2016年9月22日 第39号

ヨーロッパとアジアにまたがる国、トルコ。そのトルコと日本の友好125周年を記念して制作されたのが、映画『海難1890』だ。1890年に起きたトルコ史上最悪の海難事故、軍艦エルトゥールル号遭難事件と、1985年のイラン・イラク戦争時に、トルコ政府が救援機を飛ばしてテヘランに取り残された日本人を救出した出来事という、二つの史実を基にしている。在バンクーバー日本国総領事館及びトルコ総領事館並びに日系文化センター・博物館の共催により、この『海難1890』の特別上映会と記念レセプションが、9月18日、ブリティッシュ・コロンビア州バーナビー市の日系文化センター・博物館で行われた。

 

 

上映会出席者に挨拶する岡井朝子在バンクーバー日本国総領事夫妻とアニル・イナン在バンクーバートルコ総領事夫妻(中央)

 

両国の総領事館共催の特別上映会・記念レセプション

 特別上映会・記念レセプションは、海難事故発生の9月16日に合わせて、間近の週末ということで18日に行われた。イベントには、岡井朝子在バンクーバー日本国総領事、アニル・イナン在バンクーバートルコ総領事、日系文化センター・博物館理事長・五明明子氏、バーナビー市長デレク・コリガン氏をはじめ、各国の総領事や政府関係者等の招待客に加え、在バンクーバー日本国総領事館による公募の当選者など、合計で約250人が集まった。

 最初に登壇したイナン総領事はまず「日本への公式親善訪問を行った軍艦エルトゥールル号遭難事件は、587人の犠牲者を出し、トルコ史上最悪の海洋事故となった」「トルコ人の心に鮮明に残る悲劇です」と語った。そして、日本では映画化まで知られていなかったこの事件について、「生存者を日本人が救ってくれたということも、私たちは覚えています」という。

 さらに、今回の上映会の背景について、「(海難1890)はトルコと日本の合作映画で、トルコと日本の友好125周年を記念して制作されたもので、在バンクーバートルコ総領事館と在バンクーバー日本国総領事館の共催での上映会が実現しました」と説明した。

 エルトゥールル号遭難という悲劇に対して、悲劇にならずにすんだのが、1985年3月、イラン・イラク戦争で緊張が増したテヘランで、トルコ政府の救援機が日本人を救出した出来事だ。イナン総領事はトルコ政府が救援機を2機送るという決断を行い、この2機のパイロットが危険なミッションをやり遂げたことをよく覚えているそうだ。

 続いて挨拶を行った岡井総領事は、映画を心温まる、そして感動的な物語と紹介。「およそ100年前に日本人が行った善意をトルコ人が忘れないでいてくれた」ことについて、感謝を述べた。また、「1985年、テヘランに日本の救援機が入らない中、トルコ政府が日本の要請に応じて、救援機を追加で送り、トルコ人がまだ残っているのにかかわらず、日本人を優先して救出してくれた」、「当時は、日本人は、トルコがなぜそんなに親切にしてくれるのか分からなった」と振り返り、「トルコの人たちは、(1890年のエルトゥールル号遭難事件での)日本人の親切にお返ししたいと考えていてくれたというのは驚きでした」と述べた。

 「(映画前半の舞台となった和歌山県について)スティーブストンは1880年代に和歌山から多数、移民が渡ってきた土地だ」として、和歌山とカナダと強いつながりを説明した。そして、「日本には『情けは人のためならず』という言葉があり、それは自分のためではなく、ほかの人に親切にしたことは、めぐりめぐって自分にも戻ってくるという意味であるが、和歌山の漁民は報酬を期待してあのような懸命の救助を行ったわけではない、真の善意というものは時空を超えて人々の心に残るものだということを教えてくれる映画だと思います」と締めくくった。

 

エルトゥールル号とトルコ政府によるテヘラン日本人救出

 映画の前半は1890年9月、和歌山県串本町の紀伊大島沖で、台風により大破したエルトゥールル号の生存者らを、地元の村人が献身的に救助した話を描く。

 船は岩礁に激突。破損部分から海水が機関に入り込んだことで、水蒸気爆発を引き起こして大破して、乗組員は荒れる海に投げ出される。その爆音に驚き岸壁に集まってきた大島の島民らは生存者を懸命に救助する。貧しい村で限られた食料を提供するほか、内野聖陽扮する医師らが救急処置を続ける。犠牲者の遺体や遺品を集めて、血や泥を洗い、遺族に返してあげたいという村人たち、そして亡くなった人すべてに棺桶を用意したいという村長。村人たちの献身的な行為により、生存者らは無事、オスマン帝国(1890時のトルコ)へ帰還する。

