近しさとは関係なく、法律に則って自動的に代理人が定められる。

 そうした処置を回避するためには、

(1)誰に医療看護の判断を委ねたいか
(2)どんな医療処置を受けたいか
(3)誰に財産管理を委ねたいか

を明らかにした法的に有効な書面を事前に用意することが、本人にも周りにも重要な意味を持つ。

 

 本稿では、死亡後に必要な書類である遺言状については触れず、生存中に必要な書類に焦点を当てる。以下、判断能力がなくなり、誰かに判断を委ねる状態になった人を「本人」あるいは「委任者」と呼んで、必要な準備にかかわることを紹介しよう。

 

(1)誰に医療看護の判断を委ねたいか

 本人に判断能力がなくなった際に、本人に代わり医療看護の判断のできる人は法律で定められており、Temporary Substitute Decision Maker(暫定的医療代理人)と呼ぶ。

 暫定的医療代理人は以下の順番で自動的に選ばれる。

①配偶者
②子供
③親
④兄弟
⑤祖父母
⑥孫
⑦その他の親戚
⑧仲の良い友達
⑨義理の親戚

 また代理人は19歳以上で判断能力があり、委任者と良好な関係にあって、代理人行為を行う以前の1年以内に委任者とコミュニケーションを取っていたという条件を満たすことが必要だ。この暫定的医療代理人は、「暫定的」との表現を取っているが、任意に代理人を選べない場合は、この人物が永久に代理人となる。代理人が選定されていない状態で治療を始めるためには、医療提供者は暫定的代理人の候補となる人の連絡先を必要とし、医師がその代理人を決めることになる。

<医療代理人を自分で選びたい場合>
 本人が自分で代理人を選ぶことを希望する場合には、医療代理人同意書(Representation Agreement)の作成が必要である。

<医療代理人同意書には、権限内容別に2種類の形式がある>
 医療代理人に関わる法律(Representation Agreement Act)には二つの異なる規定(7条と9条)があり、それに沿って二つの同意書の形がある。

<①7条に沿った医療代理人同意書―Section 7 Representation Agreement>

代理人の権限

・医療面—委任者の身のまわりの世話や医療看護に関する意思決定を行うことができる。だが委任者の生命維持や延命治療に関する決断は認められていない。

・経済面―委任者の日常的な財産管理や手続きができる。だが、不動産売買などの非日常的な財産管理や手続きは認められない。

委任者の条件

・十分な判断能力がない場合でも、この書面の作成が認められている。

・委任者に求められる判断能力は8条で定められており、「代理人に手助けを願っているか。好みの意思表示をできるか」等の規定がある。

・7条の医療代理人同意書作成には、委任者が8条に定められたレベルの判断能力があるかを判定する証人が二人必要である。もし弁護士や司法書士に証人を依頼した場合は、証人は一人だけでよい。

 

<②9条に沿った医療代理人同意書―Section 9 Representation Agreement>

代理人の権限

・医療面—委任者の身のまわりの世話および医療看護に関する意思決定を行うことができる。(7条同様)

・医療面—生命維持や延命治療に関する決断もできる。(9条のみ)

・経済面—財産管理や手続きは一切行うことができない。

委任者の条件

・委任者に十分な判断能力がない場合、この書面は作成できない。

<医療代理人同意書の補足>
7条、9条の違い

 このように9条の同意書で認められた代理人は命にかかわる判断まで行えるが、7条の同意書では代理人が判断できる範囲は限られている。そのため、9条は委任者がどんなことに同意するのかを明確に把握できる能力を持っている場合にしか作成できない。これに対し7条の同意書は、たとえば委任者の認知症が進行中であっても、委任者が代理人として任命したい人と信頼関係を築いていたり、好き嫌いが表明できるといった能力のあることを第三者である証人たちが認めて署名できるならば作成できる。それによって、代理人は委任者の口座から出金したり、各種請求の支払いをしたり、身の回りの世話をしたり、日常的な医療・看護内容の選択に関わることができる。一方、9条は財産に関しては一切の権限を与えていない。

