2016年10月20日 第43号
「世界中の人たちを笑顔にし、幸せにするコンテンツを提供し続ける会社」、バンダイナムコスタジオ。その北米拠点がバンダイナムコスタジオ・バンクーバー(BANDAI NAMCO Studios Vancouver Inc.)だ。同社のスタジオ責任者でマネージング・ディレクターの福本正史さんに話を聞いた。
「モバイルで成功して、このスタジオをどんどん大きくして、ほかにも手を広げていきたいですね」時差がある日本とのテレビ会議で、時には21:00ごろまでオフィスに残るという福本さんだが、週末などに、ウィスラーやソルトスプリングアイランドを訪れたそうだ。
ーまず、バンダイナムコスタジオ・バンクーバーを紹介してください。
スマートフォン向けゲームの開発をする会社で、2013年3月に設立して4年目になります。スタッフは私を入れて30名を超えました。 ー日本のバンダイナムコスタジオは、ゲームソフト以外にもアミューズメント機器などの企画・開発もされているようですね。 日本はモバイルだけでなく、アミューズメント施設にあるゲームマシンやPS4などの家庭用ゲーム機向けゲームソフトなど、あらゆるプラットフォーム向けに研究開発を行っています。一方、バンクーバーでは現在のところモバイルゲームに特化しています。モバイルで成功して、このスタジオをどんどん大きくして、ほかにも手を広げていきたいですね。
ーバンダイナムコスタジオは、2013年にバンクーバーとシンガポールに海外子会社を設立しています。バンダイナムコスタジオ・バンクーバーは、もちろん北米向けだと思うのですが、たとえば米国のほかの都市ではなく、バンクーバーに設立された理由を教えてください。
北米市場にモノを出してお客様に喜んでもらうには、日本で創ったものを輸出するよりも現地のスタッフ、つまり北米のスタッフと創るべきだろうという考え方が基になっています。そこで北米で開発できる体制を作ることになりました。この業界でいうと、北米ではアップルやグーグルがサンノゼに本社を置いています。バンダイナムコグループもバンダイナムコエンターテインメント・アメリカという、パブリッシングを担当する会社があります。でも「創る」ということになると、やはりクリエイターが集まっているところのほうがいいだろう。そこで、いろいろ検討した中で、ケベック州とBC州が北米拠点の候補地としてあがってきました。 ネットワークエンターテインメントでいうとバンクーバーはIT産業が盛んで、エンジニアが豊富な土地というのもありました。クリエイターがたくさんいらっしゃるので集めやすい、かつ税制優遇措置があることなど、総合的に判断してバンクーバーに決定しました。
ーこれまでバンクーバーではどんなゲームを開発してこられたのでしょう?
オーストラリアの開発会社と共同開発したPAC-MAN 256、バンクーバーの開発会社と共同開発したPAC-MAN bounce 、そして全て内製で、6月末に*1ワールドワイドローンチしたTap My Katamari です。今後も内製を中心に創っていきたいです。 PAC-MAN 256とPAC-MAN Bounce はスタジオ設立直後の、スタッフが十分にそろっていなかった時期に、一緒にやりませんか?という話があって、お互いにじゃあやりましょうということで共同開発になりました。
昨年はパックマンタイトルを二本リリースして、今年はTap My Katamari 、それからもう一本を*2ローンチしようと頑張っています。来年ローンチするための準備もしているところです。
ーオーストラリアの会社と共同開発というのは面白いですね。
ヒップスター社が開発したクロッシーロードというタイトルは非常によくできていて、ヒットした作品です。そのクロッシーロードにパックマンを持ってきたらどうだろうとヒップスター社と話をしていて、「いけそうだね」ということで、ユニット作品になりました。
ー福本正史さんは、いつから赴任しましたか?
昨年の10月1日からです。最初は前任の中山(淳雄)も一緒でしたが、彼は今年の1月1日からシンガポールに移りました。私自身も今年の3月31日までは日本のネットワークエンターテインメント、モバイル向けゲーム開発を担当する部署と兼任でしたが、4月からは専任です。
初めての海外赴任なので英語で苦労していて、トランスレーターの方に助けてもらっています。
ーバンクーバーで、仕事の上で日本と違うなと思ったことはありますか?
一般的な話だと思うのですが、日本人は会議する前にお互いにネゴシエーションしておいて、会議は確認をする場という傾向があります。こちらは会議の場で議論して決めるという感じです。よく言われる、日本と北米の違いを体感しているところです。
ースタッフには日本人の方もいるようですね。
日本からの出向が私を含めて3名、日本国籍でこちらでの採用が数名ですね。あと、出身地でいうと世界の10カ国以上で、南米だとチリ、ブラジル、北米はカナダ、アメリカ、欧州も数カ国、アジアだと韓国、中国、ベトナムなど。基本的にバンクーバーで採用活動をしているので、カナダ在住の方が応募してくれるケースがほとんどです。
基本的にゲームが好きな人の集まりです。
いろんな国の出身者がいて、英語が母国語のネイティブスピーカーだと柔らかい言い回しをするところを、母国語でない人はストレートな言い方になりがちで、そこをお互いが分かり合い、尊重しあうことが大切だと聞いています。私はまだそのレベルに達していないので蚊帳の外ですが…。
ー最近はポケモンGOが話題になっています。
皆さん、楽しんでいらっしゃいますね。でも事故の話などもあるので、そこは注意しなければいけないのかなという感じです。
ー同じようなものを考えていこうとかいうのはありますか?
確かにヒット製品を参考にすることはあっても、同じものを作っても2番手だとお客様にインパクトがありません。だからヒントは得ても、「我々ならどう作る?」という考え方をしていかなければなりません。
スタッフはみんな流行りのゲームはプレイしていて、その中に新しいヒントがあるかもしれないと探しています。 作り手としてはお客様が何を望んでいるかが一番大切だと思います。あるいはお客様が望んでいるわけではないのだけど、すごく興味深くて遊んでみたくなる新しい何か…そんなものを提供できればと思っています。
ーところで、バンダイナムコスタジオさんが今度はマレーシアのスタジオを設立すると読んだのですが。
7月1日に発表した、BANDAI NAMCO Studios Malaysia Sdn. Bhd.ですね。9月5日にオープンしました。
ーシンガポールがあるのに、たとえばヨーロッパとかではなく、なぜマレーシアなのでしょうか?
ゲーム創りは大きく分けると、①ゲームのアイデア・中身を考える人、②それをプログラムするエンジニア、③そしてアート担当の3つで、東南アジアのマレーシア周辺はアートスタジオがたくさんあるのです。
ですから、ビジュアルアート制作の中心拠点として周辺国の重要なパートナーと連携をさらに強化し、グローバルなアートワークの開発体制を構築していこうというものです。
ー今後の目標を教えてください。
日本スタジオで培ったゲーム創りの「DNA」と、バンクーバーのクリエイター達の才能を融合したヒットタイトルを生み出して、「これはバンクーバースタジオで創ったんだ。次はあそこ、何をやってくれるんだろう」と期待されるスタジオになりたいですね。
*1世界中に公開、開始すること
*2新製品や新サービスの公開
(取材 西川 桂子)
6月末にワールドワイドローンチしたTap My Katamari とオーストラリアの開発会社と共同開発したPAC-MAN 256
バンダイナムコスタジオ・バンクーバーの入ったビル
オフィスに並ぶゲームのキャラクターのぬいぐるみ