2016年11月3日 第45号

アメリカ・ワシントン州シアトルからワシントン湖を挟んで東側に位置するベルビュー市で、現地アメリカの子どもたち700人が通う私立小中学校を設立・運営している清水楡華(しみず・ゆか)さん。その日本的なサービスと、高い国際レベルのカリキュラムと指導法は、現地でも高く評価されている。10月13日、ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバーのリステルホテルで、清水さんの講演会が開催された。その講演の概要を紹介する。

 

 

清水楡華さん(後列中央)を囲む日系女性起業家協会のみなさん

 

始まりは自分の子どもたちのため

 折しも秋の嵐がBC州サウスコーストに近づいてきていた講演会当日、天候が優れない中、約80人が会場を訪れた。JWBA会長の黒住由紀さんが開会の挨拶に立ち、続いて JWBA会員の許澄子さんが、清水さんを紹介する際に中国の高僧三蔵法師を例に出し、人と人をつなげることの大切さや、自分が取ってきた行動と言動が今の自分を作っているという証のような人だと述べた。

 清水さんは、ご主人の仕事の関係でシアトルに家族で移ってきた。当初は1〜2年ほどで日本へ帰る予定であったが、ご主人が胃がんにかかり闘病生活を続けたものの死去。清水さんはそのままアメリカに残り、設立したばかりの私立校ベルビュー・チルドレンズ・アカデミー(BCA)の運営を続けていく決意をした。2000年に設立したBCAでは、日本式の算数の教授法などを通して子どもたちの学力を伸ばし、それが評判を呼んで生徒数が着実に増えていった。

 アメリカに来た当時、小学生の長男が英語ができないためESLのクラスに入ったが、幼稚園生の教材を使い、ぬり絵などをしてばかりという現実に失望。これでは英語が伸びないと感じて、自分で教材を作って子どもたちに勉強を教えていた。1年ほど経つと子どもたちは英語だけでなく算数もよくできるようになったため、Gifted Program(高いレベルの才能や能力を持つ子どもを対象とする英才プログラム)を勧められた。そうした経験を通し、英語ができない時は下の方のレベルの教材を与えられ、高い能力があると認められると年齢以上のレベルの教材を使うというアメリカ式の教育に疑問を感じていた。それならば自分で教えようということで、アメリカ人の友人たちと塾を始め、学校設立の基盤となった。

 

独自の高レベルのカリキュラム

 アメリカの子どもも4歳くらいでは字を書いたり読んだりすることがほとんどできないが、清水さんが作ったフォニックスを取り入れた教材を使って3カ月も勉強すると、4歳でも本が自分で読めるようになる。こうした指導方法が実を結ぶようになり、BCAの評判を高めていったといえる。BCAでは日本の算数教育を取り入れており、日本の教育同人社と共同で作った教材も使っている。アメリカの教材は幼稚園から小学校1年生くらいまでは、幼児向けの簡単な内容になっているのに、3年生くらいからいきなり難しくなる。BCAでは、プレK(4歳児)でも確率、長さ、体積などを紹介する教材を使用するなど、独自のカリキュラムで進めているのも特徴的だ。また、日本では2020年に小学校3年生で週1回英語の授業を開始することから、BCAの教材を取り入れたいという問い合わせがきている。それを受けて、日本の小学校の英語指導にも協力している。

 テクノロジーの進歩がどんどん早くなっていく昨今、現在私たちが想像もできないような職業が15年後には登場していることも考えられる。子どもたちがある仕事に就くための勉強をしていても、その仕事が将来なくなっていたとしたら、それは無駄になってしまう。知識を覚えるのではなく、どのように考えて、どのように自分で問題を見つけて解いていくかを教えていくことが大切だと考え、それがBCAの教育理念となっている。

 1クラス12人ほどの少人数制で授業を行っているが、生徒の学力にはどうしても差が出てしまう。そこで、50分の授業時間を20:60:20の比率に分けて、最初の20パーセントでクラス全体がすでに理解できている内容で進める。次の60パーセントはカリキュラムに沿って取り上げなくてはならない内容、最後の20パーセントは少し難しい内容のものを与えるという流れで、クラスの一人ひとりが参加できる工夫をしている。この方法で子どもたちの集中力が高まり、注意力の持続時間が長くなったという。また、BCAは国際バカロレア(IB)プログラムの候補校として認証されている。IBとは、国際的な大学入学資格を得られると同時に国際的な教育プログラムである。

