2016年9月8日 第37号

日本・カナダ商工会議所第13回年次総会が8月30日バンクーバー市内ターミナル・シティ・クラブで開催された。 総会後には今年4月に着任した岡井朝子在バンクーバー日本国総領事が「日本政府の成長戦略と当地における官民連携の可能性」というテーマで講演。日本とブリティッシュ・コロンビア州との経済的なつながりを強化し、両地でのビジネスの相互発展を目指す協力体制をこれから築いていきたいと語った。

その後は懇親夕食会となり、参加した会員約30人が和やかに歓談の時間を過ごした。

 

 

バンクーバーの日系社会と共にBC州と日本のビジネスシーンを盛り上げていきたいと語る岡井総領事

 

会員であることがメリットとなるクリエイティブな企画が必要
‐日本・カナダ商工会議所  第13回年次総会‐

 開会にあたり小松和子会長が「会長の任務を副会長たちが代行し、全理事が協力しJC‐COC(日本・カナダ商工会議所)の任務を遂行してくださいました」と感謝の意を表した。また今後の会のあり方については、現在の会員数をいかに増やすか、会を活発化するかという、どのNPO(非営利団体)でも抱えるテーマについて、JC‐COCに加入することで会員が自分たちのビジネスにとって有益となると感じるクリエイティブな企画、フレッシュな企画が必要と語った。

 今年3月には日本商工会議所とカナダ商工会議所の合同企画「第2回日本カナダ商工会議所協議会シンポジウム」がバンクーバーで開催された。日加の政財界から約260人が参加したこのイベントは、JC‐COCが関わるイベントとしては発足以来最大となった。こうした日本とカナダをつなぐ役割ができることをJC‐COCの強みとして生かすことが重要と指摘した。会員の相互交流発展を実現できる会を目指し、意見や企画提案などがあれば事務局に知らせてほしいと語った。その後は、補欠理事の選出・承認、2016年6月30日年度末会計監査報告、今後の行事計画などを報告した。

 

「日本政府の成長戦略と当地における官民連携の可能性」
岡井朝子在バンクーバー日本国総領事講演

 今回の講演テーマについて岡井朝子総領事は、安倍政権になって以降、民間の活力、海外成長の機運を日本に取り込もうという視点から日本企業支援が全面的に打ち出され、自分たち在外公館(外務省)も積極的な企業支援を展開していると語った。 

 そうした中、官と民との関係をどういうふうに総領事館で捉えるか、現地で領事館と民間企業がどう協力していっそうビジネスを盛り立てていけるか。「これをこの着任しての4カ月の間に考えて、やりたいと思っていることをお話ししようと今回のテーマを選びました」と語った。

 今回は『日本再興戦略2016これまでの成果と今後の取組み』からの抜粋を参考資料として配布し、それに沿ってバンクーバー総領事館で手がけようと思っていることを紹介するとした。

 

官民戦略プロジェクト10から

 日本再興戦略2016は、安倍政権が目指す名目GDP(国内総生産)600兆円の実現に向けた、具体的な成長戦略政策で、官民戦略プロジェクト10、生産性革命を実現する規制・制度改革、イノベーション創出・人材育成・確保、海外の成長市場の取り込みと4つの柱から構成されている。

 今回はこれに沿ってバンクーバーでこれから手がけようと思っていることを紹介するとした。(資料の詳しい内容については、www.kantei.go.jp/jp/headline/seicho_senryaku2013.htmlを参照)

 『プロジェクト10の1ー1:新たな有望成長市場の創出』から『①第4次産業革命の実現〜IoT・ビッグデータ・AI・ロボット〜』という項目では、高齢化社会に向けた『サイバーダイン』に着目。「筑波大発のベンチャーであるサイバーダインは、身体に装着することで人の動作を改善・補助・拡張・再生する『ロボットスーツHAL®』を開発」(資料より抜粋)、この筑波大学の教授、もしくは大阪大学の教授を招き、レクチャー兼デモンストレーションをバンクーバーで実現できないか調整中と語った。

 なぜこのテーマを選んだかについては、バンクーバーでも高齢者が多く医療・介護のニーズも高いのではと考えて、日本の最先端技術を発信しつつ需要喚起につながるのではと説明した。カナダの高齢化社会を迎え、医療、この他にも高齢者対策の分野でバンクーバー総領事館ができることがあるのではと思っている。

