2016年9月29日 第40号
9月24日、ブリティッシュ・コロンビア州バーナビー市の日系文化センター・博物館にて日系カナダ人コミュニティに貢献した人物を称えるコミュニティアワードの授章式と日系センターの活動資金を募る晩餐会が開かれた。約210人の出席は、日系コミュニティを支える思いの集まりだった。
プレジデント賞を受賞した堀井明医学博士(右)とハマコ夫人(写真 平野香利)
寄付された 多数のオークション品
開始前、出席者はロビーに並んだサイレントオークションの品々を見ながらの歓談後、太鼓の音に導かれて入場。会場の大ホールは、ブルーと白の照明で演出されたハイセンスな空間となっていた。
カナディアンタイヤの主催で
ことしで6回目となる本イベントは、ロス・サイトウ、ワード・サイトウ両氏がバンクーバーで経営するカナディアンタイヤ2店舗の支援のもと、日系文化センター・博物館が主催している。
会のプログラムは、ニッケイ・ユース・アスレチックス・バーサリーによる奨学金の授与から始まった。これは18歳から25歳までの日系カナダ人で運動、学業、コミュニティでのリーダーシップにおいて活躍が期待できる人物に贈られる奨学金。この度は、デルタの野球チームでキャッチャーを務めてきたベス・カミムラさんに1000ドルの奨学金が授与された。
続いて会はコミュニティアワードの授与へ。表彰者は堀井明医学博士、山城猛夫氏、松野洋子氏、ジョン・エンドウ・グリーナウェイ氏の4人。ビデオ映像が用意され、受賞者それぞれの生い立ちやコミュニティ活動などが紹介された。受賞者の一人、山城猛夫氏は欠席。代理でデレック・イワナカ氏が賞状と楯を受け取った。
エンターテイメントには、クラシックをアレンジしたノリのいい音楽に、フラメンコの踊りが加わった情熱的なステージが展開された。
資金面で日系センターを 支える人々
後半は出席者参加の時間。スクリーンに大写しにされたオークションで紹介されたのは、豪邸での10人用ディナーや15人を招待できるプライベート・ディナー・クルーズといった豪華賞品の数々。それらが高額で競り落とされた後、5000ドル、2000ドルと寄付者を募るアナウンスに応じて有志が挙手。会の最後に日系文化センター・博物館理事長の五明明子氏が、本日の募金額の総計が9万6800ドルに達したことを発表した。
日系文化センター・博物館のスタッフを中心に、会の準備に奔走した人々、寄付を提供した個人や企業、そして会に参加し、さらに寄付も行った人々。数えきれない人たちの力で日系プレース、そして日系コミュニティが支えられていることを実感する機会だった。
日系アワード受賞者
プレジデント賞 堀井明医学博士
日本人および日系カナダ人コミュニティに生涯にわたり多大な貢献をした人物に贈られる賞。専門的活動や調査研究による貢献も評価される。また日系の人々が持つ特質である努力、忍耐、誠実、謙虚さなどを体現する人物として個人を称える意味も含まれている。
UBC名誉教授である堀井氏は、1920年代に和歌山県から移住してきた両親の元に生まれ、幼少期はパウエル通り周辺の日本人街に居住。10歳の時に第二次世界大戦下での強制移動を経験。1949年、西海岸へ戻る許可が下りてから、ブリティッシュ・コロンビア大学に入学するが、5人兄弟の長男として一家の生活を支えるため、大学を休学して父の生業の漁業に加わった。数年して大学に戻り、医学の勉強を行いながらも、漁業を手伝う生活を続けた。その後、大学で学生を25年間指導、日本語を話せる数少ないファミリードクターとして活躍。日系ホームの居住者へのインフルエンザの予防接種は無償で行った。ボランティアで戦争中の収容先、イースト・リルエットでの経験や戦争前後のバンクーバーの社会状況を小学生から大学生、そして一般の人たちに向けて精力的に語ってきた。日系センターで開催した日系の歴史を語る機会だけでも、その回数は35回におよぶ。 「日本の大学生や高校生がカナダに来た際にも日系の歴史を語りました。自分たち二世は年を取っていつまで語れるかわからないけれど、語れるうちはできるだけ歴史を伝えていきたいです」
