海上自衛隊の練習艦隊によるバンクーバー訪問は、遠洋練習航海の一環だ。海上自衛隊では、初級幹部に対して、外洋航海を通じて、学校などで得た知識や技能を実地で体験することにより、修得させるとともに、幹部自衛官として必要な資質を育成するために、毎年、実施している。

参加している初級幹部というのは、幹部候補生課程を修了した約180名だ。海将補、大塚海男氏が率いる練習艦「かしま」と「あさぎり」、そして護衛艦の「みねゆき」が派遣されている。今回、バンクーバーに立ち寄ったのは、「あさぎり」と「みねゆき」、そして乗船していた約60人の幹部候補生過程修了者を含む、400人ほどだ。


友好を確かめ合った歓迎式典

バラードドライドックピアで行われた、ノースバンクーバー市主催の歓迎セレモニーには、ノースバンクーバー市長のダレル・マサト氏に加えて、在バンクーバー日本国総領事伊藤秀樹氏、太平洋を統括する、カナダ海軍司令長官グリーンウッド氏、合同演習を行ったHMCS ウィニペグ関係者などが出席して、日本とカナダの友好関係を深め合った。

 

最初にスピーチを行ったマサト氏は、造船業での歴史を誇るノースバンクーバー市が、日本の海上自衛隊部隊とHMCSウィニペグを迎えることができ光栄と挨拶。一方、大震災について心より見舞い申し上げると語った。「ノースバンクーバー市は千葉市と姉妹都市関係にあり、ライオンズクラブやさまざまな交流プログラムで親善を行っている」として、「ロンズデールキーやグラウスマウンテン、キャピラノ吊り橋など見どころも多いノースバンクーバーを、この機会に是非、楽しんで欲しい」と温かい歓迎の言葉を贈った。

 

グリーンウッド氏も、東北大震災について触れて、「お見舞い申し上げます」と語るとともに、「このような中でよく来てくれました」と、訪問に感謝を示した。さらに、海上自衛隊とは、ハワイでの環太平洋合同演習などに一緒に参加していることや、現在、オーストラリアへと向かっているHMCSオタワは夏に東京を訪れる予定であることを挙げ、カナダ海軍と海上自衛隊がさらに協調を深めることを期待した。

 

伊藤秀樹氏は、「同じ価値感を数多く持つ日本とカナダが、世界の安全保障をはじめ、さまざまな分野でお互いに有益な二国間関係を持つ」と説明した。そして日本とカナダの間で、8月に二国間対話が始まること、カナダ海軍100周年の式典には海上自衛隊からも参加があったこと、今回の歓迎式典の前日、14日には、練習艦隊とHMCSウィニペグで合同演習を行ったことなど、両国、および海上自衛隊とカナダ海軍が良好な関係で結ばれていることを強調した。

 

伊藤秀樹氏のスピーチに続いて、バンクーバーの日系コミュニティの代表からの練習艦隊司令官の海将補大塚海夫氏への花束贈呈が行われた。大塚海男氏の返礼の挨拶では、まず温かい歓迎に対するお礼の後、「練習艦船の遠洋練習航海は(派遣員を含めて、海上自衛隊が)友好を深めることも目的」として、「156日間の航海で6カ国、14の港を訪れる」と練習航海について説明した。そして「日本とカナダは、太平洋を隔てた隣国同士で、日本との関係に関して古い歴史を持つ、ブリティッシュ・コロンビア州は、カナダの玄関口」であることから、「数日間しか滞在はしないものの、(ブリティッシュ・コロンビア州の人たちが、練習艦隊の寄港で)日本により親近感を持ってもらえば」と語った。

 

大震災についても、「東北地方を襲った地震と津波で今も約9万人が避難所での生活を強いられている」と、厳しい状況に触れながらも、カナダをはじめ世界中から温かい支援を受けたことについての感謝を示すとともに、「復興は着々と進んでいる」と報告。式典開催が、スタンレーカップ決勝の最終戦であったことから、カナックスへの応援の言葉も忘れなかった。

 

大塚海夫氏インタビュー

 

海上自衛隊のウェブサイトには、練習艦は「かしま」「あさぎり」となっています。
「かしま」「あさぎり」と護衛艦「みねゆき」で遠洋練習航海に出ていますが、アンカレッジを訪問した後、「かしま」はシアトルに向かいました。嬉しいことに、来て欲しいという要請をたくさん頂いているので、「かしま」はシアトル、「あさぎり」はバンクーバーで、私も明日、シアトルに飛ぶ予定です。

ウェブサイトには、派遣部隊の内訳で、タイ王国海軍少尉が1名とありました。
彼は今、「かしま」でシアトルに行っています。ほぼ毎年のように、タイから防衛大学校に留学する人がいて、この練習航海にも参加しています。

遠洋練習航海について教えてください。
海上自衛隊で幹部になるには、防衛大学校もしくは一般大学の卒業者などが、幹部候補生として、広島県江田島市にある海上自衛隊幹部候補生学校で1年間学ぶ必要があります。江田島はかつて帝国海軍の士官学校があった場所です。この学校で1年学び、卒業すると、3等海尉に任官されます。卒業式の当日に沖で待っている、この船に乗ってきて、日本の沿岸で5週間、航海実習を受けた後、5ヶ月間、6カ国を訪問します。カナダ、米国、パナマ、ペリー、チリ、メキシコで、8月にはハリファックスにも立ち寄ります。

ということは、日本の演習開始は3月と、大変な時期でしたね。
卒業は3月19日と大震災の直後でしたので、日本沿岸の実習でも通常の予定を急遽、全て変更しました。海上自衛隊の船はほとんどが東北に救援に行っていました。しかし次のリーダーを育てるのも我々にとって大切な仕事です。そこで、東シナ海も大事だぞということで、プレゼンスと言うんですけど(存在感を)示す必要があり、東に向かって実習を行っていました。

幹部候補課程を修了して、乗船しているのは何人でしょうか。
175人でバンクーバーを訪れているのは約60人です。

女性の姿も見かけますね。
合計のうち女性は17名なので約1割ですね。今年は特に多目ですね。女性が入れるようになったのは、だいぶ前からですが、遠洋練習航海に参加するのは、女性用のコンパートメントが以前はなかったので1995年からです。

寄港中の予定を教えてください。
候補課程を修了した人は新幹部と呼ぶんですが、新幹部の人たちは、出迎えてくれたウィニペグの乗組員とスポーツイベントを行ったり、人類学博物館を訪れたりして交流して、友好や文化理解も深めます。

(取材 西川桂子

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