この疑問に答える講演会が、日加ヘルスケア協会主催により7月5日(火)午後5時より約1時間にわたり日系センター会議室で開催された。講師は、クリニカル・ソーシャル・ワーカーとして活躍されるアンダーソン佐久間雅子さん。講演会には31人が参加し、アンダーソン佐久間さんの話に熱心に耳を傾けた。また、参加者からはたくさんの質問が飛び交った。このセミナーに先立ち、同日午後3時半より会場に隣接する日系ホームと新さくら荘の見学会も行われ、17人が参加した。
<加齢や病気で日常生活に支障が出てきたら>
カナダで介護サービスを受ける場合は、主に、自宅で受ける方法と、介護施設に入所する方法の2つがある。
1.自宅で介護サービスを受ける場合
政府が提供してくれるサポートを受けたり、個人的にヘルパーを雇用する場合などが考えられる。政府が提供してくれるサポートを受けたいときは、自宅のある地域のホーム・ヘルス・オフィスに問い合わせをする。すると、必要に応じて、ケースマネージャー等が自宅へ派遣されて査定をし、それに応じて自宅でのサポートの内容や自宅訪問の時間数や頻度が決定される。自宅でのサポートの内容は、(1)ホーム・サポート・ワーカーによるパーソナルケア(お風呂や着替えなど。原則として食事の用意・掃除・洗濯・買い物は含まない)、(2)ホーム・ケア・ナースによる処方箋の管理など、(3)作業療法士による必要器具(浴室の器具など)の査定など、(4)理学療法士による運動機能のリハビリなどが含まれる。費用は年間収入に応じて計算される。
個人的にヘルパーを雇用する場合は、エージェンシーを通すか、新聞やクチコミなどで探す。クチコミなどで雇用する際は、できれば適切な資格を持った人が望ましい。また、個人的に雇用する場合は費用が異なる為、自分で調べる必要がある。なお、重度の介護が必要な場合、政府のサポートと個人のサポートを組み合わせることも可能だ。
2.介護施設に移る場合
介護の程度によりインディペンデントリビング、アシステットリビング、ナーシングホームの3つから選択される。
(1)インディペンデントリビング
政府経営の施設はないので、費用が統一されていない。その為、個人で情報収集する必要がある。基本的には食事や掃除のみのサービスを提供であり、住居は個室で、食事は食堂などのコモンエリアで食べる。歩行や移動が他人の援助なしでできることや、助けが必要なときに自分で認識して呼べることが前提となっているので、重度の認知障害を持つ人には勧められない。
(2)アシステットリビング
インディペンデントリビングと同じサービスに加え、パーソナルケアや、簡単なナーシングケアも含まれる。その為、インディペンデントリビングを利用するよりもさらに介護が必要な人に向いている。経営形態としては、政府経営によるものと営利・非営利団体の経営によるものの両方がある。政府経営の施設では、ケースマネージャーによる査定で認められれば施設へ入居できる。入居料等は個人毎に決められ、年間収入のおおよそ70%を費用として支払うそうだ。なお、費用などを含む政府のポリシーはしばしば変更されるので注意が必要である。政府経営施設への入居に関しては、基本的にはそれ以前に政府が提供するサービスを自宅で受けていることが条件となっている。さて、営利・非営利団体の経営による施設の場合は、入居料等はそれぞれ異なる。日系センターに隣接する「日系ホーム」は、政府経営のアシステットリビング型である。
(3)ナーシングホーム
歩行や移動等が困難であったり、認知障害等があったりといった24時間ケアが必要な人の為の施設である。レジスタードナース(看護師)が駐在している。ナーシングホームには、中度(インターミディエットケア)と重度看護(エクステンデットケア)の2つがあり、中度は歩行及び移動が可能な場合で、重度看護は寝たきりの場合である。アシステットリビング同様、政府経営による施設と、営利・非営利団体経営による施設とがある。費用に関しても、政府経営では個人毎に年間収入に応じて決定され、営利・非営利団体経営では入居料等がそれぞれ異なる。ナーシングホームへの入居は時間がかかる場合が多い。また、言語に関する補助は無いので、不便を感じる場合は言語ボランティア派遣依頼をするとよい。
<意思決定能力がなくなった場合に備えて>
意思決定能力があれば自分で生活環境を設定できるが、もし認知症や事故などで判断能力がなくなった場合は代理人が法的事項や生活上の管理、健康に関する決定をすることもできる。BC州での代理人制度で代表的なものにはTemporary Substitute Decision Maker (TSDM), Enduring Power of Attorney, Representation Agreementの3つがあり、代理人の決定できる範囲はそれぞれ異なる。
TSDMは、本人が判断能力を失った時に予め代理人を立てていなかった場合で、健康問題の決定権のみ持つ。法で決められた順序に従い、配偶者や子等がTSDMになるが、本人と対立関係が無いなど様々な条件が必要だ。もし該当者がいないときは、Public Guardian and Trusteeの判断により、遠い親戚や親しい友人などが指名されることもあるという。
Enduring Power of Attorneyとは、本人に意思能力があるうちに信頼できる人に財産管理・法的事項の管理・生活上の事務の決定権を委任し、本人に意思決定能力がなくなったときは委任された人がこれらを決定することである。
Representation Agreementとは、本人に意思能力があるうちに信頼できる人に健康に関する決定権を委任し、本人の意思決定能力が低下した時に委任された人が健康に関することを決定することである。
アンダーソン佐久間さんによれば、Enduring Power of AttorneyとRepresentation Agreementを両方、元気なうちに用意しておくと良いとのことだ。その際、弁護士や行政書士に正式に書類を用意してもらう。また、延命措置などをしてほしいかどうか本人の意思を表したリビングウィルを事前に用意し、具体的に回りに伝えておくことも大切だそうだ。
人生の終盤をどのように過ごすのか。情報を前もって入手し、いざというときのために備えておけば、心にも余裕ができる。今回の講演会で、自分の将来について真剣に考えさせられ、貴重な情報をたくさん得ることができた。
(取材 熊坂 香)