『絆』 『つながり』
『あなたはひとりではない』

震災後、日本中で何万回と聞かれたのが『絆』『つながり』『あなたはひとりではない』という言葉だった。
みんなのために協力しようという気持ちが広がるのと同時に、改めて家族の大切さを認識した人たちの間で急激に増えたのが婚約と結婚。今まで10年間つき合っていたが結婚はしなかったという人たちが『絆』を持ちたいと、突然結婚に踏み切った。栗原氏もこの3か月間に結婚式に3回出席したという。
知らない人同士が助け合い『つながり』を持つことの大切さが重要視され、『あなたはひとりではない』と声をかけあった。不安でいっぱいの日本人の心をなぐさめ励まし、癒してくれたのがこれら3つの言葉だった。

 

『心』に気づいた日本
1995年、神戸を襲った阪神淡路大震災。それまでは現実を重要として成長していった日本が、初めて『心』に気づき始めたときだった。心の病気が増え始め、鬱病、落ち込みといった症状から、カウンセラー、セラピストといった職業が社会的に認知されるようになった。
震災から2年後、自殺者が交通事故死者の数を超えた。心の病、心のダメージが人間関係に影響し、家族崩壊、引きこもり、家庭内暴力や離婚が増加。若い人が結婚しなくなり、出生率が低下。人口が減った。

 

『不幸な成功』から
 『幸せな成功』へ
ビジネスマンとして成功し、お金もマテリアルも手に入れた栗原氏は、自分の愛情表現は、お金を稼いで家族を幸せにすることと考えていた。ところがいくら仕事で成功してお金を手に入れても、親子関係や夫婦関係、職場での人間関係がうまくいかず、親に勘当されたり離婚したりと、さまざまな挫折を経験。
 『真の幸せとは、本当の成功とは何か』と自分に問い始め、20年前に出会ったメンター(師)を通して、幸せにはいろいろな要素があり、特に人間関係とそれを作り出していく心、生き方が大切なのだということに気づいたと、自己の経験を語った。

 

子育てから学ぶ
 人間関係
栗原氏が強調するのは人間関係を良くすること。職場では信頼し合い、親密な夫婦関係を持ち、親子の絆を強くすること。現在危機にある日本で大切なのは、夫婦関係、子どもとの関係を良くすること。「子育てに参加してください」と呼びかける栗原氏は、子どもを育てることは長期的に忍耐強くなることで、ビジネス・スクールに行くより経営に役立つと提唱。
子どもの才能をのばそうとすることで、うまく育つことにつながる。自分の理想を押しつけると子どもが反発するように、経営にも同じことがいえる。いかに小さなコストで大きな利益をもたらすか、効率を求めすぎると職場の人間関係が壊れる。

 

福島原発
 事故の例
過去40年間、日本は現実的な必要性から効率の良い原発を増やしていったが、実は技術的なものがついていかなかった。現在原発の近くに住む人たちが疎開を強いられ、いくつもの町が消滅状態となり、国は効率を求めすぎた代償を払っている。
ビジネスの目的は、私たち人類の幸せだったはず。過去20年間延び続けた企業は今、効率より何が大切だったのかを学び始めているときでもある。

 

日本は必ず
 復活する
大きな災害、事故や事件が起こると、悪い習慣、心の問題が出やすい。うつ病、自殺、犯罪が増える。「問題があるからではなく、幸せのために心理学、心の学びを使っていただきたい。『ビジョン』イコール幸せな未来と捕らえていいと思います」と話す栗原氏は発売されたばかりの 『三度目の奇跡』(日本経済新聞出版社)を紹介した。
 1868年、明治維新により開国。この1度目の奇跡により、こうしてカナダにも日本からの移民が海を渡った。2度目の奇跡は戦後、焼け野原からの復興だった。
今、世界はつながっている。世界がビジョンに向かって進むときだと栗原氏は強調する。だが3度目の奇跡は日本だけでは起きない。国と国とのフレンドシップが奇跡を作り出す。
 「子どもが親の影響を受けるように、大人が“カナダはとても友好的な国だ”と言えば、子どもも信じるようになる。私たちが友人に銃を向けることがないように、戦争もなくなる。皆さんもぜひ、カナダと日本、カナダと世界中の架け橋となって奇跡を起こしてもらいたい」と結んだ。


*   *   *

ローラ雑本さんと浅川十美さんの通訳で、参加者全員が熱心に耳を傾けた2時間だった。終了後に流れたのは、震災後ラジオ福島へのリクエストが一番多かったという『Jupiter(ジュピター)』(歌:平原綾香)。 “私たちは誰もひとりじゃない”というパワフルな歌詞が英語圏の参加者にも伝わっていくように、全員で輪になって手をつなぎ、受け止めた。
なお、参加費として集められた合計1475.10ドルは、日本地震支援基金に寄付されるという。


(取材 ルイーズ阿久沢)

 

栗原英彰(くりはら・ひであき)氏プロフィール:

東京生まれ。学習院大学経済学部卒業。米国ミネソタ州立大学交換留学。ビジョン心理学ジャパン代表。ビジョンダイナミックス研究所代表。ビジョン心理学マスタートレーナー。特定非営利活動法人こころのビタミン研究所理事。
外資系会社、財閥企業にて最年少役員、議員秘書、会社経営を経て1988年より心理トレーナーとして活動を始める。研修や講演会を行い、世界平和への貢献とビジョナリーの育成に力を注ぎ、関わった受講生は3万人を超える。
著書「こころのビタミン」「ビジョナリーライフ10の法則」(現代書林)「成功する心理モデル」(ヴォイス)

 

『三度目の奇跡』 日本復活への道

(日本経済新聞出版社)
1991年、バブル経済が崩壊した年に生まれた人たちは今20歳。バブル崩壊後『就職氷河期』となり、このとき正社員になれなかった人たちは景気が回復したあとも安定した職業につけない『ロストジェネレーション(失われた世代)』となった。豊かさに慣れた大人は問題の先送りを続け、結果日本は今も低成長にあえぎ、働かず学校にも行かない『ニート』と呼ばれる若者が増えた。
人口減、高齢化、財政難。そこに起こった大震災と原発事故。「望んでも手に入らないのなら、いっそ最初から望まない」と豊かさに背を向ける若者。彼らに希望を失わせず、日本人はこの困難から立ち上がり『奇跡』を起こさなければならない。日本経済の処方箋を探る一冊。

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