金融機関の同意書の認知が薄い場合も

 7条の同意書を持参すれば、金融機関で代理人が委任者の口座から出金等できるが、金融機関によっては、医療代理人同意書が医療面だけでなく、日常的な財産管理の代理人としても有効であることを知らないスタッフもいるだろう。そんな際は金融機関のマネージャーを呼び出して対応してもらうことが必要だと森永氏は語る。

 

(2)どんな医療処置を受けたいか

 Advance Directive(事前医療指示書)を用意しておけば、自分の受けたい医療処置、拒否したい医療処置、そして生命維持や延命治療についてもあらかじめ指示できる。

 なお、この指示書に記載した医療処置については、法律で自動的に決まる暫定的代理人は指示ができない。本人の希望を受けた代理人でも、医療代理人同意書に「事前医療指示書を優先する」と書かれている場合、代理人は指示書に記載された医療処置に関して指示できない。(*同意書作成時に代理人はそれを承認のうえで署名することになる)。

 この指示書の内容は、本人の希望次第。輸血を行わない、心臓マッサージを行わないといった具体的な指示を書く人よりも、「痛みを緩和させる処置はたとえ命が縮んでも受けたい。治る見込みがないなら延命治療は不要」という程度に書く人が多いという。

 

(3)誰に財産管理を委ねたいか

 財産管理を誰かに依頼したい場合、Power of Attorney(委任状)を作成しておくと良い。この代理人は医療看護に関する意思決定は行えず、また遺言を書くような権限もない。

各種委任状

 委任状には、有効期限のあるもの、不動産売買に関する制限を持たせたものなど、異なる種類のものがある。

 その委任状の一つが、永続的委任状(Enduring Power of Attorney)であり、これを作成すると、委任者が判断する能力を喪失しても有効である。

 

各種証明文書の作成と扱い方

作成用紙
 いずれの文書も特定の用紙を使わずとも作成できるが、BC州政府発行の冊子My Voice(写真2)には医療代理人同意書と事前医療指示書の説明と作成用フォームがあるので活用可能。インターネットで「My voice BC」 で検索・ダウンロードできる。また委任状のフォームはMy Voiceには含まれていないが、BC州政府のウェブサイトほかにフォームがあってダウンロードできる。一般の検索サイトにて「Enduring Power of Attorney BC」で検索を。

作成時に必要な署名
 どの文書も作成には、本人の署名のほか、証人二人の署名が必要であるが、証人が弁護士や司法書士であれば一人だけでよい。医療代理人同意書と委任状には、任命を受けた代理人一人もしくは二人の署名が必要である。

専門家のアドバイスほか
 本人に判断能力があって事前に作成するこれらの証明書は裁判所に提出不要で、自宅に保管すればよい。もし事前にこうした証明書を作成せず、本人に判断能力がなくなり、周囲が判断を引き継ぐ際には、裁判所に申し立てをして、後見人(committee)として任命されなければならない。たとえ配偶者であっても申し立てが必要となる。その場合は、医師の署名が必要となるなど、時間も費用もかかる手続きとなる。

 以上のような同意書や委任状を作成する際に、弁護士のサポートを受けると、本人の人間関係を聞いてもらったうえで、誰に代理人を依頼するのが適当かのアドバイスを受けたり、本人の判断能力の判定を行ってもらうことも可能である。

 取材最後に森永氏は「以上は、一般知識としての情報であり、事前医療計画(アドバンス・ケア・プラン)を行う際は、弁護士か司法書士と相談したり、州政府の資料などを研究したりして、個々の状況に応じた取り組みを推奨します」と補足した。

 今回取り上げた内容を中心に、質疑応答などを交えたセミナーが隣組で2月に開催され、好評を得た。隣組では3月22日に遺言を、4月21日にはシニアハウジングをテーマとしたセミナーを行う予定である。

(取材 平野 香利)

 

 

隣組でも扱っている冊子My Voiceには、事前の医療看護の準備の手引きや、本テーマに関するフォームが掲載されている

 

 

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