2016年9月15日 第38号

『私の戦後71年』に投稿してくださった、トロント在住の丸木英朗さん。兵庫県甲子園生まれで、大阪府立大学を卒業した後、東芝放射線(現・東芝メディカル)に入社、ブラジル移住、アメリカ勤務を経て、現在カナダ在住というユニークな経歴の持ち主だ。その丸木さんが、8月26日から9月4日まで開催された、アメリカズ・マスターズ・ゲームズ(Americas Masters Games)にカナダ代表として参加するため、バンクーバーを訪れた。

 

 

「どうせ出るなら金メダルを取りたいですね。滞在しているホテルにはプールがないので、練習できるところを探さなければ」(8月30日、市内のホテルで)

 

ー現在、何歳ですか?
 昭和10年生まれ、現在、81歳です。

ー『私の戦後71年』では、「阪神間は米軍による大空襲で、僕達は焼け出され路頭に迷い、住む家なく、着る衣服なく、食べるものすらない苦難の日が始まりました。僕は十歳でした」とありました。8月6日未明、西宮から御影の市街地に焼夷弾攻撃が加えられた、いわゆる「阪神大空襲」ですね。怖かったでしょうね。
 うちは焼けてしまうし、目の前が死人ばっかりになるのを見たのだから、本当に怖かったですね。(家族)全員、生き残ることができたのは奇跡でした。当時10歳だった僕は、怖かったことばかりで、詳しくは覚えていないのですが…。

ー終戦はその10日後でしたね。「その前日までは鬼畜米英と教えられ『欲しがりません勝つまでは』と祖国の勝利を信じ勉強してたのが、夜が明けたらデモクラシーとか言われても、世の中どうなってるのかさっぱり判らなかったのです」とお書きになっていました。
 前日までは鬼畜米英だったのに、一晩あけたら、いきなり敵性語だった英語がラジオから流れてくるのだから、何がどうなったのか、わけが分かりませんでした。

 丸木さんは、yahooで『繁田一家の残党』というタイトルの私小説を執筆した。

ー『繁田一家の残党』も拝読しました。ダイナミックな人生を送っていらっしゃったのですね。「昭和41年の暮れ、親会社の社長に就任したばかりの土光敏夫氏(注・参照)の自宅に訪問し『海外進出を進言してもらちがあかんので、ブラジルに移住します』と啖呵をきって…」というくだりには驚きました。海外志向のようなものはいつ頃からお持ちでしたか?
(注)石川島重工業・石川島播磨重工業社長、東芝社長・会長を歴任、日本経済団体連合会第4代会長も務めた実業家
 メソジストの幼稚園に行ってたので、その頃から海外に行ってみたいって気持ちがありました。外交官試験は大学生のうちから受けることができるのです。それを受けたけれど、落ちてしまいました。では、フルブライト奨学金は?と応募するのですが、こちらも取れないし、海外進出を進言してもらちが明きません。仕方がないので、ブラジルに移住することにしました。
 移住事業団を通じて、ブラジルにあった新潟鉄工との合弁会社から採用内定の通知を受け取っていたのに、理由が分からなかったのですが、出発直前に内定を取り消されてしまいました。どうしようと思っていたら、移住事業団が架空の呼び寄せ先に就職移住したらいいっていうのです。移住事業団も人を送ったら実績ができたからでしょうね。
 ブラジルに着いたら、土光さんの一声で東芝医用機器におぜん立てしてもらって、代理店になった会社の総支配人に決まりました。でも、戦時中にナチとソ連の二重スパイをしていたという、オーナーのデンマーク人に騙されていたことを知って、3年後にはブラジルを後にして、アメリカへ放浪の旅に出ました。
 アメリカではトランジット(通過)ビザで放浪していたのが見つかり、3年間は入国できなくなりました。トランジットは通過という意味だから、通って出なければ(出国しなければ)いけないのです。今は厳しくなっていて、(不法滞在の場合は)10年間、入国できないらしいですね。この3年が終わった時は、本当にうれしかったです。

ーアメリカ放浪の後、トロントに行ったということですよね?
 シアトルからバスでここバンクーバーに来て、それからトロントに移りました。トロントにしたのは、カナダのビジネスの中心だからです。バンクーバーからトロントまでもバスで移動したのですが、遠かったですね。

 丸木さんは仕事の関係でアメリカや日本でも暮らしたが、トロントでリタイアしているという。

ーリタイアしてトロントということですが、日本に帰ろうとか思いませんでしたか?
 思いませんでした。日本は自由がなくて、私には窮屈です。

ーカナダにした理由は?
 やはり保険です。ちゃんとした健康保険がある。それに、多様文化を尊重していて、人種差別がない。アメリカ国籍も持っているので、ヒラリーさんが大統領になってアメリカでも健康保険がちゃんとしたら、アメリカもいいかな。アメリカ国籍を取ったのは抽選でした。

ー今回、バンクーバーにいらっしゃったのは、カナダチャンピオンとして、アメリカズ・マスターズ・ゲームズへの参加が目的だそうですね。参加種目を教えてください。
 僕が出場するのは、平泳ぎ50メートル・100メートル・200メートル、バタフライ50メートル・100メートル。バタフライは71歳から覚えました。
 マスターズというのは、30〜34歳、35〜39歳、40〜44歳と5歳ごとにカテゴリーが分かれていて、僕は80〜84歳の部門での参加。今回のはアメリカズということで米州(記者注:南北アメリカ大陸の国々)マスターズ・ゲームズで、オリンピックの翌年になる来年はニュージーランドで世界マスターズ・ゲームズが開催されます。それにも参加したいですし、2021年には日本で開催される世界大会への参加が目標です。ただ、来年は1月から3月まで3カ月間もブラジルに滞在する予定です。その後、4月にトロントから地球上では空路最も遠いオークランドまで飛んでは、80歳超えた老体にはきつすぎるかと思い直しています。

 丸木さんはアメリカズ・マスターズ・ゲームズで平泳ぎ50メートル、100メートル、200メートル、バタフライ50メートルで見事優勝。4個の金メダルを獲得した。

(取材 西川 桂子)

 

 

試合前には「禁酒して猛練習してますので、勝てば勝利の美酒を痛飲します。負ければ自棄酒になりますが」と話していた丸木さん

 

 

「オランダ系ブラジル人の家内はバンクーバーに行くのは初めてですので、楽しみにしてます。試合の後は家内とビクトリアに行く予定です」「熱帯生まれで熱帯育ちの家内にはトロントの冬は寒過ぎるので、2年前に彼女がリタイアしてからは最も寒い1月から3月までは常夏の故郷へ里帰りすることにしてます」と愛妻家ぶりも見せた

 

 

金メダル4個受賞の快挙!

 

 

金メダル4個受賞の快挙!

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。