福島近辺だけでなく東京などからの食品も規制対象に
原発事故で日本食品に対する懸念が強まる中、カナダ食品検査庁(Canadian Food Inspection Agency:CFIA)では、3月23日に、福島県、群馬県、茨城県、栃木県からの乳製品、果物、野菜に対する輸入制限を開始した。世界が注目している原発事故は、日本での懸命の努力にもかかわらず、なかなか収束しない。東京都水道局の水道水に放射性ヨウ素が測定されるなどの状況に、食品検査庁は、4月1日付けで、規制強化を発表した。対象となる地域に、宮城県、山形県、新潟県、長野県、山梨県、埼玉県、東京都及び千葉県が加えられた。また制限を受ける品目も、乳製品、果物、野菜だけではなく、全ての食品及び飼料についてとなっている。
今回の規制強化で、食品検査庁はカナダ国境サービス庁(Canada Border Services Agency :CBSA) に対して、日本からの全ての食品、飼料の貨物について、CFIA National Import Service Centreで照会を行うよう指示を行った。CFIA National Import Service Centreはカナダ国内食品検査庁の輸入手続き窓口で、輸入審査を担当する。食品検査庁が日本からの食品や飼料を調べて、カナダの市場に入れるか判断するというものだ。日本からの原材料を用いた食品もこの規制の対象だ。
政府発表で 、4月1日付けで実施が明らかになった規制では、日本から輸入される全ての食品、飼料について、福島県、栃木県、群馬県、茨城県、宮城県、山形県、新潟県、長野県、山梨県、埼玉県、東京都、千葉県の12の都と県以外で生産されたものである場合は、その証明が必要だ。
規制対象となる12都県で生産された食品については、輸入停止ではないものの、基準を超える放射性物質が検出されていないことを証明する必要がある。ただし、震災発生の3月11日以前に、規制対象となった12都県のいずれかで生産、栽培、加工、梱包、保管されたもので、カナダ到着までにこれらの地域以外で保管、輸送されたものであることが証明された場合は、放射性物質の検査は必要ではない。
一方、3月11日以降に12都県で生産、栽培、加工、梱包、保管された食品や飼料については、残留放射能が基準値以下であることの証明が必要となった。
また、日本からの食品や飼料にカナダ政府が認める書類がない場合は、カナダ政府がテストを行い、試験で安全と判断された食品・飼料のみが市場に入ることになる。放射線汚染の可能性を認めた際には、その製品はCanadian Nuclear Safety Commissionの手順にしたがって廃棄処分とされる。
対応に追われる日加両政府
米国食品医薬品曲(FDA)のウェブサイトでは、輸入規制は4月4日現在、福島県、茨城県、栃木県、群馬県の4県で生産、加工された乳製品、野菜、果物のみだ。シーフードを含めたその他食品は、規制対象でなくても、市場に入る前にテストを行うとある。
カナダの規制のほうが厳しいが、「カナダ政府は日本政府などと緊密に連絡を取り、独自で方針を決めていく」という。EUも12都県を対象としているので、カナダはどちらかというとヨーロッパ寄りの対応のようだ。
23日付けの規制内容では、米国と同じく、福島県周辺4県からの乳製品、果物、野菜に対する輸入制限のみだった。今回、東京都や成田空港のある千葉県などからの食品も規制の対象となることが決まったことで、日本政府をはじめ各種機関、そしてカナダ政府も対応に追われている。
たとえば、現在のところ規制内容について、まだまだ明確にする必要がある。食品の原材料も含めるとあるが、どこまで入るかなどについても明瞭さに欠けている。詳細について、食品検査庁に問い合わせたが、ウェブサイトの内容から踏み込んだ回答は5日現在、まだない。世界で放射能汚染の恐れがある地域からの日本食品の輸入を規制する動きが進む中で、まず輸入規制を行うことで、カナダにおける食品の安全、安心の確保を目指したという印象だ。カナダ政府は「カナダの食品供給における安全性を維持するためにも必要に応じて、引き続き調整を行っていく」とある。
ただし、イタリアで愛媛県今治から出荷されたタオルが、放射線検査を求められて通関で止められたと報じられているが、カナダでは今のところはそのような状況は生じていないようだ。
心配なのは風評被害だが、日本政府でも世界各地で放射線の基準値を下回っているとアピールを続けている。また、在カナダ日本国「大使館が、カナダ連邦政府と規制詳細について調整を行い、情報収集に努めている」ほか、「カナダは科学的根拠に基づいた対応で定評があるので、冷静な判断を期待していく」(関係者談)。という。先行きの透明感に欠ける中、今後の情報を待つことになるだろう。
気になる規制による影響
日本からの食品輸入が規制されるということで、気になるのはカナダの家庭や飲食業界などでの影響だ、一部では「納豆の品切れ」の話もあるが、現時点ではロワーメインランドの数店に問い合わせたところ、在庫に問題はなかった。これは多くの企業や店舗などで、震災発生前に送った荷物が3月に入ったばかりのためだ。
23日の規制開始前に到着した荷物については、無事に税関を通過したという。日本でも多くの地域で震災後、さまざまな商品、食品が品薄となり、消費者が困っている。しかし、今のところは、バンクーバーの小売店や卸会社でも品物が足りないということはなさそうだ。
ただし、先行きについて厳しい見方もある。いずみやでは商品の多くを日本から直接輸入しているが、日本国内での集荷に苦労している。関東圏を通過する食品は規制対象になることから、ほかの地域で仕入れに努めているが、「今朝、宮崎でも食品が足りないと言われました」という。「長野や新潟から仕入れていた、あられ、味噌、そばなども規制に入りました」
アジア系スーパー、T&Tスーパーマーケットでは、原発事故以後、日本からの食品輸入の一部をキャンセルした。テレビ局や中国系メディアから日本食品についての問い合わせがあったが、消費者の対応は落ち着いているため、店頭から日本食品を除くといった措置は考えていない。
品薄になった商品については、ローカルで対応するという店もある。「茨城県水戸が有名な納豆については、今後、入荷が困難になるかもしれませんが、その場合は、ローカルで作っている人もいますから」(日本食小売店)
日本でも商工会議所をはじめ、さまざまな機関が各国での輸入規制への対応確保に努めている。カナダに住む私たちも落ち着いて、状況を見定めて対処していきたい。
(この記事は4月5日時点のカナダ政府発表に基づきます。規制状況などは変わる可能性があるのにご留意ください。)
(取材 西川桂子)