コミュニティサービス賞 山城猛夫氏
カナダでの日系コミュニティの土台作りをリードし、長きにわたりコミュニティワークに従事してきた個人や団体に贈られる賞。
山城氏は広島県出身。1973年創設の隣組メンバーの一人として約30年にわたり日系コミュニティに尽くした。隣組の事務局長職を退任後もオッペンハイマー公園の遺産桜の保護活動をリード。現在、尺八奏者として弟子の指導に当たるほか、各種イベントで演奏活動を行っている。
氏は「正直なところ、このような名誉な賞を受けるとは予想もしていませんでした」と前置きして、ビデオ映像を通じて感謝の気持ちを語った。
日本文化賞 松野洋子氏
日本の芸術分野で卓越したパフォーマンスを行うだけでなく、日本の芸術の精神や文化を伝えることで、日本文化の認識向上に貢献した個人や団体に贈られる賞。
松野氏は岐阜県出身。西川流日本舞踊の師範として多数の弟子たちを指導。1975年からBC州サレー市の小学校で踊りと着付けを紹介し、今年で42年目となる。在バンクーバー総領事館主催の日本紹介イベント「タッチ・オブ・ジャパン」での踊りと着付けの紹介活動も20年以上となる。多い時には週に2度の出演ということもあった。バンクーバー日本語学校、スティーブストン仏教会などにも舞踊指導や着付け等で協力。2011年結成した民謡踊りグループ「彩月会」の活動の一つとして、日系センターでのいきいきプログラムへの協力を開始した。松野氏はすでに、来年5月ケローナで開催予定の日本をテーマにした祭りでの出演も決まっている。 「この受賞は私一人にいただいたのではなくて、主人のトムのサポート、みなさんのサポートあってこそのこと。ありがとうございました。健康でいる限り、日系センターでの活動を中心にがんばっていきたいと思います」
日系カナダ人文化保存・教育賞 ジョン・エンドウ・グリーナウェイ氏
日系カナダ人の歴史保存、また公共教育において意義深いインパクトを与えた個人や団体に贈られる。日系文化の歴史と日系コミュニティを深く理解しながら、公共での貢献を継続してきたことも評価の対象となった。
ジョン・エンドウ・グリーナウェイ氏は、フリーランスのグラフィックデザイナーであり、デザイン会社ビッグ・ウェイブ・デザインのオーナーでもある。氏はカナダで最初に結成された太鼓グループ「語り太鼓」、そして太鼓のプロ奏者グループ「ウズメ太鼓」の創始メンバーとして、北米、ヨーロッパとツアーを経験。「ちび太鼓」の指導助手としても活動した。1993年から日系カナダ人のコミュニティ、歴史、文化の情報誌「The Bulletin」の編集長を務めている。
「10代の頃から日系コミュニティのさまざまな事柄に関わってきたことが、この受賞につながっていると思い、とても感慨深いです。日系コミュニティはたくさんの素晴らしい経験をさせてくれました。この度の受賞はとても光栄であり、恐縮です」
(取材 平野香利/写真提供・Nikkei National Museum & Cultural Centre/ Manto Artworks 中村"Manto"真人氏)
日本文化賞を受賞した松野洋子氏
コミュニティサービス賞を受賞した山城猛夫氏はビデオで挨拶を(写真 平野香利)
日系カナダ人文化保存・教育賞はジョン・エンドウ・グリーナウェイ氏に贈られた(写真 平野香利)
奨学金を受け取ったベスさん(写真右)はバンクーバー朝日軍メンバーのジョン・ニヘイさんを祖父に持つ
募金総額を発表する日系文化センター・博物館理事長五明明子氏