今回、カナダカップに参加した日本代表チームは、2月に就任した宇津木麗華ヘッドコーチの下での、初めての日本代表選手の遠征だ。カナダに続いての米国オクラホマ州でのワールドカップとともに、来年7月に開催が予定されている世界選手権に向けての強化を兼ねて参加している。
ソフトボールはロンドン五輪では正式競技から除外が決まり、続くリオデジャネイロ五輪でも競技とはなっていない。代わって女子の世界一を決める大会が、2012年にホワイトホースで予定されている。今年は、その切符をつかむためのアジア予選が9月に控えていることもあり、新体制での準備を進めている。
宇津木ヘッドコーチは、カナダカップ開催にあたり、「昨年のISF世界大会が終わって、一度チームが解散してからの新チームです。5日間の国内強化合宿を行った後でカナダに来たものの、正直言って、チームの調子はまだ分かりません」と語った。「今のところ、まだ慣れていないこともあり、遠慮があって強いボールを投げなかったり…というところもあります。」
「アメリカやカナダと他のチームもそうですが、昨年の世界大会の後、先輩が出たりして、一度裸になってからの新しい選手を見てみたいです」というチーム。日本代表候補として選ばれた28名の中から、17名がカナダ大会に遠征している。
「山田(恵理)、上野(由岐子)、染谷(美佳)の3人は国際大会にも何度も出場しています。キャプテンの岩渕(有美)もアテネ五輪に出ています。一方、ジュニアで海外を経験した選手もいますが、27、28歳で今回が初めての国際大会という人もいるので、この機会に、体格のよい海外の選手を相手にプレイして、世界の舞台を肌で感じて、経験してもらいたいと思っています。」
カナダカップでの試合運びで、重視していたのはサインプレイだという。「新しいチームなので、今はチーム作りのときです。その中で、どれだけサインプレイができるのか見てみたいですね。強いサインプレイは勝敗を左右しますから。」
予選リーグは2位で通過
カナダでの第一戦の相手は、北京五輪、ISF世界大会の決勝で戦った宿敵米国だ。「いきなりアメリカでしたね」と話すと、宇津木ヘッドコーチは「最初に変に弱いチームに当たるよりいいんですよ」との答え。新体制で「自信をつけるためにも、勝ち癖をつけていきたい」というチームは、その目標どおり、まず米国を延長9回タイブレーカーの末、1-0で制した。続いてカナダも2-0、ベネズエラは13-3、オーストラリアを1-0と4勝と、3日目までは日本が圧倒的な強さを見せた。
しかし、昨年の世界大会で優勝している米国にも意地がある。12日に行われた二戦目は、日本が3回先制するものの、5回に5失点。結局、米国が1対5で日本を下して、1勝1敗とした。さらに、同日行われたカナダ戦も、初日の米国戦を無失点で抑えた染谷が登板するものの、0対1で惜敗。翌日のオーストラリアにも1対4で敗北して、予選リーグを5勝3敗、首位米国に続く2位で通過した。
今回のカナダカップ、そして続いて参加するUSAワールドカップは「女子日本代表の強化も兼ねている(宇津木ヘッドコーチ)」ということで、予選では女子代表候補選手として、参加した投手陣、上野由岐子、染谷美佳、宮本直美、山根佐由里、平原かずみの全5選手がマウンドに立った。国際的な舞台での経験を積むよう、唯一、大学生で抜擢された平原選手も起用している。
エース上野完封で日本が優勝
宇津木ヘッドコーチのこの姿勢は決勝トーナメントでも変わらず、5人の投手を登場させた。ただし、準決勝と決勝の米国戦の先発は、エース上野。準決勝では4回を投げ、1失点の後、現在、日本女子1部リーグで、その上野より防御率の低い染谷が登板。2点を失うが、最終回7回の裏に峰幸代の二塁打から、蔭山遥香の野選、そしてエラーでピンチランナーの松本尚子がホームイン。4対3と競り勝った。
続いての決勝も、敗者復活戦でオーストラリアを6対1で下した米国だったが、一回に古田真輝の二塁打で先制。山本優の本塁打、林佑季の二塁打、ワイルドピッチなどで、3回までに6対0と大幅リード。守っては「自分のできる仕事、任された仕事をしっかりします」と言っていた上野が、3安打10奪三振、1四球で完封。7対0で米国を破り優勝した。
インタビュー
宇津木ヘッドコーチと上野投手、岩渕キャプテンに、開幕直前に話を聞いた。
宇津木ヘッドコーチ
新体制では投手陣の強化にも力を入れていると読みました。
新しい選手を育てていく必要がありますし、上野もどんどん進化していきます。私はピッチャーではないので、ピッチャーを教えることは私だけでは無理です。そこで、ルーシー・カサレスコーチにサポートしてもらっています。
カサレスコーチは現役時代には自身も投手として活躍していました。また私同様、日本での生活が20年以上と日本選手のことも熟知しています。トヨタ自動織機時代には日本リーグを3度制した実績を持っています。選手時代、そして引退してからはお互い監督として良きライバルとして戦ってきましたから、信頼していますし、今後、一緒にチーム作りをしていくのが楽しみです。
カナダカップで、日本選手に期待していることは?
プレッシャーの中で勝たなければいけないという強さを出して欲しいです。気持ちの上で負けないということですね。向上心を見せて欲しいです。
こういうチームにしたいと、目標のようなものがあれば。
個人プレイを育てた上で、チームプレイのできる執念のチームです。チームメイトが団結してやれば勝てると、自信を持ってプレイしていきいです。
カナダカップについての印象を教えてください。
いろんなチームが出ていて、普及に力を入れている大会ですね。日本チームが一生懸命なプレイを見せると、とても喜んでくれます。カナダの皆さんの前でプレイするのは楽しみなんですよ。
上野由岐子選手
ピッチングで気をつけていることはありますか?
丁寧に投げること、任された仕事をしっかりすることです。
カナダカップの印象は?
温かい雰囲気ですね。国を挙げて盛り上がっているという気がします。
岩渕有美選手(キャプテン)
今大会での抱負を教えてください。
一試合一試合、丁寧に闘っていって、最終的にはもちろん勝つことです。怖いものなしにがむしゃらにやっていこうと思っています。みんなで同じ気持ちになって闘う、全力プレイをご覧いただくようにします。
カナダカップについて。
カナダの人はソフトボールが好きという感じですよね。敵味方関係なく、良いプレイをすると、とても喜んでくれますし、良い環境の中でプレイできる大会です。
(西川桂子)