2016年10月27日 第44号

9月27日、バンクーバー市ダウンタウンのリステルホテルにおいて企友会、バンクーバービジネス懇話会、日本・カナダ商工会議所共催による「BC州のLNG(液化天然ガス)の現状とエネルギー・気候変動問題」と題した講演会と対談が催された。講演者にJOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)バンクーバー事務所長・山田剛士氏を、また対談にはJAPEXモントニーLtd.副社長・岸上有紀夫氏を迎えた。LNGプロジェクトとは何か。将来BC州の経済に大きなインパクトを与えるかもしれないプロジェクトだけに、会場に足を運んだ約50人の参加者は熱心に耳を傾け、活発な質疑応答がなされた。

 

 

(左から)モデレーターを務めた企友会の谷口明夫氏、講師のJOCMECバンクーバー事務局長・山田剛士氏、ゲストスピーカーのJAPEXモントニー社副社長・岸上有紀夫氏

 

 澤田泰代企友会会長は開会の挨拶で、「カナダは天然資源に恵まれた国で、日本はその天然資源を必要とする国。個人の生活レベルから二国間の貿易、そして経済関係に至るまで幅広く私たちに関係するトピックですので、私たちに役立つお話になると思います」と語った。

 

 講演者の山田氏は「堅苦しい内容ですが、できるだけ分かりやすく説明しますので、リラックスして聞いてください」と会場を和ませ、気候変動問題から話を始めた。

 世界の平均気温の上昇の原因とされる、化石燃料の燃焼による二酸化炭素の増加を抑え、今後の長期目標として温度上昇を2度までに抑えるのが世界共通の努力目標。だが、エネルギーのことを知りつくした山田氏はこう述べる。「各国がすべきことを全て実践しても、2度目標はとても厳しい。これはイノベーションなしには達成できない数字である」。二酸化炭素を含む温室効果ガス(Greenhouse Gas)の発生を抑えるために世界の頭脳を集結して取り組まなければならない。

エネルギーの今後。どうしてLNGは日本にとって重要なのか

 日本のエネルギー自給率はわずか5パーセント、と先進国の中でも極めて低い数字で、エネルギー資源のほとんどを輸入に頼らざるを得ない状況となっている。東日本大震災以降、原子力発電はほぼ稼働しておらず、大半をLNGで補っている。そのLNGは石油、石炭より二酸化炭素の発生量が少なく、石油よりも安価である。再生可能なエネルギーで、原子力よりも安定した供給が可能、といった理由から、日本はLNGの需要を増やしている。実際日本は世界最大のLNG輸入国となっている。 (資料①参照)

それでは一体、LNGとは何だろう?

 『Liquefied Natural Gas』の略で、液化天然ガスの意味。

 天然ガス(Natural Gas)をマイナス162度以下に冷却して液体にしたものをいう。液化すると体積が600分の1にまで小さくなるため、大量の輸送や貯蔵が可能となる。天然ガスはメタンが主成分の可燃性ガス。太古の動植物の死骸が地中奥深くで圧力と熱を受け、長い歳月をかけて変化したものと考えられている。発電時の二酸化炭素の発生量が石油や石炭に比べても少ないことなどから『クリーンなエネルギー』と期待されているため、近年世界中で需要が増している。

ブリティッシュ・コロンビア州におけるLNGプロジェクト

 そういった中で、日本はどうしてBC州に期待をしているのか。それは優位性がたくさんあるからだ。BC 州には世界有数の質と量を誇る天然ガスがあり、また山脈および渓谷には、石炭、銅、金に至るまで、世界が必要としている鉱物が豊富にある。また日本への輸送日数もBC州からは8日間。これを他国と比較すると、米国(パナマ運河経由)からは22日間、中東からは18日間。このようにBC州からの輸送は早く、かつ安全なルートなのだ。そして、先進国であるカナダには優れた投資環境もすでに整っている。

 さらにカナダにとっても日本は優良な輸出先なのだ。現在カナダの輸出相手の4分の3は米国であり、天然ガスもパイプラインを通して大量に米国へ輸出されている。しかしながら、米国はシェールガスの増産を始めているため、将来的には米国自身がシェールガス(天然ガス)を輸出するようになる。そのためカナダは新たな輸出先を探し、米国への輸出依存脱却を目指す必要がある。そのような状況のなか、カナダにとってアジアへの天然ガスの輸出が重要になってくることは想像に難くない。そして、BC州はその玄関口となるのである。

カナダ最大規模の投資:パシフィック・ノースウエストLNGプロジェクトとは?