 

中小企業支援から観光立国実現まで

 『1‐2:ローカルアベノミクスの深化』 『⑦中堅・中小企業・小規模事業者の革新』で、日本政府は中小企業の海外展開支援を後押しするという体制を数年来とっており、地方自治体と連携した地域産業の海外展開の後押しも積極的に行っている。

 バンクーバーでも昨年は公邸で、網走市の農産品を輸出したいという企業のプロモーションイベントを実施。今年は大分県が希望しているので「ぜひ、公邸を使ってそういった形で実現してもらいたいと思っています」。

 岡井総領事は公邸を利用してビジネスに活用することは最近では問題がなくなったと語り、商談会やプロモーションのためのレセプション開催などの要望には相談に応じる用意があり、総領事館担当者の飛矢崎峰夫領事に連絡してほしいと語った。

 同じく『⑧攻めの農林水産業の輸出力の強化』について、日本政府の方針としては農林水産物・食品輸出額を2020年に1兆円を目指すという目標があるが、この分野についてはバンクーバーでも大いに関係があると思っている。

 例えば、日本の食文化の普及もこの分野に含まれ、日本の酒類のバンクーバーでの普及、特に日本酒についてはBC州日本酒協会(Sake Association of British Columbia)などが主体になって利き酒会を開くなど活発に活動しており、バンクーバー総領事館も日本酒のプロモーションにいろいろな形で支援していきたい。

 自身は「日本酒協会の名誉会長に任命してもらった」と笑い、この分野では非常にできることが多く、領事館関係のレセプションをはじめ日本食レストランなどと協力し、積極的に取り組む考えだ。

 『⑨観光立国の実現』でも、日本政府としては訪日外国人旅行者数を2020年には4千万人に、という数値目標がある。2015年は1974万人で前年比47・1パーセント増となっているが、これを5年で倍増するという計画。2020年には東京オリンピック・パラリンピック夏季大会が開催され、この分野での期待がかかっている。

 バンクーバーでも日本への旅行者をどう増やすかが課題で、日本の魅力の発信に力を入れ、広報などの取り組みを強化する必要があると思っている。旅行会社など各関係者と協力しつつ、日本の観光立国の実現につなげたい。

 その他では『③環境エネルギー制約の克服と投資拡大』では資源安全保障の強化として、LNG/天然ガス市場の育成・発展でBC州のLNGの日本への輸出実現に向け、領事館としても連邦・州政府に働きかけ全面的に支援していくとした。また防災分野にも着目し、バンクーバーでも大地震が起こる可能性が指摘されている中で、準備不足は州政府も認めるところであり、この分野では世界トップクラスである日本の高い技術を紹介し、官・民・学が合同で防災のための総合ソリューションを提供、専門家の招致やワークショップなどもできる機会があればとしている。

 岡井総領事は、「バンクーバーでは日系社会を中心に、多くの団体によるビジネスや文化交流など、いろいろなことが行われている中で、総領事館として何ができるかを考え、皆さんの活動を支援しながら、大きな結果が出るようなきっかけを提起できなかという視点から今回の講演内容を選びました」と語った。

 総領事館としては親しみやすさと共にいろいろな相談に応じながら、戦略的に攻めの姿勢で打っていく総領事館を目指しているとし、「いいアイデアがあったらぜひ声を掛けてもらって、一緒に何か新しいものをやっていけたらいいと思います」と締めくくった。

 講演後、閉会のあいさつとして小松会長は、BC州と日本の両方のビジネスを取り持ちながらバンクーバー日系社会のビジネスに対して総領事館がどういう支援ができるのかということを考えてもらいたいと語り、JC‐COCにもバンクーバー日系ビジネスとBC州、日本のビジネスをつなぐ重要な役割があるはずだとして、会員に奮起を促した。

(取材 三島 直美)

 

 

閉会のあいさつで、バンクーバー日系社会、BC州、日本のビジネスが一緒になって発展していくことが重要と語る小松会長

 

 

総会での報告会。左から、小松会長、財務担当の藤井氏、若林理事

 

 

オークションで日本航空のビジネスクラスを購入した会員と記念撮影。右端は日本航空バンクーバー支店太田支店長

 

 

総会の様子。今年度は約30人が出席した

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。