被災者支援
地震のあった翌日、日本びいきのピアニスト、サラ・デイヴィス・ビュクナー氏(本紙4月7日号で紹介)が、被災者支援のためのチャリティーコンサートを思いつき、VSOバンクーバー交響楽団社長のジェフ・アレクサンダー氏とピアニストのアレクサンダー恵子さん夫妻に相談したことがきっかけだった。
開演にあたり在バンクーバー日本国総領事、伊藤秀樹氏が日本での現状を報告するとともに、地震発生後速やかにチャリティーコンサートを企画した関係者に感謝の言葉を述べた。
日本びいきの音楽家たち
「加代子さんはこの曲を中田先生ご本人と一緒に弾いたことがあるそうです」と日本語で前置きしたビュクナー氏は、『ちいさい秋みつけた』や『めだかの学校』で知られる日本を代表する作曲家、中田喜直の『春が来て、桜が咲いて』を、ピアニストの勢川加代子さんと連弾した。
VSOチェリストで、バンクーバー・ミュージック・アカデミー講師のジョセフ・エルウォーシー氏も「みなさん、こんにちわ。私はジョセフです」と日本語であいさつ。日本で演奏したこともあり日本のことをとても心配しているというエルウォーシー氏は、世界平和デーに国連本部で演奏されたことのある『鳥の歌』(カザルス)をアレクサンダー恵子さんの伴奏で弾いた。
安らぎの調べ
天使の楽器と言われるハープ。大竹香織さんのソロ演奏のあとは妹の美弥さんが加わり、2台のハープとチェロによる『白鳥』(サンサーンス)を演奏した。誰でも一度は聴いたことのある美しいメロディー。軽やかに弾かれるハープの旋律をバックに、湖の上をすべる白鳥のようにゆったりとしたチェロの音色が響き渡る。心が鎮まり安らぐような美しい調べが流れた。
アレクサンダー恵子さんのピアノ、長井明氏、長井せりさんのバイオリンで構成された『パシフィック・ノース・トリオ』は、『コラージュ』『冬景色』『天使への祈り』(マイケル・コンウェイ・ベーカ-)をしっとりと演奏。『天使への祈り』には、母と折が合わず家を出た息子がこの曲を聴いて心を打たれ、泣きながら母に電話をしたという実話もある。哀愁を帯びた旋律が、母国の惨事を悲しむ心と重なり合う。心にひしひしと迫る演奏が聴衆を包み込んだ。
『管弦のためのレクイエム』
ジェフ・アレクサンダー氏によると、4月2日と4日に行われたVSOのコンサートで、音楽監督ブラムウェル・トーヴィー氏が日本を代表する大作曲家・武満徹氏の『弦楽のためのレクイエム』をプログラムに追加した。
「我ら演奏家は被災者が直面している悲惨な心の百分の一も想像、理解出来ないかもしれません。でもこのレクイエムは、なんだか被災者の心を象徴しているような曲に聴こえてなりません。私はこの曲の出だしの音で胸がいっぱいになってしまい演奏が出来ません」と話すVSO名誉コンサート・マスターの長井明氏は、客席で演奏を聴いたという。
感銘の深い
コンサート
「日本人だけでなくいろいろな方が、何とかして自分に出来ることで助けたいとおっしゃってくださり、大勢の方がボランティアを申し出てくださいました。被災者を支援したいという皆さまの情熱に圧倒され、また感激いたしております」とアレクサンダー恵子さん。当日はブラムウェル・トーヴィー氏が応援にかけつけ、災害で亡くなった人たちへの冥福と被災者への激励を込めピアノを弾くというサプライズもあった。出演者らも「こんなに感銘の深いコンサートは初めてで一生忘れることの出来ない思い出になった」と話していた。
祖国を襲った大震災への悲しみと今後への不安。そんな中で、会場にいたすべての人が日本を思い、心がひとつになった瞬間。終演後に感じた安らぎと感謝の気持ち。音楽が与えてくれる感動とはまさにこういうものだと実感した午後だった。
(取材 ルイーズ阿久沢 / 写真 今泉慶子)
このコンサートのチケット代、終演後の寄付、4月2日と4日のVSOのコンサートでの募金を合わせた$23,660.88ドルは総領事館に届けられ、日本赤十字社に送金されるとのこと。