2017年3月9日 第10号

「MUJI」としてグローバル展開する良品計画ブランド「無印良品」が今秋バンクーバーにオープンする。トロントにはすでに3店舗を展開、カナダ西部には初出店となる。 オープンを前に2月16日、講演のためにバンクーバーを訪れていた良品計画代表取締役会長、金井政明氏に話を聞いた。

 

 

良品計画代表取締役会長、金井政明氏。バンクーバー市ダウンタウンのフェアモント・パシフィック・リムで。2017年2月16日

 

バンクーバーでも上々の反応

 バンクーバー店今秋オープンを前に、今年1月27日からブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー市ダウンタウンのフェアモント・パシフィック・リムで開催されたイベント「ジャパン・アンレイヤード」でMUJIポップアップ・ストア(期間限定店)を出店した。

 ストアは2月28日で閉幕したイベントとともに閉店したが、2月16日時点ですでに反応は上々だったようだ。「僕たちがびっくりするくらい売れるんですよね」と金井氏。「そういった意味では、MUJIっていうのはほんとに出てない地域でも多くの人がご存じで。なんか怒られるのがね、トロントに3つも出して、なんでバンクーバーにないんだって」と笑った。

 そして今秋、ようやくダウンタウンのロブソンストリートとバーナビー市メトロタウンにオープンする。カナダ初出店がトロントになった理由について、ニューヨークにオープンして次の北米戦略として「カナダっていうのは、大変親近感もあるだろうって思って」。しかし、「位置的にも東海岸にいたんでね、最初ね。倉庫もそっちに持っているわけだから、申し訳ないけど(笑)バンクーバーに来るよりは、必然的に近いわけですね」と説明した。

 カナダ1号店オープンは2014年11月。「寒かったですけど、圧倒的なお客さんが並ばれて。僕も行きましたけど、もうすごくびっくりしましたね」。トロントといい、バンクーバーといい、「おかげさまで大変良く思っていただいてて、使っていただいてますね」と反応は上々のよう。今後もカナダ国内でさらに店舗を増やしていく予定だ。

 

市場としてのカナダ

 ビジネスの市場としてカナダを見た場合、「いっぱいここで何百店舗作るとか、そういうことが簡単にやれるような状況ではないということですね」。生産拠点は、日本が全体の5割で、アジアが中心。そのため、「どうしても距離がありますね。そうすると、物流コストの問題だったり、シップ面だったり、到着するまでの時間軸もたいへん長いですから、我々にとってもオペレーションは簡単ではないですね」。

 さらにカナダは「コスト的に言えば、いろんなコストが安くないでしょ? そういった意味では、ビジネスを考えた上でもそう簡単ではない」と言う。それでも「MUJIっていう表現方法とか、考え方とか、プロダクトとかに対しては大変興味を持ってもらっている。だからやっていけると思っています」。そして、将来的には小売業だけではないビジネスも視野に入れている。

 

「商い」で社会に貢献します

 良品計画のキャッチコピーの中に「良品計画は『商い』で社会に貢献します」というのがある。英語では、"Beautifully simple products make the world a better place"と紹介されている。CSR(企業の社会的責任)が叫ばれる今日だが、これは1980年の創設から一貫した理念だという。

 「これはね、グラフィックデザイナーで無印のファウンダーでもある、田中一光さんの言葉なんです」。良品計画サイトによると、田中氏は無印良品発案者の一人で『20世紀の日本のグラフィックデザイン界を代表するデザイナーであり、また亡くなるまでの20年余に渡りアートディレクターとして無印良品の思想を表現し、モノづくりに多大な影響を与えた存在』(サイトより引用)。そこには『生活美学を大事にしよう』という信念があるのだという。

 「美術館とかでアートを鑑賞するってことも当然あるんですけど、家の中のカップ1つ、グラス1つ、ここに美意識を持てる暮らしっていうのが、彼は豊かだって思ったんです」。それが高価なものとか、ブランド品である必要はない。「ブランドもなにもないところに美意識を持ってるみたいな暮らしを彼は望んだんですね」。そして「生活の中に美を入れていくっていうことを、商売をしながらやることに無印の意義があるって言ってましたよね」。

 それが「感じの良いくらし」の探求に引き継がれている。一つひとつの無印の商品そのものが、「意味を持っています。素材をどう選んだか、工程をどうやって見て何が必要ないか、パッケージも見栄えのためは止めて、ゴミも減らして、みたいなことを一生懸命、ひたひたと考えて」。

 そうした「削る」理念が日本はもとより海外で驚きを持って受け入れられていると感じている。「どこか日本の精神文化的な、そぎ落として、そぎ落として、そぎ落として、その美を作り出すみたいな」。今年中には海外店舗数が国内店舗数を上回る。「みんな足し算をして豪華に見せようかとか、良く見せようとかって時に、むしろ、削って、削って、削って、っていうことに、そのなんか良さがあるってことが。そこがMUJIが世界で受けている大きな要素ではないですかね」。

 

「使う人が主人公」な商品を

 今後は小売業の他にも、現在日本で展開している「都市とローカルの交流」にも積極的に取り組んでいきたいと語った。

 同日の「消費社会へのアンチテーゼと最良な生活への探究」をテーマにした講演でも、都市とローカルをつなぐ事業展開を紹介した。農家での米作り、廃校を利用してのシェアオフィス、都会の人が利用できる菜園作りなどは一部。 「バンクーバーも海と山がこんなに近くて。でも中心はどうしてもタワー的なものが立ってますでしょ。ただ郊外に行くと、ほんといい所だと思うんです。ただね、こういうとこにいると人間てすごく傲慢になるって、ずっと思ってて。だから、家賃も高いんだろうけど、こういうところで暮らしている人たちが郊外で農業をやる経験をもっとするとかね。日本で今やっているのが、都市とローカルの交流なんですよね。そういうような仕事もできるようになると、うれしいと思いますね」。

 これをカナダでも他の国でも「やりたい」という。「僕たちの場合は、店舗を核にしていろんなビジネスとか、サポートも含めたことをやっていくというビジネスモデルなんだと思います。それをやれるような体制にできれば、すごくいろんな可能性が」と語った。

 もちろん無印良品の信念は変わらない。「MUJIの商品っていうのが、僕たち売り手側があえて普通のものを作ろうと思ってるんです。売るための個性とか、そういったものを、できるだけ排除して普通のもの。これは何かっていうと、使う方が主人公っていうことですね。これが(コップを指して)、エラそうだったりとかしないで、使う人が主人公で、その人の自由度を高めるために、ほんとに普通に作る。その代わり、クオリティに対しては細心の注意を払っているつもりなんです。まだまだ僕たちがパーフェクトなんて思っていないんで、いろんなご意見をいただいたりしながらカナダでもやっていきたい」と金井氏。「僕たちもいろんな地域でやるんですけど、製品は一緒なんですよ。そうすると、この国ではフィットしたけど、ここではちょっと、みたいな勉強もできるので、それはドンドンそういうふうにしてもらえればいいと思います」と、使う側と一緒になってより良いものを目指していきたいと語った。

(取材 三島直美)

 

 

2月16日に行われた講演「消費社会へのアンチテーゼと最良な生活への探究」の会場の様子。会場に集まった700人のMUJIファンを前に「無印良品とは」を語った

 

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