6月10日、日加ヘルスケア協会と隣組の共催による骨粗しょう症講座が隣組で行われた。メディカル・グループ・ビジットという形式のもと、日加ヘルスケア協会理事長でありブリティッシュ・コロンビア州でファミリードクターとして活躍している田中朝絵氏によって、骨粗しょう症について説明があった。そのあと15人の参加者がそれぞれの疑問や体験を話しあった。参加者は田中氏の歯切れのいい説明に大いにうなずき、時に笑い、充実した時間を過ごした。この日、田中氏は3つのポイントについて説明した。その内容をリポートする。

 

 

メディカル・グループ・ビジットの様子

 

「メディカル・グループ・ビジット」とは

 BC州保健省が数年前から始めた、生活習慣病などの予防のためのグループセッション。少人数のグループを作り、そこでメディカル・グループ・ビジットの訓練を受けたファミリードクターが病気の説明をしたり、生活の改善法などについて話し合いながら、病気予防の啓蒙を進めていく活動。(日加ヘルスケア協会のホームページより一部抜粋)

 ホームドクターや医療機関へ行った後に、担当医からのアドバイスを確実に実践するためには、一対一での医師と患者という関係よりも、同じ悩みを持った患者で小さなグループをつくり、参加者の体験をみんなでシェアしていく参加型の対話が効果的であることが分かってきた。患者本人がグループに自主的に加わることによって得るものが大きいからだ。

 「メディカル・グループ・ビジット」は以下のルールに基づき行なわれる。 1.話を進める医師が話すのは全体の半分以下で、残りは参加者が話す。 2.パワーポイントや大きなスライド等の使用禁止。 3.参加者が安心して自分の体験を話せるように、メディカル・グループ・ビジットで話した内容は絶対に外部へ漏らさないという紙に参加者全員が署名する。

 

骨粗しょう症とは

 骨粗しょう症とは、骨にすが入ったようにスカスカになり、そのために骨折しやすくなる病気。骨折する場所によっては、高齢者の寝たきりにつながるため、早めの対策が必要。

 骨がスカスカにならないように、強くするためには、カルシウムが大事。そのカルシウムの吸収を助けるにはビタミンDを一緒に摂ると良いのはよく知られている。ビタミンDを摂るには、肌を日光にさらすのが一番良いとされていて、一日5分でも日光浴をするとビタミンDが体内で作られる。しかし、日焼けした肌ではビタミンDは生成されにくいので、日焼けしていない部分(太ももや、背中など)を日光にさらすのが効果的。しかし残念なことに、バンクーバーの秋・冬・春の9カ月間は日差しが弱く、日光からだけではビタミンDが十分に生成されないので、その期間はサプリメントで補う必要がある。

 骨には骨を壊す細胞(破骨細胞)と作る細胞(骨芽細胞)があり、寝てばかりなど、骨に負荷のかからない生活をしていると、骨は新しく作られず、その結果骨がもろくなる。

 骨を丈夫にするにはランニングやジャンプを含む骨に負荷のかかる運動をすることが望ましい。歩くことも良いが、ただ歩くだけではなく、重いものを持って歩くことによって、骨に負荷をかけ、骨を丈夫にすることができる。買い物に行くときには、車を出入り口からなるべく遠くに止めて、荷物を持って歩くことを習慣にしてみてはどうだろう。

 

マーカーと病気の違い

 田中朝絵氏はまた、骨粗しょう症の説明の中で「マーカー」の話についてふれた。

 骨密度・血液・血圧・コレステロール値などの各種の検査結果をマーカーというが、マーカーは病気ではない。例えば、コレステロール値が高い、という検査結果は病気ではない。本当の病気とは心臓発作、脳溢血や結核などのことをいう。

 コレステロール値が高いと心臓発作になる可能性が高いと言われているので、コレステロール値を下げなければならない。その結果、心臓発作にはならないかもしれないのに心臓発作を恐れ、運動や食事管理をして薬を飲むことになる。この一連の流れ自体が医療システムの問題である。内科の往診の90パーセントは病気ではなく、マーカーへの対処。マーカー(検査結果)を気にする人、またはとにかく検査をたくさん受けて安心したい人が多いが、マーカーが少しでも悪いと、しなくてもよい心配をしたり、摂らなくてもよい薬を摂ったりすることになる。そのため、田中氏は、骨密度やコレステロール値などの各種検査は、極力必要でない患者には勧めないそうだ。

 

なぜ女性ホルモンが重要なのか

 バンクーバー新報で再掲載中の「ドクター杉原の医学アドバイス」を担当する杉原義信(よしのぶ)氏がゲストスピーカーとして参加。女性ホルモンの重要性を説明した。

 女性は閉経すると女性ホルモン(エストロゲン)が急激に減るが、女性ホルモンは骨の新陳代謝を助ける役目をしているため、それが減ると、骨を壊す細胞と作る細胞のバランスが悪くなり、骨がもろくなっていく。その結果、閉経を迎えると三人に一人は骨粗しょう症になるという。

 女性ホルモンは初潮を迎える10歳ごろから18歳までは増えていき、18歳から46歳前後までは横一線で動かないが、50歳手前で一気に減っていく。そのため、閉経を迎える前には骨粗しょう症の予防に力を入れることが肝要。このように、女性ホルモンは外見の女性らしさをつくるだけではなく、骨とも強い関係にあり非常に大事である。

 さらに、女性ホルモンが一気に増える10歳から18歳という時期は骨密度が決まる時期でもある。その期間の食生活が50歳以降に骨粗しょう症になるかを左右する。10歳から18歳までの子供には骨を強くする食事を心がけたい。

 最後に、日本では骨粗しょう症の診断に「壁」を使う、という杉原氏の言葉により、参加者は実際に壁ぎわに立ってみた。かかとを壁につけ、耳・肩・腰のラインが一直線にならない場合は骨粗しょう症の可能性があるそうだ。

(取材 福安 恵子)

 

田中朝絵氏プロフィール
8歳で渡加。生理学と運動学を学んだ後、ブリティッシュ・コロンビア大学医学部を卒業。その後、ノバスコシア州ハリファックスにあるダルハウジー大学でファミリードクターを始め、その後、ブリティッシュ・コロンビアに戻ってからもファミリードクターとして活躍中。現在はリッチモンドとノース・バンクーバーにオフィスがある。医師歴は23年。現在、一番興味のある分野は予防学。

 

 

説明する田中朝絵氏

 

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