ハリー・ブロイ氏について
今年2月、BC州自由党党首選でクリスティ・クラーク氏が当選し、BC州首相に決まった。そして3月、クラーク氏は、ブロイ氏をBC州社会開発兼多様文化担当大臣に任命。大役を任されたブロイ氏は、最初は大きなプレッシャーを感じたというが、多くの人たちとの出会いに助けられ、信念をもって仕事に取り組んできた。政治家になる前には、食料雑貨販売業やテレコム産業などの異なる分野で経験を積んだことも、現在の仕事をする上で助けになっているという。
講演に先立って、パシフィック・ウエスタン・ブルーイング社長の小松和子氏がブロイ氏を紹介した。ブロイ氏が2001年にMLA(立法議会議員)に選出された時から、BC州のビール業界の競争力向上のために共に仕事をしてきたという小松氏は、ブロイ氏を、人々が抱える問題を理解し、人々のニーズに目を向ける「People’s Politician」だとたたえた。

 

日系コミュニティへの感謝
ブロイ氏の講演は、自身の経験談を多く盛り込んだ、興味深いものだった。ブロイ氏は、これまでさまざまなかたちでBC州の日系コミュニティと関わり、そこで活躍する人たちから、多くのことを学んできたという。バンクーバー日本語学校・日系人会館は、ブロイ氏にとって特に大きな存在の一つであり、名誉理事長だった故雑本久雄氏とその家族にも大きな影響を受けたそうだ。常に学校のことを考え、コミュニティの活動に加わる積極的な姿勢に、ブロイ氏は感銘を受けたという。多くの日系団体が、クリスティ・クラーク氏の選挙活動を支援したことも、ブロイ氏にとって大きな支えだった。講演の中でブロイ氏は、すべての支援者に対して、感謝の意を伝えた。

 

政治家になったきっかけ
「どうして政治家になったのか」とよく聞かれるというブロイ氏。14歳の時に政治集会に行ったのは、ただアイスホッケーの選手に会いたかったからだった。しかし、信念を持って献身的に働く政治家と出会い、彼らに鼓舞され、次第にブロイ氏の政治への関心は高まっていった。政治に携わることは、社会に還元する方法の一つだ。
しかし政治家になるまでの道のりは平坦ではなかった。2001年にMLAに選出される前には、バンクーバー教育委員会やバーナビー市長などの選挙で数度の落選も経験した。「落選するよりも、当選することの方がもちろん嬉しいですが、どんな場合であっても、自分の信条のためにならば出馬します」と語るブロイ氏。政治において何よりも大切なのは、地域社会を変えたいという強い気持ちだ。

多様な文化を尊重するためのBC州政府の試みは多岐にわたる。ブロイ氏は情報源として、BC州に来たい人を歓迎するためのウェブサイトWelcomeBC (http://www.welcomebc.ca)や、多様性を尊重し、人種差別を排除するために資金を提供する、EmbraceBC (http://www.embracebc.ca)なども紹介した。

 

子どもたちのための活動
さまざまなアウトリーチ活動の中でも、特に重要なものの一つが、BC州の子どもたちのための活動だ。放課後に何をするかで、子どもたちの生活の質は大きく変わる。ブロイ氏は講演の中で、コキットラム市にある学校の例を紹介した。この学校では、難民としてカナダに来た二人の女性が、子どもたちにサッカーを教えている。そしてサッカーは、チームや学校に対する誇りを育んだ。多くの子どもたちが、サッカーの時間を心待ちにしているという。
幼稚園への本の寄付も、ブロイ氏にとって大切な活動の一つだ。過去九年間にわたって、毎年500冊から600冊の本を寄付してきたという。ブロイ氏と夫人は、三人の子どもたちがまだ幼かった頃、毎晩本を読み聞かせていた。そして、それは子どもたちの成長にとても良い影響を与えた。だからこそ、他の子どもたちにも本を読む楽しみを知ってほしいという気持ちが強いそうだ。
「仕事をする上で最も重要なことは、自分のやっていることを信じることだ」というブロイ氏の言葉には、大きな説得力があった。

 

ファンドレイジング
コミュニティのために活動をする中で非常に重要なことは、資金を集めること(ファンドレイジング)だ。ブロイ氏はさまざまなプロジェクトのためのファンドレイジングに尽力してきたが、その中の一つが、校舎が老朽化しているバンクーバー日本語学校の再生計画だ。ブロイ氏はこの計画のために、BC州政府から20万ドルの資金を得るなど、環境に配慮した「グリーン」な新校舎の建設に大きく貢献している。

 

HSTについて
ブロイ氏は講演の中で、BC州民にとって大きな問題であるHSTについても言及した。すでに報じられている通り、HST住民投票において、HSTの継続が決まれば、HSTは現在の12%から10%に引き下げられる。ブロイ氏は、HSTが消費者に与える影響と、雇用創出や投資などを通してBC州経済全体に与える影響の両方を説明した。その上で、「一番重要なことは、(賛成と反対のどちらの立場であっても)投票をすることだ」と参加者に呼びかけ、会場からは拍手が起こった。

日本・BC州関係の発展を目指す
日本とBC州の間には経済的、そして文化的な強いつながりがある。日本はBC州にとって、米国に続く第2位の輸出先であり、BC州の繁栄のために、なくてはならない存在だ。BC州政府は、この協力関係を発展させることを目指している。
ブロイ氏は、「たとえ遠く離れていても、すべての国はつながっている」ということを強調した。私たちは、「グローバル・シティズン」であり、他の国が困難に直面している時には、支援する責任がある。東日本大震災後には、BC州政府、そしてBC州民が、さまざまなかたちで日本を支援してきた。ブロイ氏は、「日本人の力をもってすれば、震災からの復興を通して、日本は今までよりもさらに強くなるだろう」と語り、講演を締めくくった。

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講演後は夕食会となり、参加者は料理と会話を楽しみながら、和やかな時間を過ごした。NAVコーラスによる合唱もあり、会場に華を添えていた。その後挨拶した在バンクーバー日本国総領事の伊藤秀樹氏は、日系コミュニティに対するブロイ氏の働きと、BC州から寄せられた東日本大震災の被災者への義援金に対して、感謝の言葉を述べた。
さまざまなコミュニティから参加者が集まった今回の特別講演夕食会は、多様な文化的背景を持つ人たちが出会い、親睦を深める貴重な機会となった。そして、ブロイ氏の講演は、新しい出会いが協力関係につながり、その積み重ねが、やがて大きな成果をもたらすことを教えてくれた。コミュニティのために働く多く人々の協力関係が、BC州をより魅力的な場所にしている。それを実感した講演夕食会だった。
(取材 船山祐衣)

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