 そのような背景のもと、カナダ西海岸でのLNGプロジェクトが現在20件も計画されている。そのうち日本企業が参加するプロジェクトは4件あり、中でもパシフィック・ノースウエストLNGプロジェクトが最大規模。投資規模が3兆円と莫大な金額で、歴史的に見てもカナダ最大の資源開発投資の1つだとされる。

 JAPEXモントニーLtd.の副社長・岸上有紀夫氏はアルバータ州のフォート・マクマレーのオイルサンド事業に20年近く携わり、現在はパシフィック・ノースウエストLNGプロジェクトを手掛ける。

 このプロジェクトで天然ガスを生産する場所はBC州の内陸北部、フォート・セントジョン。そこで採掘された天然ガスをパイプラインでプリンス・ルパートまで運び液化する。フォート・マクマレーがオイルサンド事業で潤ったように、LNG事業の着工が始まれば直接的に経済効果があるのは、液化プラントの候補地であるプリンス・ルパート、次にフォート・セントジョン。(資料②参照)  プラント建設作業員は4千人から5千人。その作業員を支えるためには、基本的な下水道や学校、医療機関のみならず、作業員の作業着を洗う洗濯屋、またはWi-Fi環境整備なども必要となってくる。また、日本人の駐在員や作業員のために、日本食レストラン、車や携帯電話等を扱う日系企業の需要もあるのでは、と岸上氏。

 さらに、BC州全体で見ると、天然ガスを増産することによるロイヤリティー収入がBC州政府に入ってくる。BC州は、LNGを輸出する際にLNG税を課す予定であり、それも州政府の財政に寄与する。そのような収入が州全体の投資や行政サービスの向上につながり、BC州民にも還元される。そして州全体の経済が潤えば、個々のサービス、ビジネスも改善されることになるであろう、と山田氏は長期的に見た経済効果を説明した。

 しかしながら難しい問題も残る。このプロジェクトが稼働するためには天然ガスを燃やす必要があり、その結果、大量の二酸化炭素が排出される。その排出量はカナダで最大となる見込み。そうなればカナダ政府の削減目標『2030年までに温室効果ガス排出を30パーセント削減』が難しくなる。それだけではなく、先住民との合意、経済性や労働力問題といった課題も多い。

 まさに、この講演会が開催されたその日、「パシフィック・ノースウエストLNGプロジェクトの環境影響審査、190の付帯条件付きでカナダ政府内閣承認を得る」というニュースが飛び込んできた。「この190の条件を1つひとつ解決していき、プロジェクトを前進させていきたい」と岸上氏。

 バンクーバービジネス懇話会副会長・佐野亨氏は閉会の挨拶で、「日本では原発に代わって使用されているLNG。そのLNGの開発がBC州の活性化にもつながる可能性があることが分かった。また、日本の食料自給率は40パーセントを切り39パーセントになって大騒ぎとなっているが、エネルギー自給率はほんの5パーセント。『衣食住』は人間の基本だが、エネルギーというのはそれ以前にくるもの。その重要性を改めて実感した」と語り、会は締め括られた。

(取材 福安 恵子)

山田剛士氏
現職:JOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)バンクーバー事務所長
略歴:
1996年 通商産業省入省
2007年 交換研修制度によりカナダ連邦政府(オタワ)に派遣
2008年〜資源エネルギー庁石炭課課長補佐、内閣官房IT戦略室参事官補佐、経済産業省環境政策課企画官、環境調和産業・技術室長
2014年〜 現職に至る 

JOGMECの概要
独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 Japan Oil, Gas and Metals National Corporationの頭文字を取ってJOGMECと呼ばれる
設立:2004年
目的:日本の資源・エネルギーの安定供給確保を使命とする

 

 

資料①:提供「JOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)」

 

 

資料②:提供「JAPEXモントニーLtd.」

 

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