オリンピック以来のバンクーバー

前回、小塚選手がこの町を訪れたのは2010年2月、バンクーバーオリンピック冬季大会の時。あの時とは全く様相が変わってしまったバンクーバーに、今回は2泊3日という強行スケジュールでの滞在。彼にこの町はどう映ったのだろうか。

‐1年ぶりのバンクーバーはどうですか?

「来た時にオリンピックビレッジとか車の中から見えて、あっ、久しぶりっとか思いました(笑)。なんかすごく懐かしかったです(笑)」

‐今回の滞在ではどこにも行く時間がないのでは?

「いや、行きました。ダウンタウンにふらふらと」

‐町を歩いていて誰かに気付かれませんでしたか?

「日本人の方に声をかけられました。今日、安藤選手と牛丼屋にいって牛丼を食べました。あとジャパドッグも食べました。美味しかったです(笑)」

‐バンクーバーの町の印象とかはありますか?

「やっぱり、きれいだなと思いました。バンクーバー住みやすそうだなと。オリンピックに来た時も冬でしたけどなかなか暖かかったし。住んでみたいなという感じの町です」

 

カート・ブラウニングさんとも仲良し

今回小塚選手が出演したスターズ・オン・アイスは、元カナダチャンピオンのカート・ブラウニングさんが主役を務めている。他にもバンクーバー五輪女子銅のロシェット選手(カナダ)、男子金のライザチェック選手(アメリカ)をはじめ、豪華メンバーが出演している。
そんな中で小塚選手はブラウニングさんたちと仲良しのよう。アイスリンクの横でのインタビュー中に、氷上で練習中だったブラウニングさん、デイビッド・ペルティエさん(ソルトレイク五輪ペア金メダリスト)から、氷のシャワーを浴びせられる手荒い歓迎を受けた。いたずらっ子のような大先輩ふたりからのプレゼントに、小塚さんもどことなくうれしそうに笑っている。「日本でも一緒に滑らせてもらってサッカーとかやって遊んでもらっていたし、今回一緒にメンバーとして滑らせてもらうので、仲よくしてもらってるんです」と説明してくれた。
アイスショーへの参加はジュニア時代から経験がある。それでもあこがれの人たちとのショーは格段に楽しいと笑顔を見せた。

‐競技とショーでは、滑りに違いはありますか?

「一生懸命やることに関しては、変わりはないと思います。試合の時というのは、個人、一人で集中してやるもの、アイスショーというは、みんなで団結して一つのショーを作り上げるという、僕はそういう考え方をしています。だから、また違う緊張感というのはありますけど。ショーというのはいいものを作り上げて、いいものを作り上げたなっていう喜びや楽しさを感じるものかなっと思います」

‐準備の仕方は違うのですか?

「僕自身まだプロではないので、どういう準備をアイスショーの時にすればいいのかわからないですけど。こういうところに来させてもらって、こういう練習を見て、プロの選手たちはどうやって作り上げていくのか、本番までにどうやっているのかを見せてもらっています」

‐どっちが楽しいとか、どっちの方が好きというのはありますか?

「試合は試合で、エキサイトする楽しさというのがあります。でもショーに来ると今ここにいる選手、僕が昔からあこがれていた選手に会える、一緒に滑れるという楽しさもありますし。どっちも好きですけど、今は現役選手として試合のほうかな」

 

スケートについて

去年の全日本選手権で優勝し、日本チャンピオンとなった。日本フィギュア界のサラブレッドとも言われ、両親はもとより祖父も日本チャンピオンという家庭で育つ。子供頃からフィギュアスケートは身近にあったと自分でも自覚している。しかし強制されたわけではない。「他にやりたいことがあれば、いつでもやめていい」と父親には言われていたという。
だから、スケートに対する姿勢にも肩に余分な力が入っていない。それが、彼のスケートの魅力かもしれない。

‐去年オリンピックを経験したことによってスケート自体が変わったところはありますか?

「オリンピックを経験して?う~ん、そうだな。やっぱり自分が夢を見ていた舞台で滑れて、緊張感ある舞台で滑って、自分なりになんとか納得いくような演技ができたということで、ちょっと自信を持って滑れるようになったんじゃないかなっと思います」

それは精神的に成長したということですか?

「技術的なことというのは、年齢と共にレベルアップは、努力を欠かさなければ(笑)上がっていくものだと思うので。精神的なものというのは、何かを経験する場所があって、こう伸びて、こう伸びて(右手を斜め上に挙げていく手振りを交えて)いくものかなっと僕は思っているので、オリンピックはそういうひとつの経験の場所だったかなと思います」

 

‐日本チャンピオンということで、プレッシャーとかはないですか?

「一応チャンピオンとして望んだ世界選手権で、ある程度緊張感というのはありましたけど。世界選手権特有の緊張感というのはいつも通り感じて、試合をやっている間は全然意識はしていなかったです。ただ、全日本チャンピオンになったからには、世界選手権でも頑張らなきゃいけないなというのは思いましたし、そのためにしなくてはいけないことは全力を尽くしました」

‐被災者に向けてメッセージを送ったりという活動をされていますが。

「名古屋のスケート場での練習中に揺れを感じました。テレビを見たらほんとにすごい地震だったんだなって。いつも応援してくださっているファンの人たちが被災にあわれている、その人たちに何ができるかと考えたら、やっぱり僕たちはスケートをやってその人たちにいろいろエールを送るということじゃないかと。まず、世界選手権で僕らががんばっている姿を見せて、それを見て、いい話題というのを提供できたらいいなっと思っていました」

帰国後も自分のできる支援活動をやっていきたいと語った。また、7月には佐藤由香さんがデトロイトで開くチャリティイベントにも参加できればうれしいとも語った。
細身の体、モデルのようなスタイル、スポーツ選手が身にまとっている独特の闘争心のような雰囲気をほとんど感じさせない、普通の好青年という印象が強い。インタビュー中は常に笑顔で、何度も声を上げて笑っていた。
それでもひとたび氷上に立つと、スーッと観客の視線を集め、そこにポッと花が咲いたような華麗さを醸し出す。今回のショーでも、ひときわ大きな拍手と歓声を浴びていた。
現在22歳。これから日本フィギュアスケート界を背負っていく立場ながら、気負いはない。今後は「見ていて楽しい、何か楽しい、そんな雰囲気のものを感じてもらえるようなスケートをしたいなと思います」と言う。自然体がよく似合うスポーツ選手もいるのだと感心した。
最後にバンクーバーのファンに、「今回で3回目ですけれども、応援していただいているたくさんのファンの方々に感謝しています。これからも応援していただけたら、というのと、あとは、試合とかでまた来る機会があると思うので、町で見かけたら声をかけてください」とメッセージを送った。

(取材 三島直美/写真 東海林)

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