2016年9月1日 第36号

バンクーバー新報社主催による第1回バンクーバー詩吟愛好者交流会が8月27日、市内のバンクーバー仏教会ホールで開催された。サンフランシスコ、ロサンゼルス、さらにハワイからも吟士が集まり、流派を超えての詩吟交流会は北米では初めての試みとなった。今回は日本舞踊、太鼓、箏と尺八による演奏もあり交流会を華やかに盛り上げた。流派を超えてお互いに切磋琢磨することができる交流会は大会出場者、観客など合わせて延べ65人が集い、大成功に終わった。

 

 

参加者と関係者による集合写真/span>

 

28名の伸びやかに響く声

 伊東孝次大会実行委員長は開会のあいさつで、主催者である津田佐江子バンクーバー新報社主に感謝を述べるとともに「北米では90パーセントが年配吟士です。そう考えると、流派にこだわっていては、ここバンクーバーにおいて日本の古い文化である『詩吟』を継承していけないと思っています。複式呼吸は健康によいです。ボケ防止、ストレス解消にもなります。多くの人に詩吟の世界を知っていただきたい。詩吟を愛し、日本の文化を継承していく。詩吟をとおして日本のこころを後輩に残していきたい」と語った。

 続いて、主催者である津田佐江子社主は「多くの支援によって第1回のバンクーバー詩吟愛好者交流会が開催できることに感謝しています。そして、それぞれの流派の持つ違った味わいを皆さんと一緒に楽しみたいと思います」と挨拶した。

 28名の吟士が順次登壇し、それぞれの吟題を朗々と魂を込めて吟じていく。抑揚のきいた伸びのよい声が会場の隅々まで響き渡り、聞く人に心地よい響きを与える。吟士の後ろには詩が映し出され、初めて詩吟に触れる者でも分かりやすい工夫がされていた。尺八と箏の伴奏を伴っての詩吟や抜刀術(剣舞)や華道と併せた詩吟(華道吟)も登場し、詩吟の懐の深さを実感できる。さらに休憩後には、彩月会と音羽流による日本舞踊や箏と尺八による演奏、そしてバンクーバー沖縄太鼓によるハツラツとした演奏も加わり、バンクーバーにいながら日本の伝統文化をとおして、日本のこころを存分に味わえる贅沢なひとときとなった。

 

参加吟士と観客の声

・赤嶺安彦さん(ハワイ) 流派を超えた詩吟会ができるのは大変いいことだと思います。今後も続けていただきたい。吟を詠ずるというのは、ストレス発散にとてもいい。

・今井純子さん(ハワイ) 大変素晴らしかったです。

・世木錦光さん(ロサンゼルス) 詩吟コンダクターという詩吟伴奏をする機械で吟じてみたかったので、それができて良かった。

・田並国詔さん(バンクーバー) 流派内の大会では10人ほどの観客しか集まらないが、今日の交流会では多くのお客さんが来られている。こういった交流会を開催すれば、若い世代への詩吟の普及に役立つと思います。

・秋田谷国裕さん(バンクーバー) 流派を超えての交流会はとても刺激になります。お互いにもっと切磋琢磨できる。今回の交流会は堅苦しさがなくて、詩吟に興味のある人には入りやすくてとてもいい。

・観客の40代の女性 詩吟を聴いたのは初めてですが、出演者の皆さんがきちんと背筋を伸ばして会場に響く伸びやかな声で吟じておられたのに感動しました。また、ステージのスクリーンに詩が映し出され、詩吟を聴きながら、字を追って読めるのでよかったです。

・伊東孝次大会実行委員長 観客の方が多く来られていて、「こんなにいい詩吟を聴いたのは初めてです」といった声も聞けて、とても満足しています。流派を超えての交流会でお互いが刺激し合って、みなが成長できる場を設けられて、大成功だったと思います。

 

詩吟とは?

 詩吟? 聞いたことはあってもよく分からない読者も多いのではないだろうか。詩吟とは漢詩・和歌・俳句などの古典の名詩を大きな声で詠み、その語尾の母音を長く伸ばし、独特の節をつけ、詩魂をくみ取る日本の伝統芸能である。現代詩吟のルーツは、江戸時代後期に武家の子弟を教育した私塾や藩校において、漢詩を素読するときに独特の節をつけて詠んだことからといわれている。詩吟のことを吟詠や吟道ともいう。詩吟に剣舞や詩舞を伴う演出がされることもあり、また、無伴奏が基本であるが、箏や尺八による伴奏をつけることもある。

 人間の喜びや悲しみ、自然の美しさや歴史の教訓が凝縮されている漢詩を腹から朗々と吟じる詩吟は、詩を理解して作者の伝えたい情感を感じ取るため感受性が豊かになり、そして芸術的に詩心を吟ずる表現力が養われるので子供たちの情操教育に適していて、お年寄りだけではなく、幼少期から始めるのも良いといわれている。

 また健康面からも注目されている。腹式呼吸によって腹から声を発生するので、横隔膜を上下させ、胃や腸の働きを活発にし、自律神経のバランスを良くする効果も期待できる。さらに腹式呼吸で腹から声を出すことで酸素を多く取り込み、身体の活性化とストレス発散にも役立つため、健康や美容面から、日本では老若男女を問わず詩吟を始める人が増えているという。

(取材 福安 恵子)

 

 

開会のあいさつをする伊東孝次大会実行委員長

 

 

箏(成谷百合子さん、キャッツ幸子さん)と尺八(山本篁風さん)で演奏された『雲』

 

 

デビッド・バーカーさんの抜刀術と共に吟じる角谷国魁さん(バンクーバー)

 

 

バンクーバー沖縄太鼓による『ミルクムナリ』

 

 

音羽流による日本舞踊、新舞踏『富士』

 

 

彩月会による日本舞踊『こんちき踊り』

 

 

板垣国邦さん(バンクーバー)

 

 

世木錦光さん(ロサンゼルス)

 

 

牛沢国玲さん(バンクーバー)

 

 

堂満テイさん(バンクーバー)

 

 

森本登美瞳さん(左)と上田隼人さん(バンクーバー)による華道吟

 

 

田並国詔さん(バンクーバー)

 

 

秋田谷国裕さん(バンクーバー)

 

 

ハワイからの参加者

 

 

サンフランシスコとロサンゼルスからの参加者

 

 

ハワイから参加の今井純子さん

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。