 後半部分の舞台は遭難事件から、1985年のテヘラン(イラン)だ。イラン・イラク戦争の停戦合意を、イラクのサダム・フセイン大統領が破棄したことで、両国はミサイルで攻撃しあう事態となった。5月にイラク軍はテヘランを空爆して、イラクのフセイン大統領が、48時間後にイラン領空の航空機を官民軍問わず攻撃を開始すると宣言した。この宣言を受けてイランに住む外国人らは、各国の航空会社や軍の救援機でイランを脱出する。

 しかし、日本人については、日本航空が政府から要請があったチャーター機の派遣を拒否。自衛隊の派遣も国会承認などの手続きに時間が必要として、絶望的な状況にあった。日本人学校の教師、春海は、どうして日本が日本人を助けてくれないんですか、と嘆く。

 タイムリミットが迫る中で、無理と承知で、日本大使はトルコ政府へ日本人救出を依頼する。トルコのオザル首相は、救援機の追加派遣を決断。テヘランに残っていたまだ500人近くのトルコ人は、自分たちが優先して救援機に乗るのが当然と訴える。しかし、トルコ大使館の職員ムラトの「私たちの祖先は異国の地で絶望に陥った際、救ってもらった。今、日本人を救えるのはあなたたちだ」という言葉に、トルコ人らは日本人に優先的に飛行機の席を譲り、陸路自動車でイランを脱出することとなった。

 心温まるシーン以外にも、遭難事件で生き残ったエルトゥールル号の海難やテヘラン空爆など、緊張感のあるシーンが盛りだくさんの映画だ。

 

日本料理やトルコ料理、日本酒が用意されたレセプション

 映画上映の後はレセプションが行われ、上映会の出席者らは用意された日本料理、トルコ料理、トルコワインやジュース、日本酒に舌鼓を打ちながら、映画の余韻に浸った。

 レセプション会場で、映画及び上映会の感想・コメントを聞いた。

 「緊迫し絶望的な状況のテヘランで、日本人を助けることに合意してくれたという、トルコの皆さんの崇高さに感動しました。『海難1890』は日本とトルコの友好125周年を記念した映画で、昨年のG20でトルコを訪れていた安倍晋三首相もご覧になっています。また、カナダではバンクーバー以外でも、トロント、オタワ、モントリオールで上映会が開かれます。映画は、人と人の気持ちをつなげる力を持っています。この映画は日・トルコ間だけでなく、世界もつなげると思いました」(岡井総領事)

 「今回のイベントを開催させていただいた日系センターにお礼を申し上げます。遭難事件でトルコ人を助けてくれたことに、改めて感謝します。私たちは恩義を忘れません。また、テヘランでトルコが日本人を助けたことは、トルコ人の誇りです。これからも二国間の友好関係を深めていきたいと思います」(イナン総領事)

 「最初から最後まで楽しむことができる映画でした。100年近く経っても、日本に対する感謝の気持ちをトルコ側が忘れていなかったということにも感動しました」(サブ・ダリウォール・バーナビー市市議会議員)

 「岡井総領事が冒頭のご挨拶の中でおっしゃっていた、情けは人のためならずが、まさに当てはまる素晴らしい映画でした」(福本衣季子さん)  「エルトゥールル号のことは歴史の授業で学んで知っていましたが、映画を観て、改めて感動しました」(エムラー・ツツムルーさん)

(取材 西川 桂子)

 

 

「心温まる物語が、日本とトルコの友好の礎となった」と語る岡井総領事

 

 

アニル・イナン在バンクーバートルコ総領事

 

 

五明明子日系文化センター・博物館理事長は「この記念すべきレセプションの会場として、日系文化センターを選んでいただき、心より御礼申し上げます」と語った

 

 

「バーナビー市は、カナダ以外の国で生まれた人が人口の半数以上を占めます。そのバーナビー市で今回のイベントを開催いただけることを嬉しく思います」と挨拶したデレク・コリガン・バーナビー市長

 

 

特別上映会・記念レセプションには約250人が集まった

 

 

特別上映会・記念レセプションには約250人が集まった

 

 

特別上映会・記念レセプションには約250人が集まった

 

 

日本総領事館からは寿司、唐揚げ、餃子、羊羹などが用意された

 

 

トルコ料理

 

 

トルコ料理

 

 

トルコ料理

 

 

トルコ料理

 

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