「GANBARE JAPAN! –a benefit concert for Japan」開幕

4月19日午後7時半、2000人以上が入場したバンクーバーのクイーンエリザベス劇場のステージに、司会役のマーガレット・ギャラガーとテツロー・シゲマツが現れ、「がんばれ」の意味を説明して軽快にスタートした。
スコーミッシュネーションの人々の、場の浄化の思いを込めた歌と踊りの後、会場全体で黙祷。続いて、スクリーンに映し出された壊滅状態の被災地画像のスライドショーをバックに、ココロダンスを主宰するジェイ・ヒラバヤシが舞いを、山城猛夫が尺八演奏を即興で行った。こうしてカナダから日本へと移った空間を、さらにヨーロッパへ導いたのがバンクーバーオペラである。テノールとソプラノの二人の歌い手が伸びやかな歌声で観客を魅了した。そしていよいよバンクーバー交響楽団(VSO)とバンクーバーが生んだ世界に誇るピアニスト、ジョン・キムラ・パーカーの登場となった。
「日本人が大好きなモーツァルトを」と選んだピアノ協奏曲第27番変ロ長調K.595。ピアノを弾きながらVSO
を指揮する、その巧みさ、限りなく繊細で澄んだ音色、世界を静かに大きな愛で包むような演奏に、大きな拍手が贈られた。
その後、被災者支援のために9万ドル寄付したケン・シノザキ氏から、チェックのプレゼンテーションが行われ、前半のステージが終了となった。

 

「この2日間、日本食だけを食べて演奏に臨んだ」―演奏直後、本紙のインタビューに答えてジョン・キムラ・パーカー

「オーケストラに向かって指揮をしながら演奏するのは長井明さん(VSO名誉コンサートマスター)のアイディア。20年ぶりで2回目の試みですが、この方法がとても好きです。このコンサートへの出演依頼を受けた時、すごくうれしかった。トロントやニューヨークからの同じような支援コンサートの依頼を、スケジュールの関係で辞退せざるを得なかった後だけに、今日のステージに出演できるとわかって本当にうれしかったです。そしてこのコンサートをオーガナイズしている人たちの、人、音楽、この企画に対する愛と思いやりに感動しました。音楽を創り出すうえで、これはとても大切なこと。私は特別な思いでこのコンサートを迎えることができました。今回、観客に背を向けて演奏しましたが、演奏し始めた直後から、背中に何かが強く集まってくる感じを受けました。それは聴いている人たちから、過酷な状況にある日本への大きな、そして純粋な支援の思いだと感じました」。
母から受け継いだ日本サイドのルーツは、「自分のパーソナリティに大きな影響を与えてきた」と真剣な眼差しで語った後で、「バンクーバーに来てからの2日間、日本食だけを食べてきたので演奏に日本のスピリットが入っていたはずです」と言って顔をほころばせた。

さらに多くのジャンルの音楽が飛び出した後半のステージ

後半はトワッセンが生んだロックバンド54-40のエレクトリックなサウンドでスタート。次は一転して、メイ・ムーアが、美しいカナダを歌い上げる曲で、ゆったりとメロディアスな音を会場に運んだ。そして登場したのはビル&サフラン・ヘンダーソン親子の歌と演奏。サフランは日本のアニメ『ドラゴンボール』の悟空役など、英語の吹き替えで活躍してきた経験の持ち主でもある。続いてステージを彩ったのは再結成したダグ&スラッグズの陽気なビートの音楽、ザ・ソージャナーズによるゴスペルの極上のハーモニー。ブルース界を沸かせたジム・バーンズもステージに上がり、他の出演者と共に『スタンド・バイ・ミー』ほかを聴かせた。

映像出演で協力したDavid Suzuki(撮影:斉藤光一)

デービッド・スズキも映像で登場

本格派のサウンドが耳を楽しませた後、スクリーンにデービッド・スズキが登場。自然の力のすごさ、被災者が世界に示した日本人の姿勢の素晴らしさ、原発事故で得た教訓について言及した後、豊かで技術の進んだ日本はこの悲惨な状況を乗り越え、よい方へと向かっていけるとの認識をビデオのメッセージで伝えた。

 

あらん限りの力で復興のエネルギーを日本に向けて打ち鳴らした太鼓演奏

ステージのラストを飾ったのは、9つの地元太鼓グループが合同して結成した「Taiko for Tohoku」の演奏だ。60人を超すメンバーが作り出す躍動感あふれる太鼓の響き、はつらつと踊る姿、圧倒的なエネルギーが観客の歓喜の思いを、まさに「鼓舞」して高めに高めた。最後に全員のばちが一斉に天を指すポーズで演奏を終了。満場の拍手喝采、スタンディングオベーションの人々の上に、雪のように降り注いできたのは折鶴。その数は14000を超える。折鶴一つ一つが震災で亡くなった人たちの命を表しているという。
最後にリンダ・オオハマがステージに呼ばれ、感激を胸にしながら感謝の言葉を述べた。日頃、映画制作者として活躍するオオハマは、3月12日に本コンサートの企画を日系コミュニティに提起し、実現へ向けたリーダーである。オオハマへの感謝と慰労の拍手が沸き起こり、観客と出演者、スタッフがひとつになったステージが幕を閉じた。

 

どれだけの手が、思いが、このステージを作り上げたのか

来場者に来場の理由や感想を尋ねると「ジョンが演奏するというので観に来ました。いろんなジャンルが一緒に集まったのがよかった」「ウェブサイトを見て知りました。こんな一度に多様な音楽が聴ける機会はなかなかないこと」「友人が出演しています。太鼓が素晴らしかった」と回答が返ってきた。音楽のジャンルが多様なだけでなく、出演者に観客、サポーターやボランティアが皆、多様なコミュニティから参加し、皆がひとつになって日本で被災した人々への愛を表した今回のコンサート。それはまさに本コンサートの趣旨であったと隣組事務局長のデービッド岩浅さんは語る。
会場のクイーンエリザベス劇場の使用料はバンクーバー市が無償提供。チケットマスターも手数料をサービス。数千ドル単位での個人や団体からのドネーションも多数あり、各界からの資金面の協力も多大なものだった。なお今回のコンサートで集まった10万ドル以上の義援金は、日本総領事館を通じて日本赤十字社に送られる予定だ。


(取材 平野香利)

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