 

夢はイメージ化して実現

 清水さんがアメリカに来た際のステータスは投資ビザで、この場合、非営利団体(NPO)を設立することができない。 NPOであれば受けられる税金の免除がないのが大変だったが、逆にNPOではローンを組む際40パーセントの頭金が必要なところ、通常のビジネスローンであれば10パーセントですむという利点もあった。今では4棟の建物にプレKから8年生までの子どもたちが通っている。とはいえ、それらの建物をいつも問題なく手に入れてきたわけではない。資金繰りに困って対策を考えて抜いた結果、たどりついた方法が、学校に子どもたちを通わせている保護者から学校と取り引きのある銀行に預金をしてもらい、その定期預金を担保として銀行からお金を貸し付けてもらうというものだった。そのアイディアを持って約20カ所の銀行を回ったが、どこにも断られてしまう。そんな中、ただ1つだけ引き受けてくれる銀行が見つかる。この定期預金は1口5千ドルで、年率約2・2パーセント、1年満期で継続も解約もできる。子どもが卒業する際には、全額プラスそれまでの利子がついて戻ってくるという仕組みだ。この預金が今では700万ドルに達しているという。

 清水さんは困難な状況なときも、迷いが出てしまうので誰にも相談をせず、自分で決断してきたという。唯一、作家の桐島洋子さんの紹介で知り合った、昭和の変動を生き抜いた日本人女性に相談したそうだ。彼女の生活のお手伝いを頼まれていたのだが、実際は自分が助けられているほうが多いと感じていた。アメリカの外交官の奥さんであった彼女から学んだことは多く、人生のメンターであったという。何かをしたいという夢や企画をイメージ化すると、自分の目指すものが具体化する。夢を形にするということは、99パーセントが物理的に試練であって、残りの1パーセントだけが喜びや満足かもしれない。やるぞ、と決めたときに、もうすでにそこへ辿りつくためのレールは敷かれており、確信しながらそのレールを見失うことなく進むことが大切である。BCAでプリKから入った子どもたちが中学生になり、教育の成果を実感できる。こうした喜びは得難いかけがえのないものだ。

 学校を設立したころは自身も教える立場にあったが、現在は学校運営をする上で必要な意思決定や問題解決に携わることの方が主な仕事となっている。英語を使って150人ほどのアメリカ人の先生をとりまとめるのは容易なことではない。常にいろいろなチャレンジがあるが、子どもたち一人ひとりが楽しく学校に通い、それぞれの未来に向けて力強く生きていく基盤になることの喜びは何にも代えがたいものである。

 

日本人コミュニティへの貢献

 BCAでは土曜日に日本語学校も行っている。両親または片親が日本人という子ども約250人が通っている。日本の文科省が出している教科書を使い、国語と算数を学ぶ他、音楽の授業もある。日本の算数教育を取り入れているメリットとして、小学校6年生までの算数の内容をきちんと習得できていれば、アメリカのSAT(大学進学適正試験)で90パーセントは取れるということだ。その他にもコミュニティの一員として、日米協会のボードメンバーを務めるなど、ボランティア活動にも取り組んでいる。子どもたちが日本語を一生懸命習得して、それを生かせるコミュニティを継続させるために尽力したいと考えている。

 講演の終わりには参加者から、先生を雇用する際に重視する点、国際バカロレアプログラムについて、日本語学校での授業の内容、銃による被害が多いアメリカにおいて安全対策はどのようにしているかなど、多数の質問が寄せられた。学校を設立してから現在まで、その道のりは平坦なものではなかったと思うが、それを優しい口調で穏やかに語る清水さんの意志の強さと、子どもたちに良い教育を、という信念が伝わってくる素晴らしい講演会となった。

(取材 大島 多紀子)  

 

 

Bellevue Children's Academyの校舎

 

 

清水楡華さん

 

 

講演会にはたくさんの人が参加して熱心に話を聞いていた

 

 

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